| 【 映画雑感 】No.222 |
|
ストーリー ベイルートの小さなエステサロンに集う5人の女性たちの恋と友情を描く群像ドラマ。監督は主演、脚本までをこなしたナディーン・ ラバキー。 サロンのオーナーのラヤール(ナディーン・ラバキー)は既婚男性との不倫の恋に毎日振り回されている。ヘア担当のニスリン(ヤス ミン・アル=マスリー)は結婚を間近に控えて過去の過ちに悩み、シャンプー担当のリマ(ジョアンナ・ムカルゼル)は女性に惹かれる 自分に気づく。 一方、客のジャマル(ジゼル・アウワード)は若さと美貌が衰えることが受け入れられず、近所で洋服の繕い店を営む初老のローズ (シハーム・ハッダード)は、同居する姉リリーの世話に追い回され、自分の人生を犠牲にしていた・・・。 キャラメルといっても四角に切った甘い飴ではない。ベイルートの女性は、砂糖に水とレモン汁を加えて煮詰め、手でこねて引き延ば し、足に貼りつけてムダ毛を取るのに使うのだそうだ。
冒頭、カーテンの奥から聞こえる女性の悲鳴は、なまめかしくて、事情を知らなければとてもエロティック。でもほんとうはキャラメル を引きはがす時の痛みの声だ。今では簡単に脱毛ワックスが手に入るけれど、まだこの方法を好む女性が多いらしい。 監督は、エステサロンを経営するラヤールで主演も務めるナディーン・ラバキー。“エル” の表紙を飾ったこともあるという美貌の 持ち主だ。 ラヤールは家庭のある男との不倫に悩んでいる。仕事中でも電話がかかると、店を飛び出して会いに行くほど夢中だ。しかしレバノンで は未婚の女性の一人暮らしが許されないし、ホテルの宿泊も夫婦以外は受け付けない。誕生日を彼と2人きりで過ごそうと思えば、夫婦で あるという証明書を見せなければならない。 ラヤールは証明の要らない場末のホテルで娼婦に間違われながら部屋を取るが、愛人は現れない。妻と別れるつもりはないのだ。いった いどんな男なのだろうと想像(妄想?)が膨らむ。 ラヤールは事情を知らない彼の妻の依頼でネイルの手入れのために自宅にいき、家庭生活をかいま見ることになる。夫を熱愛している 人柄の良さそうな妻、人なつこく愛らしい娘・・・。打ちの
めされて帰るラヤール。男を一度も画面に登場させない演出が上手いなぁと思う。ところで、ラヤールに片想いする警官がいる。面倒見が良くて温かくて、その上すごくハンサム(目元は若い頃のマルチェロ・マストロ ヤンニ似かな)。彼がエステサロンの向かいの喫茶店で、窓際のラヤールと会話する場面が私はすごく気に入っている。 といっても、ラヤールは携帯で愛人と話しながら時々ブラインドの隙間から通りを覗いているだけ。警官にはぜんぜん気づいてない。 警官はラヤールの口の動きに合わせて、自分の思いを語っているだけなのだ。それなのにとてもロマンティック。ズレてるのに時々微妙に調子が合うのが可笑しくも切ない。 近所で洋服の繕い店を営むローズのエピソードはもっと切ない。65歳の彼女は20歳も年上の姉の面倒を見ながら、恋も知らずに 年老いた。そんな彼女の前に老紳士が現れる。彼はローズに仕事を頼むために、店に来るたびズボンの裾を縮める。戸惑いながら、彼を 見上げて微笑するローズ。演じているのはプロの女優ではないそうだけど、奥床しさがとても美しい。
初めてのデートの日、ローズはラヤールの店で髪を整え、鏡に向かって化粧する。皺の多い彼女の顔が艶めいて輝く。しかし、痴呆の進んだ姉の罵声で現実に引き戻される。涙をこぼしながら脱脂綿で化粧を落とすローズに、私も涙がこぼれそうになった。そして、肩を落としてレストランを出る老紳士の裾の短いズボンが画面に映った時も。 レバノンでは年老いた女性の結婚や恋は恥ずべきこととされているそうだ。なんと悲しいことかと思う。それでも、ローズが幼女のような姉の手を引いて、通りを歩いていくラスト・ショットに救われる思いがする。 レバノンは1990年に内戦が終わったと思ったら、2006年には反イスラエルの過激派とイスラエル軍との間でまた戦闘が起こっているのだそうだ。しかし、この映画にはそうした戦塵の匂いはまったく感じられない。描かれるのは、恋や結婚、老いなど女性の普遍的なテーマ。 それらの悩みが厳格なレバノンの文化の束縛によって生まれている一方で、そんな中でもしなやかに生きる女性の強さが印象に残った。 ![]() |