| 【 映画雑感 】No.177 |
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ストーリー 中南米を舞台に、油田の火災現場までニトログリセリンを運ぶという賞金つきの大仕事に挑んだ男たちの息づまるサスペンス。カンヌ 国際映画祭作品賞と、シャルル・ヴァネルが主演男優賞を獲得した。 中南米のとある小さな町、ラス・ピエドラス。500キロ離れた山上の油田で火災が発生し、石油会社はニトロの爆風で火を消すこと を決め、ニトロを運ぶトラック運転手を多額の賞金つきで募集する。選ばれたのは、この町で希望のない日々を送るマリオ(イヴ・モン タン)、ジョー(シャルル・ヴァネル)、ルイジ(フォルコ・ルッリ)、ビンバ(ピーター・ヴァン・アイク)の4人だった。 2組に分かれて出発した彼らを待ちうけていた運命は・・・。 特撮を使わずに撮影された映像は迫力に満ち、“危険物運搬もの” の原点として、その後の各国映画に多大な影響を与えた。マリオを 演じたイヴ・モンタンは当時31歳、「枯葉」でシャンソン歌手としてすでに成功していたが、役者として本格的に認められたのは本作 からだ。 ニトログリセリンがいかに危険な薬物かを効果的に見せる場面がある。石油会社の監督員が輸送の危険を認識させるために、床に ニトロをたらして見せるのだ。ほんの一滴のニトロがもの凄い音で爆発する。心臓が縮み上がる。このシーンで、この後マリオたちが ぶつかる数々の困難が俄然リアリティを持ってくる。 映画の前半は、吹き溜まりのような中南米の小さい町で、食いつめた流れ者たちが過ごす閉塞した日々が描かれる。不況で職はなく、 酒場にたむろするしかない。マリオが「ここは牢獄みたいなものだ」と新来者のジョーにいう。ジョーは「それなら逃げればいい」と いう。マリオは「逃げるに
は広すぎる」と答える。これには唸った。狭いだけが牢獄ではない。広すぎても逃げられないのだ。出ていくには飛行機しかないが、それには金が要る。命がけの危険な仕事を 引き受けて一発当てようという男たちの熱気が、前半の描写で説得力を持つわけだ。 2組に分かれて出発した輸送トラックには、次から次へと難関が待ち構える。熱と衝撃に弱いニトロの前に、なまこ板のような凸凹道 が4kmに渡って続くかと思えば、急角度のカーブを曲がるために、一旦バックで崖にせり出した橋げたに乗り入れなければならない。 橋げたは腐りかかっていて、マリオが山道に車を移動させた途端に崩れ落ちる。 なかでも強烈なのは、送油管が切れて石油が溜まっている沼を通過する場面だ。何十年か前、初めて本作を見た時に一番印象に残った のがこのシーンだった。ぬめるように黒光りする沼の表面が不気味。早く通り抜けないと、タイヤが泥土に取られて身動きできなくなる。 といって、焦って乱暴に運転するわけにもいかない。全身油まみれのモンタンやシャルル・ヴァネル。手に汗握るスリルというのは まさにこのことだろう。 この道中で、登場人物たちの個性が次第に際立ってくるのも、この映画の大きい魅力だ。ジョーは他人を押しのけてこの仕事を手に 入れたくせに、恐怖でいつもびくびくしている。かつては大物だった彼も寄る年波には勝てない。今はただの臆病者だ。彼を見ていると、 年を取るって哀しいな、と他人事(ひとごと)でなく身につまされる。 イヴ・モンタンが演じるマリオは男前で胆力があり、なかなかチャーミングな男だが、自己中心的な嫌な面も持っている。自分に 惚れている酒場の女リンダ(ヴェラ・クルーゾー)の扱いにそれが
表われている。彼は一目置いていたジョーの意外な小心さを知ると、あからさまにバカにし始める。一瞬の油断も出来ない危険な仕事だから、彼の 苛立ちも分からなくはないが、油の沼では足を滑らせたジョーの上をトラックで通過してしまうのだ。これで骨折したのがジョーの命 取りになる。主人公とはいえ、必ずしも理想的なヒーローではないのだ。 陽気で人が好いルイジは、見かけによらず大胆で、自己犠牲の精神も持っている。男ぶりはよくないが、人間的な魅力がある。ビンバ はいつも死を意識しているようなクールな男だ。いがみ合うマリオとジョーとは対照的に、この2人の間にはいつしか友情が築かれて いく。巧みな人物描写がストーリーに変化とテンポをもたらして、飽きさせない。 ただ1人任務を完遂し、大金を手にしたマリオを待っていたのは、割に合わない結末だった。アメリカ版リメークがあるそうだが、 多分、このラストだけは違っているんじゃないかな。ハリウッド式ハッピーエンドに合わないもの。しかしどれほど苦くても、この ラストが醸し出す不条理な無常感こそ、この映画の魅力なのだと思う。久しぶりに見て、本当に面白かった。 【◎○△×】8 |