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【 映画雑感 】No.224

愛を読むひと


2008年  アメリカ/ドイツ  124分
監督 スティーヴン・ダルドリー
出演
ケイト・ウィンスレット、レイフ・ファインズ、デヴィッド・クロス
ブルーノ・ガンツ、レナ・オリン

  ストーリー
 ベストセラー小説「朗読者」を『めぐりあう時間たち』のスティーヴン・ダルドリー監督が映画化。主人公ハンナを演じたケイト・ ウィンスレットがアカデミー主演女優賞を獲得した。
 1958年、ドイツ。15歳のマイケル(デヴィッド・クロス)は帰宅途中急に気分が悪くなり、通りがかったハンナ(ケイト・ウィン スレット)の介抱を受ける。21歳年上のハンナと恋に落ちたマイケルは、彼女の頼みで、ベッドに入る前に本を朗読するようになる。
 愛を深めていったある日、ハンナは突然姿を消す。8年後、法科学生になったマイケルが彼女と再会したのは、ナチ戦犯を裁く法廷 だった・・・。
 
  一口感想
 年の離れた男女のラヴ・ストーリー、ナチ・ホロコーストの糾弾、などさまざまなテーマが読み取れるが、私がもっとも引かれたの は “識字” に対する偏愛(あるいは欲求)だった。
 ハンナがなぜ非識字なのか生育や過去は分からないが、重要なのは、彼女がそれを大きな疵(きず)として 生きていることだ。ハンナは文字(言葉)に飢え、それから切り離された自分に深く傷ついていたように思う。

 情報は文字以外からでも得られるが、読むことでしか得られないものもある。想像力や思索の深まり、それが促す自己内省・・・。
 「字が読めない・書けない」ことは、自分が意識する以上に自我の核にかかわっていると私は思う。ハンナがセックスの前にマイケルに 本を読むことを求めたのは、それによって自分の内面に降りていく喜びを感じ、それが愛の行為の深まりにもなったからでしょう。

 マイケルが非識字という彼女の秘密に気づくのはずっと後、戦犯の法廷で被告となったハンナに再会してからだ。それを明かせば彼女の 罪は今より軽くなるかもしれない。しかしマイケルはしなかった。その理由を私は考える。
 1つは、少年の頃の彼女との関係が明らかになることへのためらい。さらに深くは、ハンナが他人の罪を被ってまでも守ろうとする秘密を自分が明かしてしまっていいのか、という迷い。こうした逡巡にはインテリとしてのマイケルの弱さが表われている。その悔いが、刑務所のハンナに送り続けた朗読テープになったのではないでしょうか・・・。

 自転車旅行の時、教会の片隅でひっそりと子供たちの歌う聖歌に涙を流していたハンナ。裁判 で罪を責められ、「あなたならどうしましたか?」と裁判長に問いかけたハンナ。
 彼女は無知ではあっても、冷たい人間ではない。驚くほどの率直さも持っている。職務を懸命にまっとうした彼女の心からの問いかけに、まっすぐに答えられる人はいるのでしょうか。

 ハンナは獄中でマイケルのテープを頼りに、字を覚え、読むことを知る。刑期満了が近づいた時、マイケル(レイフ・ファインズ)は 面会したハンナに獄中で何を学んだかと尋ね、「字を覚えた」という答えに失望した顔をする。彼が聞きたかったのは、犯した罪を悔いる言葉だったのかもしれない。

 たしかにハンナは彼女らしい率直さで一番分かりやすい答え方をしたけれど、マイケルが本当の答を知るのは、房内で縊死(いし)した彼女の遺書を見た時だ。彼はホロコーストを生き延びたユダヤ人女性(レナ・オリン)を訪ね、ハンナの遺したお金を渡そうとする。
 しかし女性は拒否する。受け取れば、ナチのしたことを許したことになるから、と。この言葉の厳しさは、ハンナが裁判で見せた率直さとともに、この映画の中でもっとも印象的なものの1つだ。

 読み書きを学んだことでもたらされた内省は、ハンナに過去の罪の自覚を促したのだと思う。わ ずかなお金だけれどユダヤ人に遺すことで、彼女は精一杯の贖罪をしようとしたのでしょう。
 しかし、ユダヤ人女性は「人はよく収容所で何を学んだかと聞くけれど、学ぶことなど何もない。生き延びるだけだ」という。そういう 状況にかかわったハンナの罪は、決して許されることはない。
 自尊感情に深くかかわるもの=“言葉” を手に入れた時、皮肉にも、 ハンナはこれ以上生きることが出来なかったのだ。

 母親ほどにも年の違う女性との愛と性に翻弄され続けたマイケル。映画のラストは原作にはないものだそうだが、ハンナによって封印 された人生を解き放ち、あらたに生き直そうとする彼の思いが感じられる。それが次代を継ぐ娘とともにであることに明るさを感じた。

 硬質なエロティシズムが少年との性愛に瑞々しさを与えたケイト・ウィンスレット、年上の女性との恋に溺れる初々しさが印象的な デヴィッド・クロス、中年になっても若き日の恋の痛みを引きずるレイフ・ファインズ、それぞれが余韻深かった。
  【◎△×】7

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