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【 映画雑感 】No.199

男はつらいよ 寅次郎物語


1987年  日本  102分
監督 山田 洋次
出演
渥美 清、倍賞 千恵子、秋吉 久美子、五月 みどり、伊藤 祐一郎
下絛 正巳、三崎 千恵子、前田 吟、太宰 久雄、佐藤 蛾次郎、笠 智衆
吉岡 秀隆、美保 純、すまけい、笹野 高史、松村 達雄、関 敬六

  ストーリー
 寅次郎が父を亡くした少年と母親探しの旅に出る、長寿人気シリーズ「男はつらいよ」の第39作。
 ある秋の日、秀吉(伊藤 祐一郎)という名の少年が寅次郎を訪ねて “とらや” にやってくる。彼は寅次郎(渥美 清)の香具師仲間、 “般若の政” の息子で、母親ふで(五月 みどり)は蒸発し、父親は急死したという。寅次郎はふでが紀州の旅館で働いていることを 突き止め、秀吉を連れて和歌山へ向かう。しかし、彼女はすでに辞めてほかに移っていた。
 その夜、秀吉は疲れから高熱を出す。子どもに馴れない寅次郎はすっかりうろたえるが、隣室に同宿していた化粧品の移動セールス員 の高井隆子(秋吉 久美子)という女性が、献身的に看病してくれる。彼女に仄かな思いを寄せる寅次郎だが・・・。

  一口感想
 冒頭、満男の大学受験の話が出てきてびっくりした。ついこの間まで小学生だったはず、とメモをひっくり返してみたら、シリーズが 始まったのが69年。この時にさくらと博が結婚しているから、翌年生まれた満男はもう17歳。月日の経つのはほんとに早い。
 満男は進学しないと言い出し、寅さんに「生きるってどういうこと?」と質問したりする。思春期の悩みにぶつかり始めているらしい。 つまりは順調に成長してるってことなんだけどね。

 ところで、本作はシリーズの中ではそうとうに異色だ。寅さんともっとも深いかかわりを持つのは、マドンナではなく、母親が蒸発し 父親に死に別れた少年なのだ。寅さんは彼と母親探しの旅に出る。
 旅先で彼はなんと少年・秀吉の父親に間違われてしまう。結婚もままならない寅さんが、一挙に親になってしまうのだ。その上、偶然 出会ったマドンナ・隆子とは「とうさん」「かあさん」と呼び合う仲になる。この辺り、寅さんの家庭への憧れが仄見えて、なんか 切ないなぁ。
 可笑しいのは、さくらが寅さんに電話する場面。女性が出てきてまずびっくり。「この人はだれ?」と思う間もなく「とうさん」と 呼ばれて「あいよ」と寅さんが電話口に。今度は寅さんがさっきの女性を「かあさん」と呼ぶ。“とらや”の面々の頭の中は「?」の オンパレード。こういう行き違いは寅さんのお手のものだけど、いつ見てもやっぱり笑ってしまう。

 マドンナ役の秋吉久美子が、独身なのに「かあさん」と呼ばれて「はい」とけろっとした調子で返事する、こういう役柄がとても うまい。『異人たちとの夏』(88)でも、自分より年上の風間杜夫の母親を澄ました顔で演じていた。からっとした肌合いの自然体。 独特のムードのある女優だと思う。
 隆子は化粧品の移動セールスの仕事をしていて、旅から旅への暮らしはリリーと似ている。こういう女性が寅さんはやっぱり相性が いいようだ。男の苦労も十分知っていて、身籠った子どもを堕した過去もある。そんな下地が、秀吉の急病で寅さんがうろたえている時、 見ず知らずなのにさっさと世話をし、「かあさん」と呼ばれるとすんなり返事し、につながっているのだろう。彼女も寅さんと同様、 擬似家族の味を噛みしめていたのかもしれない。

 秀吉の病状が峠を越して一息ついた2人は、近くのお寺にお参りしながら、初めて名乗りあう。ここはしみじみした人生の哀感が漂い、 いい場面だ。このあと2人はあっさりと別れて、以後出会うことはない。マドンナの登場場面としては異例の短さだが、その分かえって 余韻が深い。後期の作品の中では佳作に入る出来だと思う。
 それにしても、秀吉の父親の “般若の政” もロクな死に方じゃないなぁ。寅さん、こういう昔の仲間の死にざまを見るたびに、渡世 稼業の行く末を思っちゃうんじゃないかな。といって、今更真っ当な仕事に鞍替えも出来ない。気のせいか、この頃は旅先ではポンシュウ と一緒のことが多い。2人が冗談を言い合ったり、サクラになったりしながら商売しているのを見るとホッとする。シリーズが終わりに 近づいているというこちらの思いもあるのかも・・・。

 *メモ1 : 冒頭の夢で寅さんが16歳で家出するいきさつが語られる。前作辺りから、オープニングが変わりだしている気がする。
 *メモ2 : 秀吉の名付け親は寅さん。「出世するいい名だ」というけど、「こんな名前付けられて迷惑だよ」というおばちゃんのほう が常識的でしょうね。寅さんの世間とのズレが出ています。
  【◎△×】7

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