| 【 映画雑感 】No.189 |
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ストーリー 自殺の名所として知られる富士山麓・青木ヶ原樹海に繰り広げられる、4つの物語を描く。 第1話 : 暴力団にそそのかされて大金を横領した公団職員・朝倉(萩原 聖人)は、樹海に遺棄されるが一命を取り留める。森をさま よううちに、首吊り自殺しようとしている中年男に出会うが、止めずに行き過ぎてしまう。 第2話 : 悪徳金融の取り立て屋・タツヤ(池内 博之)は、夜逃げした女性客から、自殺しようと入った樹海で怪我をした、と助けを 求める携帯が入り、現場に赴くが・・・。 第3話 : サラリーマンの山田(津田 寛治)は、三枝(塩見 三省)という私立探偵に呼び止められ、樹海で自殺したという見知らぬ 若い女と自分が一緒に写っている写真を見せられる。必死に思い出そうとする山田だが・・・。 第4話 : 駅の売店で働く映子(井川 遥)は、かつて “ストーカー” 行為をした相手と思いがけない形で再会するが、彼が映子を 覚えていないことにショックを受ける・・・。 4つのエピソードのうち、第1話と第2話は登場人物の1人喋りでストーリーが進んでいく。 第1話の朝倉が喋る相手は、なんと首吊り自殺した中年男だ。“田中さん” というその男は借金
苦から自殺し、5000万円の保険金を家族に残そうとする。しかし、こんなところで自殺したんじゃ遺体は発見されないだろうし、そうなれば保険金も下りない。それに気づいた朝倉は、“田中さん” の間抜けな死と自分の愚かな犯罪を重ね合わせる。ここで起きる死者と生者の奇妙な連帯。 朝倉は死者とともに夜を過ごすのだが、「田中さん、臭いがきつくなりましたよ」などと話しかける言葉が、なんともいえぬおかしみと哀感を誘う。 “田中さん” がじつは帰り道を迷わないように記しをつけていたことに気づいた時、朝倉は「彼は本当は死にたくなかったんじゃない か」「(首吊り直前に出会った時)自殺を止めるべきではなかったか」と思い至る。そして、自分は生還して、彼がここで死んでいる ことを家族に知らせようと決意するのだ。 萩原聖人の台詞回しは、現実感覚の喪失を引き起こす独特のムードを持っていて、印象に残る。オープニングは紹介的に触れるのみ、 エピソードのほとんどは映画の最後に語られ、第1話
が映画全体を包む構成になっている。第2話の主人公タツヤが喋る相手は、樹海のどこかにいるはずの若い女性。自殺しに来たはずなのに、足を挫いて動けなくなった、と 自分を自殺に追いこんだ当の金融の男に携帯でSOSを出す。 考えたらずいぶん矛盾した話だが、男のほうも「なんで俺が」と頭に来ながらも、なぜか必死に彼女を捜し求める。 タツヤを演じる池内博之が、携帯に向かって怒鳴りまくりながらも、どこか人の好さを覗かせて好演。樹海をさまよううちに、少年 時代のトラウマが甦り、それが女性への共感へと変化していうサマが無理なく納得させられた。 第3話はがらりと趣きが変わり、樹海は直接的には出てこない。退社時のサラリーマン・山田を探偵社の中年社員・三枝が呼び止める。 山田が飲み会で偶然隣り合わせた女性が樹海で自殺し、その両親の依頼で、彼女の生前の情報を集めているというのだ。 三枝は、両親のために女性の生前の楽しい思い出だけを集めたいのだという。こわもて風のい
かつい顔の塩見三省だが、大きな目が誠実で、人柄の温かさを感じさせる。酒を酌み交わしながら自殺した女性のことを話すうちに、2人はいつしか自分のことを語り始める。三枝は病気で妻を亡くし、会社を 首になったこと、探偵社に勤めてまだ日が浅いこと。山田はマイホーム購入で、片道3時間を通勤し、何十年のローンを抱えていること、 などなど。 話のはしばしにやる瀬ない生活感が滲み、自分もその場にいるような共感を覚える。賑やかだった居酒屋の客が減り、最後は2人だけになる情景がいい。三枝が無神経な女店員に「人の生き死にの話をしてるんだ」と思わず怒鳴る場面もよかった。 居酒屋に入る前に、山田が携帯で交わす妻との会話が、彼のしがない暮らしを浮き彫りにし、効果的な伏線になっていると思った。 一旦別れた後、山田が小さく畳んだへそくりの1万円を引っ張り出して、「もう1軒行きましょう」と
三枝に声をかける。夜の町に並んで遠のく2人の後ろ姿に、人生のしみじみした味わいを感じた。4つのなかで、私がもっとも心引かれたエピソードだった。第4話の女性ストーカーの話は個人的にはやや印象が薄かったが、電車の発着にあわせて、潮のように満ち、引いて行く人の流れを駅の売店の内側から眺める視点が新鮮だった。 4つのエピソードはゆるやかにつながり合い、全体としてのまとまりを持つように巧みに構成されている。「死」を題材としながら、 その先に「生」を捉えたストーリー運びには温かみがあり、心地よい鑑賞後感があった。 【◎○△×】7 |