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【 映画雑感 】No.171

イノセント・ボイス 12歳の戦場


2004年  メキシコ  112分
監督 ルイス・マンドーキ
出演
カルロス・パディジャ、レオノア・ヴァレラ、ホセ・マリア・ヤスピク
ダニエル・ヒメネス・カチョ、グスタボ・ムニョス、オフェリア・メディナ

  ストーリー
 政府軍と反政府ゲリラの内戦に揺れる1980年のエルサルバドル。11歳の少年チャバ(カルロス・パディジャ)の父は、希望の ない日々に見切りをつけて家を出て行った。母(レオノア・ヴァレラ)が働きに出ると、チャバは銃弾が飛び交う暮らしのなかで、姉と 幼い弟を守らなければならない。
 遊び仲間や好きな女の子がいる学校は楽しいが、それも終わりに近づいていた。なぜなら、足りない兵力を補うために、政府軍が12 歳になった少年たちを兵士として徴集していくからだ。チャバも間もなく誕生日を迎えようとしていた・・・。
 ロサンゼルスに在住する新人俳優オスカー・トレスが、13歳でアメリカに亡命した自らの体験を手記にまとめ、脚本化している。

  一口感想
 平和な日本に住んでいると想像もつかないことが、世界では起きている。映画でそういう事実に行き当たって衝撃を受けることがよく ある。本作もその1つ。脚本を書いたオスカー・トレスの体験が基になっている。

 豪雨の森林の中を、両手を頭の後ろに組んだ少年たちが、兵士たちに銃を突きつけられて連行されるシーンで映画は始まる。無防備で まだ幼い身体の少年たちと、武装した屈強な兵士た ち。なにかとんでもなく理不尽なものを見せつけられた感覚に襲われる。
 エルサルバドルでは、アメリカの支援を受けた政府軍と、農民・労働者中心の反政府ゲリラとの間に、1980年から12年間に わたって内戦が続いた。
 驚いたことに、戦闘は時と場所をまったく選ばず始まる。家族がテーブルをはさんで食事していると、突然けたたましい銃声が響き、 銃弾が窓ガラスを割って飛び込んでくる。子どもたちが遊ぶ路地も、授業中の教室も、何の前ぶれもなく銃撃の場になり、銃弾が撃ち 込まれる。日々の暮らしが営まれる場所がそのまま戦場であるとは、想像を絶することだ。
 子どもたちはとっさに身を伏せ、物陰に隠れ、身を守るすべを心得ているが、中には流れ弾に当たって死んでしまう不運な子もいる。

 こんな中でも、子どもの暮らしは屈託がない。チャバは母を助けるためにバスの運転助手をして小銭を稼ぎ、学校では悪ガキ仲間と 遊び呆け、美人の同級生クリスティナ・マリアと幼い恋を育む。戦争と一体化した日常のなかでも、子どもらしい息吹きが生き生きと 保たれていることに、感動を覚える。
 夜、みんなで原っぱに集まり、「紙ホタル」を飛ばすシーンのなんと美しく幻想的なことか。しかし、彼らの “子どもの時間” は 11歳で終わる。12歳の誕生日を迎えると、政府軍が学校にやっ て来て、徴兵していくからだ。
 ショックなのは、教師が彼らに協力し、12歳の生徒たちの名を1人1人読み上げること。中には恐怖で小便を漏らす子もいる。 しかし、1年も経てば彼もいっぱしの兵士として銃を撃つ。反政府ゲリラになっていたチャバの叔父を撃ち殺したのは、ついこの間まで 遊び友達だった少年兵なのだ。

 徴兵を逃れて民家の屋根に逃れた少年たちが、夜空を見上げ星を数える場面は、不思議な詩情が漂う。チャバの叔父ベト(ホセ・ マリア・ヤスピク)がギターを爪弾きながら歌う「ダンボールの家」の美しい旋律も胸に深く刻まれる。
 しかし、クリスティナ・マリアは死に、ベトは殺される。12歳になったチャバは友達と一緒に反政府ゲリラに参加するが、寝込みを 襲われて政府軍に連行される。少年たちが川岸で銃殺されるむごさはなんと表現したらいいのだろう。

 オスカー・トレスは、自分だけが奇跡的に助かり、家族を残してアメリカに亡命したこと、友達の遺体を川岸に置いてきたこと、初恋 を成就できなかったこと、子どもゆえに無力であったこと、さまざまな罪悪感がこの脚本を書くきっかけになったと言う。
 内戦が終わって14年経つ今も、まだエルサルバドルの政情は安定していないのだそうだ。いつになれば、子どもが子どもらしく 生きられる時代になるのだろう。

 死に物狂いで我が子を守るチャバの母・ケラ(レオノア・ヴァレラが美しい!)、「祈っても戦争は終わらない」と毅然と言い切る 祖母・ママトーヤ(オフェリア・メディナ)。すっくと立つ2人の女性の強さが印象的だった。
  【◎△×】7

チャバを演じたカルロス・パディジャ少年と
脚本を書いたオスカー・トレス

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