| 【 映画雑感 】No.173 |
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ストーリー 惜しまれつつ早逝したポーランドの巨匠、クシシュトフ・キェシロフスキ監督が残した3部作の第二章「地獄」を、『ノーマンズ・ ランド』(01)のダニス・タノヴィッチ監督が映画化。(なお、第一章「天国」はすでにトム・ティクヴァ監督により『ヘヴン』(02) として映画化されている。) 22年前に起こった不幸な事件により父親(ミキ・マノイロヴィッチ)を失った三姉妹が、その傷痕を心に抱えたまま成長し、現在、 それぞれに愛の問題に直面する様子を描く。 36歳主婦の長女ソフィ(エマニュエル・ベアール)は夫の浮気を疑い、かつての母(キャロル・ブーケ)のように激しく夫を拒絶 する。32歳の二女セリーヌ(カリン・ヴィアール)は、男性不信のまま独身の孤独な日々を過ごし、大学生の三女アンヌ(マリー・ ジラン)は、不倫関係にあった大学教授に別れを告げられる。 そんな彼女たちが、思いもよらぬ形で再び22年前の出来事と向き合わざるを得なくなる。 織りなされる三姉妹それぞれのエピソードの中で、次女セリーヌの話が私は一番面白かった。愛をめぐって息苦しいまでの葛藤が綴ら れるが、彼女のエピソードだけがユーモラスで、のどかささえ漂わせている。はっきりいえば、ちょっと間が抜けている。そこがいい。
夫(ジャック・ガンブラン)の浮気を疑う長女ソフィは、夫を尾行して、彼が愛人と入ったホテルを突き止める。一部屋一部屋ドアに 耳を押し当て、中の気配を探る。洩れてくる激しいあえぎ。廊下にうずくまるソフィ。 別の場面では、夫が去ったあと、部屋に忍び入って、眠る愛人の身体に顔を近づける。彼女を見ていると、夫に裏切られて可哀想と思うより先に、ここまでするかなと怖くなる。 三女のアンヌは父親ほどに年の違う大学教授(ジャック・ペラン)と関係している。彼女の熱愛ぶりに、もともと家庭を壊す気のない 男は辟易し、ある日別れを告げる。錯乱したアンヌは、親友に悩みを打ち明ける。そこに彼女の両親が帰ってきて、それぞれにアドバイス する。 この場面で、神妙な顔をしたアンヌが、親友の母親に「愛しているなら闘うだけ。私も夫を捕まえ
るためにそうした」といわせるところ
が怖い。なぜなら、アンヌの愛人の大学教授というのは、親友の父親なのだ。姉と妹が愛の地獄に陥っているのに対して、男っけのないセリーヌの暮らしは、寂しいといえば寂しいが、気楽といえば気楽だ。 ところがある夜、妙な男(ギョーム・カネ)が現われ、彼女はこれまでにないトキメキを覚える。自分に気があると思ったセリーヌは、自宅に 彼を招き寝室で待つ。この場面はセリーヌのおののきが伝わりとてもスリリング。 しかし、これがとんでもない勘違いだった。じつは男は22年前に起こった悲劇の真相を告げに来たのだ。その上、彼はホモ・セク シュアルで彼女の見事な裸体に興味はない。こんな時、女ってどう振る舞ったらいいんだろう。その間の悪さを想像すると、気の毒なの を通り越して微苦笑が湧いてくる。 施設にいる母を訪ねるため、セリーヌが定期的に乗る列車の車掌とのやり取りもチグハグで可笑しい。彼女はいつも窓枠に頭を乗せて 眠る。その横顔を車掌はじっとみつめる。彼女を起さな
いようにそっと検札した切符を窓枠に乗せる。「不眠症で列車でしか眠れない」という彼女のために、列車音の入ったカセットを用意し、自分の電話番号を添えて、セリーヌに渡そうとする。ところが、いつもは1人の彼女が、そんな時に限ってソフィやアンヌと一緒なのだ。 三姉妹の夫・愛人・男性との関係を見ていると、22年前の出来事が色濃く影を落としているのを感じるが、それはそれとして、セリ ーヌが男と縁がなかったのは、鈍感というか暢気というか、もともとの性格が大きいんじゃないかなとも思えてくる。カリン・ヴィアー ルの翳りある美貌に妙に親近感を覚えてしまうのだ。 映画は緩急をつけて展開していくが、最後はやはり緊迫感あるシメが待っている。夫には死、自らには身体の不具、娘たちには重い心 の傷をもたらした22年前の出来事。その真相を告げら
れ、「パパを告発したのは間違いだったのよ」と娘たちから言われた母が、「それでも私は後悔してない」ときっぱり断言(口が利け
ないので紙に書くのだが)するからだ。聞いた瞬間、私はぞくっとした、「怖いなぁ」と。仮に間違いだったとして、後悔してなんになるだろう。時間がもどる訳ではない。 22年をそれで生きてきた。これからもそれで生きるしかないではないか。そう言っているように思えたのだ。 自分の責任に矮小化したら、これから先の人生は地獄だ。しかし、“運命” に託してしまえる人は、別の地獄を心の深奥に抱えている に違いない。それとも、それは深い諦念だろうか。キャロル・ブーケの目にはそうしたことを思わせる “力” がある。 美しい4人の女性が主人公だけに、重苦しい愛の物語のわりには華麗な印象が残る。ラストでふっと見せた母親の微笑、セリーヌに対 する車掌の愛、未来には明るさの予感もあり、不思議と後味は重くない。 【◎○△×】7 ![]() |