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【 映画雑感 】No.207

イングリッシュ・ペイシェント


1996年  アメリカ  162分
監督 アンソニー・ミンゲラ
出演
レイフ・ファインズ、クリスティン・スコット=トーマス
ジュリエット・ビノシュ、ウィレム・デフォー、コリン・ファース
ナヴィーン・アンドリュース

  ストーリー
 第2次世界大戦前後の激動の時代を背景に、2組の男女のロマンスが描かれる。作品賞、女優助演賞(ジュリエット・ビノシュ)など、 9部門でオスカーを獲得した。
 1944年のイタリア、全身に火傷を負い、生死の境をさまよう男(レイフ・ファインズ)が野戦病院に運び込まれる。彼は記憶の ほとんどを失っていた。
 看護婦ハナ(ジュリエット・ビノシュ)の献身的な看病と、彼を知る男・カラヴァッジョ(ウィレム・デフォー)の出現で、彼・アル マシーの記憶が少しずつ甦ってくる。それはアフリカでの人妻キャサリン(クリスティン・スコット=トーマス)との狂熱的な恋だった。
 一方、戦争で恋人も親友もなくしたハナは、インド人のイギリス軍伍長キップ(、ナヴィーン・アンドリュース)と心を通わせる。

  一口感想
 冒頭、絹のようになめらかに続く砂漠の光景の、圧倒的なスケールに魅了される。眠るように座席に頭をもたせた女を乗せて、複葉機が その上を飛んでいく。長いスカーフが尾を引いて風になびく。これは終盤のシーン、アルマシーが重傷を負ったキャサリンを 抱いて “泳者の洞窟” に運ん でいく時の、風になびく白い布のイメージと重なりあう。哀切きわまりない壮絶の美。
 看護婦ハナが夜、修道院の庭に置かれたロウソクをたどってインド人のイギリス軍伍長キップの小屋にゆくシーンは、対照的に繊細で やさしい美に充たされる。キップがハナのために用意した光のプレゼント。これは翌日、キップが操るロープで遊泳しながら、ハナが 教会の壁画を見るシーンに続いていく。静かな昂ぶりのなかで抱擁する2人。

 ハナとキップは少しずつたがいの愛に気づいていくが、アルマシーとキャサリンは一目で運命のように恋に落ちる。初めはさり気なく 振る舞っているが、すさまじい砂嵐から生還した後は迸るように結ばれ、恋の陶酔に身を委ねる。
 カイロのホテルで浴槽に浸りながら戯れる2人、クリスマス・パーティが開かれている中庭の回廊で、激しく求め合う2人。こういった 場面に出会うと、欧米映画のラブシーンの巧みさにいつも感 心させられる。周りに大勢スタッフがいて、「アクション」「カット」なんてやっているとはとうてい信じ られない。それほど甘美で官能的だ。

 キャサリンの夫ジェフリーが、妻を深く愛する善良な夫であることも、ストーリーに厚みを加えているように思える。彼は妻の不倫に 気づいた時、暗い眼で苦しみに耐える。そして、最後に「愛してる」という悲痛な絶叫とともに、飛行機を墜落させて死んでいく。
 これが結局はアルマシーとキャサリンの死にもつながるのだ。夫をも巻き込んで、「死」によって完結するしかない2人の出会いは、やはり 運命としか言いようがない。

 今回ほぼ10年ぶりに再見して意外だったのは、ウィレム・デフォーが演じるカラヴァッジョがほとんど印象に残っていなかったこと だ。アルマシーを「裏切り者」と糾弾し、ハナに「彼はあなたが考えるような男でない」と警告する謎の男。彼はアルマシーの何を知って いるのか、アルマシーは彼に何をしたのか。
 カラヴァッジョのアルマシーに対する憎しみと復讐心、さらに赦しにいたる道筋が、アルマシーのキャサリンに対する一途な愛、彼女を 失った痛みの深さを浮き上がらせるだけに、彼の存在がうまく生かされていないのは少々残念な気がする。

 看護婦のハナは戦時下で婚約者、親友と次々に失い、愛する人はみな死んでしまう、自分は呪われていると思っている。彼女が名も ない “イギリス人の患者” を引き取り、献身的に世話をするのは、そうした自分の運命をくつがえしたかったからだろう。
 地雷処理が専門のキップと愛を確かめあった朝、ハナはまたも愛する人を失うのではないかという恐怖に駆られる。近づく戦車で地面が 振動し、キップが地雷処理にてこずるシーンは、地味だけど、とてもスリリングだ。
 キップは雷管を切断し、ハナはジンクスから解放されるが、その代わりのように、キップの信頼する部下が別の地雷で死んでしまう。
 戦場での生と死、そして愛。たがいの想いを胸に収めて、2人は静かに別れる。それでも、修道院を去るハナの眼差しの明るさには、「生」への希望がうかがえて救われる。

 過去と現在、アフリカとイタリア、時空を超えて展開されるスケールの大きさと迫力が素晴らしい。本作でアカデミー賞を獲得した ジュリエット・ビノシュとともに、個人的にはレイフ・ファインズの迫真の演技にもオスカーを上げたかった。
  【◎△×】8

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