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【 映画雑感 】No.197

手紙


2006年  日本  121分
監督 生野 慈朗
出演
山田 孝之、玉山 鉄二、沢尻 エリカ、吹石 一恵、尾上 寛之
田中 要次、吹越 満、風間 杜夫、杉浦 直樹

  ストーリー
 毎日新聞日用版に連載され、大反響を呼んだ東野圭吾の同名小説の映画化。犯罪加害者の家族が受ける社会差別をテーマに、“真の 贖罪” の意味を問うている。
 リサイクル工場に勤める直貴(山田 孝之)には、強盗殺人罪で服役中の兄がいる。兄・剛志(玉山 鉄二)は直貴を大学に進学させる ための学費欲しさに、過って老婦人を殺してしまったのだ。直貴は食堂で働く由美子(沢尻 エリカ)の好意もはねつけ、人目を避けて 暮らしながら、獄中の剛志と手紙のやり取りを続けている。手紙が兄にとって唯一の生きがいと知っているからだ。
 元服役囚の同僚(田中 要次)に励まされ、直貴は中学時代からの親友(尾上 寛之)とコンビを組んで「お笑い」の世界を目指すの だが・・・。

  一口感想
 この映画はストーリーとしては甘いところがいっぱいある。それでも私はこの映画に言いようのない感動を覚えた。その理由を今から 書こうと思う。

 直貴は犯罪者の兄を持ったことで進学、「お笑い」の世界での成功、初めての恋、と次々に夢を奪われていく。そして就職した家電 販売会社では、業績を上げているにもかかわらず支店の倉庫係に左遷される。いつもどこからか兄のことが洩れて、直貴の人生を潰して いく。兄がいる限り、 差別は付いて回る。差別のないところに行きたい。

 そんな彼の前に現われたのが、家電販売会社の会長・平野(杉浦 直樹)だ。彼は「だれでも犯罪からは遠いところにいたい。それは 自己防衛本能だ。犯罪者の家族が差別を受けるのは当然なんだ」という。
 この言葉は重い。差別がいけないことはだれでも分っている。 自分はされる側に回りたくないと思い、自分なら差別はしないと思う。
 平野はそうした綺麗ごとではなく、現実を見たところから言葉を発している。彼は言う、「差別のないところを探すのでなく、ここ から始めるのだ」と。さらに、「君が差別されることもお兄さんが犯した罪の一部なのだよ」とも。これは “罪” というものの核心を 衝いた言葉だと思う。犯罪とは、被害者だけでなく、自分の家族に対しても罪を犯すことなのだ。
 平野が突然ここに現れたストーリー上の不自然さは、これらの言葉の深さを前にして影が薄くなる。杉浦直樹の年輪を刻んだ温かな 表情が印象深い。

 ストーリーは、直貴が由美子と結婚し、平穏な暮らしを築き始めた終盤に入ってにわかに展開し始める。幼い娘ミカさえも差別にさら されていることを知り、直貴は「引っ越そう」と言う。しかし由美子は「ミカは何も悪いことをしていない。だからどこにも逃げない」 と言い切る。「私たち3人は何 も悪いことをしていない。だから堂々と道の真ん中を歩く」と。
 凛とした強さに、不甲斐なくも、つい涙がこみ上げそうになる。由美子を演じる沢尻エリカは、メガネを掛けた工員姿の愛らしさが 印象的だが、結婚後は毅然とした中に清々しさを見せる好演ぶり。こうした台詞も浮き上がることなくストーリーに定着させている。

 剛志は両親の死後、成績のいい直貴を進学させたいばかりに無理をし、そのあげくの強盗殺人だった。直貴には兄をそこに追い込んだ のは自分だという負い目がある。しかし彼は初めて、剛志が自分たち家族に対して犯している罪に目を向け、兄と絶縁する決意をする。 そして、それを伝える最後の手紙を送る。

 直貴はその後、被害者の家族を事件後初めて訪れる。本作で私がもっとも感動した場面だ。被害者の長男・緒方(吹越 満)は、仏壇に 焼香させてほしいという直貴の申し出を拒絶する、「母を殺したのは貴方ではない」という理由で。安易な謝罪は受け付けないという 厳しい遺族感情が表われている。
 しかし、そのあと彼は座を外すと一束の封書を持って戻る。それは剛志が刑務所から送り続けた手紙の束だった。緒方は「手紙を受け 取るのも読むのも苦痛だ。送らないでくれと何度も断わったが、それでも送ってくる」と言いつつ、1通の封書を直貴に渡す。それには、 弟から絶縁の手紙が来て、初めて自分の罪の本当の意味を知った。手紙は自分の気が済むために書いていたのだと気づいた。申し訳な かった。これを最後の手紙にしたい、ということが書いてあった。

 直貴が手紙を握りしめて嗚咽する姿に、私は思わず涙がこぼれそうになった。さらに、緒方の「もうこれで終わりにしましょう」と 言葉にも。「この6年、貴方も私も十分に苦しんだ。もう終わりに しましょう」。
 緒方を演じた吹越満は名前も顔も初めて知る俳優だが、 ほんとうにうまい。硬い表情のなかに、赦したくても赦せない無念さ、同じように苦しむ加害者家族の直貴への同情、剛志の謝罪は受け止めたい、という思いが滲み出る。
 どれほど嘆き怒り憎んでも、奪われた家族は帰ってこない、もう終わりにして、これからは前を向いて生きる。これは身を切るような 苦渋の末の決断だろう。しかし彼のこの言葉で私はどれほど救われた気持ちになっただろう。

 直貴が原作と違って「お笑い」を目指す設定になっているのは、ラストシーンで納得がいった。手紙のナレーション以外はほとんど 台詞のない剛志役の玉山鉄二の圧倒的な存在感。直貴に扮した山田孝之はあか抜けない風貌ながら、誠実さを感じさせる演技は役には まっていたと思う。

 この映画は、真の贖罪とは何か、という重いテーマを突きつける。そして真実を衝きながらも、なおその真実を見すえ、生きることを 励ます言葉がいくつも散りばめられている。現実は映画のように行かないことはよく分っていても、その真摯さが真っ直ぐに胸に入って くる。
  【◎△×】7

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