| 【 映画雑感 】No.199 |
ストーリー
寅次郎が父を亡くした少年と母親探しの旅に出る、長寿人気シリーズ「男はつらいよ」の第39作。ある秋の日、秀吉(伊藤 祐一郎)という名の少年が寅次郎を訪ねて “とらや” にやってくる。彼は寅次郎(渥美 清)の香具師仲間、 “般若の政” の息子で、母親ふで(五月 みどり)は蒸発し、父親は急死したという。寅次郎はふでが紀州の旅館で働いていることを 突き止め、秀吉を連れて和歌山へ向かう。しかし、彼女はすでに辞めてほかに移っていた。 その夜、秀吉は疲れから高熱を出す。子どもに馴れない寅次郎はすっかりうろたえるが、隣室に同宿していた化粧品の移動セールス員 の高井隆子(秋吉 久美子)という女性が、献身的に看病してくれる。彼女に仄かな思いを寄せる寅次郎だが・・・。 冒頭、満男の大学受験の話が出てきてびっくりした。ついこの間まで小学生だったはず、とメモをひっくり返してみたら、シリーズが 始まったのが69年。この時にさくらと博が結婚しているから、翌年生まれた満男はもう17歳。月日の経つのはほんとに早い。 満男は進学しないと言い出し、寅さんに「生きるってどういうこと?」と質問したりする。思春期の悩みにぶつかり始めているらしい。 つまりは順調に成長してるってことなんだけどね。 ところで、本作はシリーズの中ではそうとうに異色だ。寅さんともっとも深いかかわりを持つのは、マドンナではなく、母親が蒸発し 父親に死に別れた少年なのだ。寅さんは彼と母親探しの旅に出る。 旅先で彼はなんと少年・秀吉の父親に間違われてしまう。結婚もままならない寅さんが、一挙に親になってしまうのだ。その上、偶然 出会ったマドンナ・隆子とは「とうさん」「かあさん」と呼び合う仲になる。この辺り、寅さんの家庭への憧れが仄見えて、なんか 切ないなぁ。 可笑しいのは、さくらが寅さんに電話する場面。女性が出てきてまずびっくり。「この人はだれ?」と思う間もなく「とうさん」と 呼ばれて「あいよ」と寅さんが電話口に。今度は寅さんがさっきの女性を「かあさん」と呼ぶ。“とらや”の面々の頭の中は「?」の オンパレード。こういう行き違いは寅さんのお手のものだけど、いつ見てもやっぱり笑ってしまう。 マドンナ役の秋吉久美子が、独身なのに「かあさん」と呼ばれて「はい」とけろっとした調子で返事する、こういう役柄がとても うまい。『異人たちとの夏』(88)でも、自分より年上の風間杜夫の母親を澄ました顔で演じていた。からっとした肌合いの自然体。 独特のムードのある女優だと思う。 隆子は化粧品の移動セールスの仕事をしていて、旅から旅への暮らしはリリーと似ている。こういう女性が寅さんはやっぱり相性が いいようだ。男の苦労も十分知っていて、身籠った子どもを堕した過去もある。そんな下地が、秀吉の急病で寅さんがうろたえている時、 見ず知らずなのにさっさと世話をし、「かあさん」と呼ばれるとすんなり返事し、につながっているのだろう。彼女も寅さんと同様、 擬似家族の味を噛みしめていたのかもしれない。 秀吉の病状が峠を越して一息ついた2人は、近くのお寺にお参りしながら、初めて名乗りあう。ここはしみじみした人生の哀感が漂い、 いい場面だ。このあと2人はあっさりと別れて、以後出会うことはない。マドンナの登場場面としては異例の短さだが、その分かえって 余韻が深い。後期の作品の中では佳作に入る出来だと思う。 それにしても、秀吉の父親の “般若の政” もロクな死に方じゃないなぁ。寅さん、こういう昔の仲間の死にざまを見るたびに、渡世 稼業の行く末を思っちゃうんじゃないかな。といって、今更真っ当な仕事に鞍替えも出来ない。気のせいか、この頃は旅先ではポンシュウ と一緒のことが多い。2人が冗談を言い合ったり、サクラになったりしながら商売しているのを見るとホッとする。シリーズが終わりに 近づいているというこちらの思いもあるのかも・・・。 *メモ1 : 冒頭の夢で寅さんが16歳で家出するいきさつが語られる。前作辺りから、オープニングが変わりだしている気がする。 *メモ2 : 秀吉の名付け親は寅さん。「出世するいい名だ」というけど、「こんな名前付けられて迷惑だよ」というおばちゃんのほう が常識的でしょうね。寅さんの世間とのズレが出ています。 【◎○△×】7 |