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【 映画雑感 】No.160

白バラの祈り
ゾフィー・ショル、最期の日々


2005年  ドイツ  121分
監督 マルク・ローテムント
出演
ユリア・イェンチ、アレクサンダー・ヘルト、ファビアン・ヒンリヒス
ヨハンナ・ガストドロフ、アンドレ・ヘンニック、フロリアン・シュテッター

  ストーリー
 ヒトラーの独裁政権下で孤立を恐れず反戦活動を行った学生地下組織 “白バラ” の紅一点として、21歳で処刑されたゾフィー・ ショルの最期の5日間を描いている。ベルリン国際映画祭で3冠受賞など、数々の賞に輝いた。
 1943年2月18日、ミュンヘン大学の学生ゾフィー・ショル(ユリア・イェンチ)は兄ハンス(ファビアン・ヒンリヒス)と ともに、反戦ビラを構内で撒いたところを警備員に見つかり、逮捕される。彼らは “ナチス打倒” を呼びかける反戦地下組織 “白 バラ” のメンバーだったのだ。
 ゾフィーはゲシュタポのベテラン尋問官モーア(アレクサンダー・ヘルト)の取調べを受け、5日後の2月22日、一緒に逮捕された ハンス、クリストフ(フロリアン・シュテッター)らとともに処刑される。

  一口感想
 去年公開された『ヒトラー〜最期の12日間〜』の終わりに、ヒトラーの秘書だったユンゲが、自分と同じ年の女性が反ナチス運動で 捕らわれ処刑されたことを知って、初めて自分の罪を自覚した、と語る場面が出てくるが、その女性が本作の主人公、ゾフィー・ ショルだ。
 ミュンヘン大学の学生だったゾフィーは、反戦組織 “白バラ” のメンバーとして、兄ハンスとともに大学構内で密かにナチス打倒の ビラを撒いたところを見つかり、ゲシュタポに逮捕される。
 映画の大半は、ゾフィーが受ける取り調べに費やされる。限られた場所と登場人物、言葉のやり取りで進行する画面は、下手をすると 平板で退屈になりかねない。しかし、90年のドイツ統一後、東ドイツで発見された詳細な尋問記録に基づいて再現された尋問場面は、 静かな中にも強い力が漲り、ぐいぐいと引き込まれる。

 ゾフィーは初めは徹底してシラを切る。ゾフィーに扮したユリア・イェンチは、目に強い光を宿した知的な面差しの女優で、ゾフィー がそのままそこにいるような錯覚を覚える。背筋をピンと伸ばし、26年の経験を持つ尋問の専門家モーアと堂々と渡り合い、5時間の 取調べの最後には、彼はゾ フィーの潔白を信じてしまうほどなのだ。
 興味深いのは、尋問が進むほどにモーアのほうがだんだん落ち着きをなくすことだ。時おり席を立って歩き回ったり、窓のカーテンを 開けてみたりする。“ゲシュタポ=非人間的、無機質・無感情、冷酷” というステロタイプな構図をつい思い浮かべてしまう私だが、 モーアはまるで違う。ゾフィーと対峙するうちに、彼女に威圧されたり、共感を覚えたりするのだ。
 ナチスの正当性を疑わない彼だが、ゾフィーの信念を単に危険思想と糾弾するのではなく、若さゆえの過ちと見る人間としての巾も 感じられる。ゾフィーと年齢の近い息子を持つことも、彼の心情に影響したのだろう、ゾフィーが罪を認めたあとも、なんとか彼女を 助けようとする。モーアに扮するアレクサンダー・ヘルトの人間味を感じさせる演技が印象的だ。

 ゾフィーと兄ハンスの住むアパートの部屋から、ビラの草稿とタイプライターが発見され、言い逃れが出来なくなると、ゾフィーは活動は自分と ハンスの2人だけでしたことだ、仲間などいない、と 密告を拒否し、メンバーを庇い通す。
 その後、たった5日間で、取調べ、通常は2ヶ月かける裁判、判決、処刑のすべてが行われるのだ。ナチスが “白バラ” の影響をいかに恐れていたが窺える。スターリングラードの大敗後、全面戦争の続行を声高に叫ぶ、ヒトラーやナチスに対する不信が、ドイツ国民の間に大きく広がっているのを知っていたからだろう。

 ゾフィーが処刑直前、両親との面会を許される場面がある。50歳の父は、「ヒトラーは人類のゴミだ」と発言して投獄されたことの ある反骨の士だ。ハンスとゾフィーの信念は彼の存在によって支えられていたに違いない。彼は間もなく先立つ娘に一言、「お前は 正しい」という。ここで、私は覚えずに涙をこぼしてしまった。なんと哀しく強い父であることか。
 60歳の母はただ黙って娘を抱く。ゾフィーは老いた母を労わるように「天国で会いましょう」という。立派に育てた息子、娘を2人 ながらに失う両親の心情を思うと、私は言葉もなく、目頭を押さえるしかなかった。
 ハンス、ゾフィー、彼らとともに逮捕されたクリストフの3人が、看守の温情で面会し、しっかり抱き合う場面も切ない。クリストフ は3人の子を持つ若い父親だ。ハンスは彼だけでも助けたいと裁判で弁護するが、叶わなかったのだ。こうして3人は次々に斬首される。

 “白バラ” のほかのメンバーもすべて逮捕され処刑されたという字幕説明の後、彼らの最後の6号ビラがイギリスに渡り、ベルリン 上空から飛行機でばら撒かれる様子が映って、映画は終る。
 牢房で監視役の女囚に婚約者と過ごした夏の思い出を語るゾフィーには、若い女性らしい夢や希望があった。平時であれば平凡な学生 であったかもしれない彼らの信念の重さに、畏敬の念が湧くのを抑えることが出来なかった。
  【◎△×】8

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