HOME雑感LISTシネマTOP




【 映画雑感 】No.149

男はつらいよ
寅次郎夕焼け小焼け


1976年  日本  109分
監督 山田 洋次
出演
渥美 清、倍賞 千恵子、太地 喜和子、宇野 重吉、岡田 嘉子
下絛 正巳、三崎 千恵子、前田 吟、太宰 久雄、
佐藤 蛾次郎、笠 智衆、大滝 秀治、佐野 浅夫

  ストーリー
 風変わりな老人とチャーミングな芸者が登場して寅さんが奮闘する人気シリーズ第17作。キネマ旬報ベストテン第2位に輝いた、 70年代の『男はつらいよ』を代表する一本。
 春。柴又に帰っていた寅次郎(渥美 清)は、飲み屋で財布を忘れて困っていた老人(宇野 重吉)と知り合い、意気投合して “とら や” に連れて来る。老人がお礼に置いていった絵から、彼が日本画の大家・池ノ内青観と知り、一同はびっくり。
 寅次郎は旅先の竜野で、生まれ故郷へ市の招きで来ていた青観と偶然に再会する。歓迎のためにもうけられた宴席で、寅次郎は気っぷ のいい美人芸者・ぼたん(太地 喜和子)に一目惚れ。青観は初恋の人(岡田 嘉子)を訪ねて、もどらぬ青春時代への思いを馳せる。
 夏。“とらや” に寅次郎を訪ねてぼたんがやって来る。ぼたんはある男(佐野 浅夫)に200万円を貸したが、持ち逃げされていた。 その男・鬼頭の消息が知れたので、金を返してもらいに来たのだった。

  一口感想
 シリーズの中では1,2を争う人気作というだけあって、まさに期待通りの面白さだった。
 本作の寅さんは、法律の裏を上手にくぐり抜ける悪いヤツには、手も足も出ないことを思い知る。「叩きのめしてやる」と息巻いてもどうにもならないのだ。それでも彼がぼたんのために出来ることといったら、それくらいしかない。
 彼が鬼頭のところへ乗り込もうという時、さくらに「警察が来たら、あの人とは8年前に縁を切りました。今はなんのゆかりもありま せんと言うんだぞ」という。8年前といえば、その翌年の69年からこのシリーズが始まっている。15歳で “とらや” を飛び出したまま、生死分からぬ放浪の旅を続けていることにしろというのだ。切ないなぁ・・・。
 そのまま店を飛び出した寅さんを追って、さくらが「お兄ちゃん、どこへ行く気かしら。行く先も知らないで」。しんみりさせた後で、 わっと笑わせる。作りが巧い。

 青観画伯の家に押しかけて、絵を描いてくれと頼むシーンも寅さんらしくて面白い。
 青観が “とらや” の二階でサラサラ描いた絵が、 神田の古書店で7万円で売れたことに感心した寅さんは、「ちょちょっと描いて7万円だよ。もっとちゃんと描いたらどれくらいになるか 分からないよ。俺、それ売っ払って200万作るから」「大きい紙にさ。色もいろいろ使ってさ。描いてくれよ」と頼むのだ。
 寅さんのおかしさは、こういう確立された権威にぜんぜん無頓着なところだ。老人の正体を知って畏まる“とらや” の面々が素朴な庶民 感情を表わしているとすれば、寅さんの一見横着な態度は山田監督の反骨精神の現われか。「売っ払うとは失礼な」と青観の憮然とした 顔も笑いを誘う。


 マドンナの太地喜和子はあんまり好きなタイプの女優ではないのだが、本作のぼたんはじつにいい。気っぷがよくて色っぽい。お酌を されて、博がテレながらチラッと脇のさくらの様子を窺うシーンがある。女性にはあんまり反応しない博にしては珍しい。さくらも内心 穏やかでなかったか も・・・。
 寅さんが鬼頭を叩きのめすといって店を飛び出したあと、ぼたんは「その気持ちが嬉しい。もう200万なんていらない」といって泣く。いい女だなぁ。 “人生意気に感ず”る潔さがあります。こういうのに私は弱い。
 寅さんが竜野のぼたんの家を訪ねると、床の間に青観の “牡丹図” が飾ってある。彼も寅さんの “意気” をちゃんと感じていた のだ。人情はゼニかねじゃない。しみじみそんなことを思う。

 ぼたんと「東京はあっちだ」「こっちだ」と方向を捜しては、寅さんが手を合わせるラストは明るく爽やかだ。「今度逢ったら所帯を 持とうな」と軽口をいう寅さん、あっさり受け止めるぼたん、彼とこんな相性のいいぼたんがその後登場しないのは残念。寅さんが 失恋しない珍しいラストだった。


 ところで、寅さんの家族を巻き込んでの立ち回りは、私はいつもちょっと悲しい気分になるのだが、本作は明るく「ばっかだねぇ」と 笑えるのがよかった。たとえば、いつの間に持ったのかお玉を振り上げての大奮戦、そのまま外に飛び出そうとして、あわててお玉を 返しにくる。寅さん、変なところに律儀だ。
 語呂合わせ見たいな名前のアヤも楽しい。寅さんが青観画伯の絵を持って出かける神田・神保町の古書店 “大雅堂” は、「寅 さん」→「タイガー」→「大雅」と、池大雅を掛け合わせてるんじゃないかしらん。
 青観画伯の飄々としているくせに、妙に図々しいキャラクターも面白い。“とらや” を旅館と思い込んでの好き放題。そんな彼に 「こんな宿屋があるわけないだろう」と寅さんが真っ当な説教をするのが笑わせる。宇野重吉、まさにはまり役。

 道端でショリショリ氷を切っている氷屋さんが画面に映って懐かしかった。昔はこうして冷蔵庫に入れる氷をのこぎりで切ってお勝手 口まで運んでくれたものだっけ。このシリーズは、時々こういう「ア・・・」と思う場面が出てくるのが嬉しい。
  【◎△×】8

▲「上に戻る」