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【 映画雑感 】No.159

男はつらいよ 寅次郎春の夢


1979年  日本  104分
監督 山田洋次
出演
渥美 清、倍賞 千恵子、ハーブ・エデルマン、香川 京子
下絛 正巳、三崎 千恵子、前田 吟、太宰 久雄、笠 智衆
佐藤 蛾次郎、林 寛子

  ストーリー
 ゲストにハリウッドの名脇役、ハーブ・エデルマンを迎えた人気シリーズ『男はつらいよ』の第24作。
 秋祭りもたけなわの頃、御前さま(笠 智衆)は帝釈天の境内でふさぎ込んでいる外人を見つける。彼はマイケル・ジョーダン (ハーブ・エデルマン)というアメリカ人で、ビタミン剤のセールスで日本へ来たが商売はうまくいかず、行き倒れ寸前になっていた のだった。
 “とらや” が彼の面倒をみることになるが、旅から帰って来た寅次郎(渥美 清)は大のアメリカ嫌い。たちまち風雲急を告げる雲行きに。
 しかし折りよく、満男の通う英語塾のめぐみ先生(林 寛子)と、彼女の母親・圭子(香川 京子)が訪れて、その場は何とか 収まるが、寅次郎は圭子の美しさにソワソワし始める。
 一方、マイケルは関西に足を伸ばして商売にいそしむが、やはりうまくいかない。

  一口感想
 今回の “とらや” の2階の間借り人は、なんと、外国版寅さんとでも言いたいアメリカ人。寅さんとそっくりの鞄にビタミン剤を 詰めて(なにやら被っている帽子もよく似ている)、日本語も出来ないのに飛び込み営業しようっていうのだから無茶。でもそこは 〔寅さんシリーズ〕、うるさいことは抜きにして、“外人さん” というこれまでにない設定がユニークで、なかなか楽しかった。

 おばちゃんが、行き倒れ寸前のマイケルに「アメリカ人って金持ちばかりじゃないんだねぇ」としみじみいうのが妙に胸に迫る。私が 子どもの頃は、みんなほんとにそう思っていたのだ、「アメリカ人はみんな金持ちなんだ」と。本作が公開された79年頃はどう だったろう。定かに記憶にないが、いずれにしても、アメリカという国に対する庶民感情を巧みに現わした言葉だと思う。

 おばちゃんが突然帰って来た寅さんに思わず「シット・ダウン。じゃない、お掛けよ」と言ったり、タコ社長が「バンク、行って 来る」というのが笑わせる。御前さままで「このご婦人にぺ〜〜らぺら」なんて、謹厳な顔で、手をひらひらさせて言うのだから笑って しまう。欧米人の前では、日頃とつい違う言動をしてしまう日本人のヘキがよく出ている。


 本作は、マイケルがさくらに愛を告白するという、思いがけない展開をする。いわばさくら主演の『寅さんシリーズ』番外編の趣きだ。 さくらの優しさはあっさりして押しつけがましさがなく、それでいて心の琴線に触れてくるところがある。
 たとえば、冒頭、ブドウのことでまたもや大喧嘩になった寅さんは、とらやを飛び出そうとする。シリーズ定番の場面だ。さくらが 店先で寅さんを引き止める。これまた定番。しかしそうしながら、さくらはブドウで汚れた寅さんの手を一生懸命エプロンで 拭うのだ。目立たない仕草なのだが、兄への愛情が溢れていて、胸がじんとする。こういうささやかなところも手を抜かない演出が 嬉しいではないか。

 こんなさくらだから、馴れぬ異国で、彼女の優しさがマイケルの胸に沁みたのはもっともなことなのだ。その上、博とさくらはお互いに ちっとも愛情表現をしないし、アメリカ人から見たら、本当に愛し合っているんだろうかと思ってしまうのも無理はない。
 おばちゃんだって、「外人さんは親切でいいねぇ」「なんでもありがとうって言ってくれるよ」と、なにやらいそいそと料理を作る のだ。感謝や愛情は態度に表してもらったほうが嬉しいには違いない。

 マイケルは旅先で、寅さんご常連の旅芸人一座とめぐりあい、彼らの演ずる「お蝶夫人」にさくらの面影を重ねる。ピンカートン姿の マイケルは凛々しく、お蝶夫人のさくらは清楚な色っぽさがあって、この幻想シーンはちょっとうっとりもの。
 もっとも、マイケルにはげ頭を抱え込まれてジタバタする隣席の客の殿山泰司には笑ってしまったが。ほかにもある。さくらに 「インポッシブル」と求愛を断わられて、マイケル、自分のドジに思わず畳をドスンと叩く。すかさず階下からタコ社長の「地震 かぁ〜〜」の胴間声。笑いのツボを心得た演出はいつもながらに感心する。

 マイケルに調子を合わせた訳でもあるまいが、寅さんも失恋する。縁先で圭子とお喋りしていた彼の前に、いきなりライバルが出現 するのだ。石油輸送船の船長だ。圭子が恥ずかしそうに「お茶の前にシャワーを浴びたら」と彼に勧めるのを見て、寅さん、すべてを 察する。これは彼の数ある失恋のなかでもかなり切ない場面だ。
 さくらからマイケルのことを聞いた寅さんは、「思いを胸に秘めてすっと立ち去る。そんな芸当が出来ないんだな。バカだな、アイツ も」という。彼は自分の失恋をマイケルに重ねているのだろう。しみじみした口調に、男女の機微を心得た大人の寅さんの顔が覗く。

 帰国するというマイケルと寅さんが連れ立って去っていくのを見送るさくらが、なんともいえずいい佇まい。マイケルの告白で、彼女 の中にもざわめくものがあったのだろう。兄を気遣う悲しげな表情の中に、女の艶っぽさが滲む。倍賞千恵子ってほんとにつくづく うまい。

 一晩中飲み明かし、朝ぼらけの上野の町を歩く寅さんとマイケル。酔い覚めの朝のしょぼくれた風情がやるせなくも捨てがたい。 笑っちゃうのは、寅さんがマイケルにお守りを上げて、「これで嫁さんはばっちりだ」と請け合うと、道路の向こう側から「それじゃ、 なぜ寅さんは結婚できないんだ?」とマイケルの声が飛ぶところ。お互い言葉が分からないのに、肝心のことだけはちゃんと通じている。 さすが “日米・寅さん” だけのことはある。
  【◎△×】7

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