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【 映画雑感 】No.198

男はつらいよ 知床慕情


1986年  日本  107分
監督 山田 洋次
出演
渥美 清、倍賞 千恵子、竹下 景子、三船 敏郎、淡路 恵子、下絛 正巳
三崎 千恵子、前田 吟、太宰 久雄、佐藤 蛾次郎、笠 智衆
吉岡 秀隆、美保 純、すまけい、赤塚 真人、関 敬六、イッセー 尾形

  ストーリー
 長寿人気シリーズ「男はつらいよ」の第38作。渥美清と三船敏郎の豪華な初顔合わせが話題となった。80年代の同シリーズを代表 する1本。
 久しぶりに帰った “とらや” でいつもの口論がはじまり、北海道・知床にやって来た寅次郎(渥美 清)は、無骨な獣医・順吉 (三船 敏郎)と知り合う。やもめ暮らしの順吉のことは、スナックの女主人・悦子(淡路 恵子)がなにくれとなく面倒を見ていた。
 寅次郎がそのまま彼の家に厄介になっていると、駆け落ちして東京で暮らしていた順吉の娘・りん子(竹下 景子)が、結婚に失敗して もどってくる。悦子や町の人はりん子を温かく迎えるが、順吉だけは頑なな態度を崩さなかった。

  一口感想
 満男が半年見ない間にシュルッと背が伸びてずいぶん大人びてきた。一方でおいちゃんは風邪をこじらせて肺炎を起し、弱気になった おばちゃんは店を閉めようかと言い出す。こんなところが長寿シリーズのよさだ。時の流れがうまい具合に織り込まれ、まるで “とら や” と親戚付き合いしている気持ちになる。

 こんな時に思うのは、御前様ではないけれど「跡取り息子は一体どうしているのか」「困ったぁもんじゃ」ということ。その “とら や” の跡取り息子・寅さんが旅しているのは北海道・知床。ここで出会う獣医が三船敏郎。
 この人、俳優としてけっして器用じゃないけれど、無骨な持ち味を山田監督はじつにうまく生かしている。順吉は一回ではエンジンが かからぬ車を運転している。これは彼の不器用さの象徴だ。偶然出会った寅さんに無遠慮に車体を蹴っ飛ばさせたりする。この後は車に 乗るごとに「お、一回で(エンジンが)かかった・・・!」 寅さんが来てから万事順調、というのがうまく出ている。

 家に到着すると、「お茶でも飲まんか」と寅さんを引き止める。根はとても寂しがり屋なのだ。駆け落ちした娘が、結婚に失敗し帰って くると分ると、無精ひげをきれいに当たり、箒でバタバタ床を掃く。埃が舞い上がる。ふだんの不精とやもめ暮らしの侘しさがさらりと 出て、演出が細かい。
 親子水入らず、と大人の配慮で帰りかけた寅さん、りん子を見てそのまま居座っちゃう。この辺り、いつもの寅さんがそのまま出て います。
 順吉はいざ娘を前にすると、なんと言って迎えたらいいか分らない。寅さんからくれぐれも釘を刺されていた禁句、「なんで帰って 来たか」を言ってしまう。素直に愛情を示せない男親の悲しさだ。脇で寅さん、「あ〜〜あ」。

 本作は、この順吉親子の情愛と、彼とスナックのママ・悦子との恋に、寅さんがうまくからんで、久しぶりの佳作に仕上がっている。 印象的なのは、寅さんが初老の男の心情をとてもよく分っていること。あまりの気難しさに町のみんなが敬遠する順吉を、寅さんだけは 「可哀想でしかたない」という。
 この台詞が寅さんの口から出てくるたびに、私は胸がジンとする。外れ者の寂しさと、それゆえの人恋しさを、寅さんくらい知ってる 人はいないんじゃないかな。

 それでも寅さんには “とらや” という帰っていく場所がある。順吉にはがらんと殺風景な家があるだけだ。若いりん子はいずれまた出て行くだろうし、このまま順吉は老いの一徹に凝り固まっていくんだろうか。三船敏郎の佇まいからはそんな人生の黄昏の寂寥感が漂う。

 草原のバーベキュー・パーティの場面は圧巻だ。ママの悦子が「店を畳んで故郷に帰ることにした」とみなに告げる。みんなから 離れて頑固な横顔を見せている順吉。寅さんが「男なら勇気をだせ」と順吉にいう。ここでの寅さんはいつものおっちょこちょいとは 違う。大人のゆとりがある。
 順吉は眉間にシワを寄せ、仁王様のように突っ立ったまま、言葉が喉元で止まって出てこない。無理やりつかみ出すように「行ったら いかん」「ワシが許さん」。
 寅さん、何でか、としつこく聞く。ついに順吉、「惚れているからだ!」 そのあとがいい、「ワルイか!」 悪くありません、上出来です。思わず嗚咽する悦子。のっしのっしと元いた場所に戻る順吉が妙に愛らしい。

 感激した寅さんとりん子が手を握り合って立っている姿はまるで兄妹みたい。寅さんは毎回マドンナに恋する必要はないんじゃないか なぁ、こんな関係でもいいと思う。竹下景子がマドンナの2作はどちらも出来がいい。監督との相性がいいのかな。
 21年ぶりの映画界復活の淡路恵子、さらりとしたなかにも貫禄を感じさせる。三船も初老の男の魅力が十分に出ていた。“とら や” では甘えと我が侭が出て、ちっとも大人にならない寅さんだが、旅に出るとわけ知りのいなせなお兄ィさんになる。そんなシリーズ 初期の寅さんを思い出させる一作だった。

 それにしても、寅さん、“とらや” に帰るとどうしてああ幼児性丸出しになっちゃうんだろう。おいちゃんの病気を知って、「俺、 なんだってやる」と言いながら、あれはイヤ、これはダメ。おだてられての店番だって、からきし役に立たない。満男にまで「反省しろ よ」って説教される始末だ。
 さくらに「真面目に働いて」って言われてしょげる寅さんだけど、テキヤ商売を彼は真面目にやってるのよね。といって、さくらの 気持ちもよく分る・・・。
 *メモ:今回は冒頭に恒例の寅さんの夢がなかった。代わりに寅さんのナレーションで簡単な生い立ちが語られた
  【◎△×】7

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