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【 映画雑感 】No.208

家族ゲーム


1983年  日本  106分
監督 森田 芳光
出演
松田 優作、伊丹 十三、由紀 さおり、宮川 一朗太
辻田 順一、伊藤 善博、伊藤 克信、戸川 純、阿木 耀子

  ストーリー
 現代家族の抱える問題をクールにかつユーモラスに描いた森田芳光監督の代表作。横一列に並んで食事をする風景や囁くような会話 など、斬新な表現手法が話題を呼んだ。
 大都市近郊の団地に住む4人家族の沼田家、中学3年の次男・茂之(宮川 一朗太)は出来のいい兄・慎一(辻田 順一)と違って 成績も今ひとつ、家庭教師が来てもすぐに辞めてしまうほどの問題児である。持て余した父(伊丹 十三)は新しい家庭教師・吉本 (松田 優作)を雇う。
 彼は3流大学の7年生で、植物図鑑を持ち歩く風変わりな男だ。茂之に勉強ばかりか喧嘩の仕方も教え、茂之は少しずつ成績が上がり 始める。

  一口感想
 この映画の登場人物はだれ1人取っても面白い。まずは、「勉強してるかぁ?」と酔ってニヤニヤしながら子供部屋を覗き込む父親の 沼田。「俺が口を出してバット殺人みたいになったら困るだろう」とか言っても、息子と向き合うのを逃げてるだけなのだ。
 家庭教師の吉本に「クラスの順位が1つ上がったら1万円」と持ちかけ、「すると30番上がったら30万ですか」と言われてギクッと するのが面白い。お父さん、そこまでは考えてなかったんですね ぇ。
 ふんわりおっとりした(とろいだけかも知れない)母親の千賀子(由紀 さおり)は、担任と話し合うのが気が重い、と吉本に代理を 頼む。彼女もやっぱり逃げてるんだけど、「お父さんに怒られますから」と困った顔をされるとちょっと憎めない。
 「ハイハイハイ」と事務的にことを処理して、教師の使命なんて全然感じてないらしい茂之の担任(伊藤 善博)。両親も含めて世間に よくあるタイプを巧みに戯画化した脚本に唸らされる。

 こんな中で、ガールフレンドと結婚するのかと茂之に聞かれ、白いハンカチでスッと冷や汗を拭う家庭教師の吉本は際立っている。 ぐっと顔を寄せ、耳元で囁くような喋り方。身を硬くした茂之:「気落ち悪いですよ」、すかさず「俺だって気持ち悪いよ」。
 千賀子:「吉本さん、顔いいですものね」、沼田:横からしげしげ眺めて「顔、いいかぁ?」、吉本:「顔、いいですよ、僕」。無関心な返事が妙な迫力。思わずグフッと笑いそうになる。
 茂之と一緒にジェットコースター風プラモデルに玉を幾つも転がす時の無心な表情、長男・慎一から茂之の小学校時代の “恥のかず かず” を聞く時の芯から可笑しそうなクスクス笑い。バラバラな家族の中で兄弟と心を通わすのは一匹狼的な吉本なのだ。松田優作なら ではの存在感がある。

 宮川一朗太が演ずる茂之が私は大好きだ。はぐらかすことで実は大人に反抗しているこの年頃の少年の気分が、彼のニヤニヤ(時々 真面目な)顔からとてもよく伝わってくる。上手い。
 ノート一面に「夕暮れ」と書いて、「これで完璧に “夕暮れ” を理解しました」という時の満足そうな顔。彼、この手でいつも新手の 家庭教師を撃退してたんですねぇ、吉本には通用しなかったけど。2人が頬っぺたを引っぱたき合う呼吸なんてほんとに面白い。

 この映画で話題になった横一列に並んだ食事風景、家族全員が正面を向いているのはたしかに奇異な光景だが、おかしかったのは、 5人がぎゅうぎゅうに肩を押し合っていかにも窮屈そうな こと。ふつうこれだけくっ付くのは親密さの表われなんだろうけど、彼らの場合、かえって相手への無関心が強調される。それだけに 吉本が引き起こすラストの大混乱は印象的だ。

 初めてこの映画を見た時、ラストシーンのヘリコプターの音にとても引かれた。千賀子は「なにかあったのかしら」とカーテンを開けて 外を覗くけれど、あったとしても、それは自分に関係ないことなのだ。息子たちは部屋で眠り込み、千賀子も趣味の木彫の手を止めて、 うたた寝を始める。ぬったりと心地よく淀んだ昼下がり。
 じつは私自身、ヘリコプターの音を聞くと不思議に “世はすべてこともなし” という気分になる。倦怠が混ざり合った平穏な日常の イメージと、午後のヘリコプターの音が、私の中で分かちがたく結びついているのだ。

 この物語の登場人物たちはみんなちょっとずつ変っているが、社会の規格から外れるほどの変人でもない。その彼らがすったもんだの 末、午後の濃い陽射しとヘリコプター音の中で、“まどろみ” に収束していく。このシーンを見ると私はいつも、人を抗いがたく溶かし 込む “平凡” とか “日常” とかの魔法のような力を思ってしまうのだ。
  【◎△×】8

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