HOME雑感LISTシネマTOP




【 映画雑感 】No.202

男はつらいよ ぼくの伯父さん


1989年  日本  106分
監督 山田洋次
出演
渥美 清、倍賞 千恵子、後藤 久美子、檀 ふみ、吉岡 秀隆、
絛 正巳、三崎 千恵子、前田 吟、太宰 久雄、佐藤 蛾次郎、笠 智衆
尾藤 イサオ、今福 将雄、夏木 マリ、笹野 高史、関 敬六

  ストーリー
 長寿人気シリーズ「男はつらいよ」の第42作。本作より満男の恋人役として後藤久美子が登場する。
 さくら(倍賞 千恵子)と博(前田 吟)の一人息子・満男(吉岡 秀隆)は浪人中の身だが、高校時代の後輩・泉(後藤 久美子)に恋 をして勉強が手に着かない。旅から帰った寅次郎(渥美 清)は、さくらの頼みで満男を料理屋に連れて行って悩みの相談相手になる。
 その夜、父親・博と大喧嘩した満男は、家出して、泉のいる佐賀へとバイクを走らせる。
 彼女が身を寄せる叔父夫婦(尾藤 イサオ・檀 ふみ)の家を探し当てるが、1人で訪ねる勇気がない。偶然、旅に出ていた寅次郎と 再会した満男は、一緒に行ってくれと頼むのだが・・・。

  一口感想
 タイトルの「ぼくの伯父さん」というのがなんとも言えずいい。もちろんジャック・タチの『ぼくの伯父さん』(58)のモジリだが、 満男の寅さんに対するホンワリした親密感が表れている。本作はまさに “伯父さん” としての寅さんの存在感が十二分に発揮された 作品だ。

 浪人生の満男は、「勉強しろ」という両親の無言のプレッシャーを嫌というほど感じているが、それどころではない。高校の後輩、 及川泉のことが頭から離れなくて、勉強が手に着かないのだ。
 恋の悩みなんてぜったい親には言えないことだ。序盤のさくらと満男の やり取りなんて、見ていてほんとに身につまされる。何てことない言葉が掛け違って、どんどんドツボにはまっていく。
 親ってたいていワンパターンの発想しかしないし、それが分ってるから、子どもも素直になれない。ほんとに親子くらい難しい関係は ない。こういう時が伯父さんの出番というわけだ。

 寅さんが料理屋で満男に話す言葉がじつに深い。満男が「恋って美しいものを美しいって思うことでしょ」「でも僕は違う。彼女の唇 とか胸のことを考えるんだ」とやっとの思いで打ち明けると、こう諭すのだ。「博が3年間、じっとさくらを恋していた時、何を考えて いたと思うか?」「お前と同じことだぞ。そういう親父をお前は不潔と思うのか」。
 これには私は正直まいった。ほんとに寅さん、いいことを言うなぁ。父親を愛し信頼している子どもなら、これくらいストンと胃の腑 に落ちる言葉はないんじゃないかなぁ。じっさい、満男の顔も「そうかぁ〜」というように明るくなる。

 とはいえ、満男はその夜博と喧嘩して、佐賀に引っ越した泉に会うために家出する。小さなリュックをしょって、国道をバイクを 走らせる満男の姿はまさに胸キュンものだ。バックに徳永英明の甘ったるい歌声が流れて、青春真っ盛りの満男に愛おしさが溢れそうに なる。
 泉をバイクの後ろに乗せて吉野ヶ里へ走る姿もいい。かねがね思っていることだが、‘少年と自転車’ ‘若者とバイク’ ほど似合う ものはない。“青春” は爆発(冒険、と言い換えてもいい)しなきゃいけない時がある。「いつ」「どこで」「どんな形で」が問題だけ ど、満男はいい爆発のさせ方をしたんじゃないかな。

 寅さんは本作では満男の恋を見守る頼もしい伯父さんだ。泉の叔父が満男を非難すると、きっぱり甥を庇う気概を見せる。今回、寅 さんの恋物語はなかったけれど、今までになく素敵な寅さんに出会えた気がする私だ。
 初登場の泉役の後藤久美子も、満男のマドンナにふさわしい清々しさだ。2人の稚ない恋がこれからどう成長していくのか、シリーズ の新しい楽しみが出来た。


 *メモ1 : オープニングはこのところレギュラー陣のナレーションで始まる。本作は満男が「ぼくの伯父さん」について観察の鋭い ところを披露し、笑いながらも頷いてしまう。
 *メモ2 : “とらや” の従業員、三平ちゃんはおとなしすぎて、これまでほとんど存在感がなかったが、本作では少しは台詞も あって、「あ、いたか」くらいには印象に残るようになった。

 *メモ3 : 満男を “とらや” はもちろん商店街の人が総出で出迎える。拍手で迎えられる家出人なんて見たことない。みんないい人 たち。けどちょっと甘い。父親の博だけは「謝るまでは許さん」と頑固ぶりをみせる。満男も素直に「すみませんでした」と頭を下げる。 これでいいのだ。

 *メモ4 : 満男が佐賀から帰る途中、“とらや” に電話する時に使うのはテレフォンカード。一方寅さんは相変わらず10円玉を 継ぎ足しながらの赤電話。吹く風に寒そうに衿を立てて受話器を握る寅さんには、やっぱり10円玉の電話が似合う。
  【◎△×】7

▲「上に戻る」