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【 映画雑感 】No.219

コレラの時代の愛


2007年  アメリカ  137分
監督 マイク・ニューウェル
出演
ハビエル・バルデム、ジョヴァンナ・メッツォジョルノ
ベンジャミン・ブラット、カタリーナ・サンディノ・モレノ
ジョン・レグイザモ

  ストーリー
 コロンビアが誇るノーベル文学賞作家、ガルシア=マルケスの同名大河小説の映画化。初恋の女性を50年にわたって想い続ける男の 数奇な人生を描いている。
 1879年のコロンビア・カルタヘナ。貧しい郵便局員のフロレンティーノ(ウナクス・ウガルデ)は、裕福な商人の娘フェルミーナ (ジョヴァンナ・メッツォジョルノ)に一目惚れし、熱烈な恋文を送り続けて遂にその心を射止める。しかし、彼女の父親(ジョン・ レグイザモ)によって2人の仲は引き裂かれる。
 数年後、フェルミーナは医師フベナル(ベンジャミン・ブラット)と結婚する。失意のフロレンティーノ(ハビエル・バルデム)は大勢の女性と関係しつつも、彼女への想いを抱き続けるのだった・・・。

  一口感想
 海外の小説や映画には、時々、とんでもない主人公が登場する。本作のフロレンティーノもその1人。彼は50年以上も一人の女性を 想い続け、その間、600人を超える異性と肉体関係を持つ。あっさり淡白な草食動物の日本人としては「う・・・」と絶句、肉食動物の かの地の人の粘っこさと精力絶倫に頭(こうべ)を垂れるしかない。
 しかし、彼は一目惚れしたフェルミーナを生涯愛するけれど、ストーカーまがいにまつわりつくわけではなく、人生のほとんどを彼女と は別の道を歩む。フェルミーナへの想いは胸の内にだけ生き続けるのだ。そういう意味では、これは希代の純愛物語ともいえる。

 フロレンティーノを演じるのは『ノーカントリー』でアカデミー賞を獲得したばかりのハビエル・バルデム。妙なおかっぱ髪の殺し屋の 記憶が強烈で、“不気味” と感じる向きも多いらしい。
 私は『海を飛ぶ夢』(04)のどこか透明感のある演技が印象に強く、一方で、『夜になるまえに』(00)の同性愛の詩人ではヌメリ感があり、両方がミックスして、本作の一風変わった主人公にぴったりと思った。
 フェルミーナを演じるジョヴァンナ・メッツォジョルノは、美貌に気品、可憐さを兼ね備え、フロレンティーノが恋文の中で「王冠を 戴く女神よ」と称えるのはもっともに思える。イタリアの新進女優だそうだが、ハリウッド女優にはないクラシカルな魅力がある。

 離れ離れの2年を過ごした後、やっと再会したフェルミーナがフロレンティーノをまじまじと見つめて、「私のことは忘れて。私たちの ことは幻想だった」というのが、私はバカに可笑しかった。
 「たった今、あなたを見た瞬間に気づいたの。私の目は曇っていた」だ なんて、随分なことをいうなぁ、と思いつつ、たしかに、目の前にヌーッと現われたバルデムを見たら、100年の恋も冷めるかも、と妙に納得したりして。
 わけが分からずきょとんとするフロレンティーノ。この映画、全編にどことなくユーモラスな味が漂うのは、バルデムのとぼけた個性の せいかもしれない。

 幻想から覚めたフェルミーナは医師ウルビーノと結婚し、嫁姑の確執や夫の浮気など、まさに “現実” を生きていく。それは同時に、 夫とともに手応えのある人生を作り出していくプロセスでもある。

 一方、フェルミーナへの愛を心の中に封印した時、フロレンティーノは実人生の流れを止め、“幻想” の中に止まり続ける。622人 もの女性と関係を持ちながら、「貞節を貫いた」といえるのは、肉体の欲求がフェルミーナへの愛を裏切るものではなかったからだろう。 虫のいい理屈と思わないではないが、これも男性心理の一面かも。
 可笑しかったのは、几帳面にも彼が関係した女性のリストを、感想付きで作るところ。相手はほとんどが一夜限りの娼婦だから、気楽に そんなことが出来たんだろうか。どういう神経なのか、ち ょっと聞いてみたい気がする。

 それはともかく、彼が現実を生きていない証拠は、ウルビーノが死んだその当日に、フェルミーナに愛を告白するところに表われて いる。無神経というより、感覚が浮世離れしている。フェルミーナが激怒するのは当然だ。

 映画のラストは、50年の歳月を超えて2人が結ばれるサマを描くけれど、果たしてこのままうまくいくのかなぁ、とひどく現実的な 思いに捕えられる。フロレンティーノの “幻想” を、フェルミーナが生きてきた “現実” は、受け止められるのかしら。川船で見つめ 合う2人は安らぎに満ちているけれど、私の思いはどうしても悲観的な方向に流れてしまう。
  【◎△×】7

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