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【 映画雑感 】No.148

男はつらいよ 葛飾立志篇


1975年  日本  97分
監督 山田 洋次
出演
渥美 清、倍賞 千恵子、樫山 文枝、小林 桂樹
下絛 正巳、三崎 千恵子、前田 吟、太宰 久雄、桜田 淳子
大滝 秀治、佐藤 蛾次郎、笠 智衆

  ストーリー
 人気シリーズ『男はつらいよ』第16作。
 秋も深まったある日、修学旅行で山形から上京してきた順子(桜田 淳子)という娘がとらやを訪ねてくる。彼女は寅次郎(渥美 清) の古い知り合い・ゆきの娘で、彼を父親と勘違いしていたのだ。
 ゆきはつい最近死んだという。寅次郎は旅のついでに山形に寄り、 墓詣でをするが、その時に寺の住職(大滝 秀治)から学問の大切さを諭される。
 寅次郎が柴又に帰ると、御前さま(笠 智衆)の姪で考古学を研究する礼子(樫山 文枝)が2階に下宿していた。
 さっそく彼女について勉学に励むことにする寅次郎。インテリぶらない礼子がすっかり好きになるが、彼女は恩師の田所博士(小林 桂樹)にプロポーズされてしまう。

  一口感想
 本作はシリーズの中ではお気に入りの部類に入る。理由は、寅さんがいつもほど悪口雑言を吐かず、穏やかだからだ。寅さんらしく ないという見方も出来るけど、私は彼の悪態にじつはいつも胸を痛めている。とくにタコ社長に対して、あんなにいい人に・・・、と よく思う。その点で、本作の寅さんは安心して見ていられる。

 本作は「人はなぜ生きるのか」という深遠なるテーマを “とらや” の面々は語り合う。といっても、当然のことにそうすんなり話は 進まない。
 まず寅さんが知識をひけらかす。「明日、道を聞こうと思ったら、夕べ死んじゃった」。山形で順子の母・ゆきの墓に詣でた時に寺の 住職から教えられた論語の一句、「朝(あした)に道を聞かば、夕べに死すとも可なり」の受け売りだ。みんなは きょとん、礼子はクスクス。

 礼子 「人間は考えるアシっていいますものね」
 寅 「へぇ、人間は足で考えるのか」
 博 「兄さん、川原に生えてる葦ですよ」
 寅 「そうかい、おれはまた足で考えるのかと思ったよ。
    タコなんて8本もあるからね、一番頭がいい」
 タコ社長 「ぎゃはは」
 礼子 「ムカデなんて大変、100本もあるんですもの」
 寅 「こっちの足で考えてる間にあっちの足がからまって、
    あっちをほどいてる間に今度はこっちがからまっちゃ
    ってね。あっちこっちほどいてる間に一生過ぎちゃうよ」

 みんな腹を抱えて大笑い。出演者たちは演技じゃなくて、ほんとに可笑しかったんじゃないかなぁ。そういう楽しさに溢れている。 寅さんはこういう団欒を夢見ていたのかもしれない。いつもは楽しい語らいも、ちょっとした言葉の行き違いで大喧嘩になり、 気まずい空気で終わることが多いのだ。私も笑い転げながら、ふと目頭が熱くなった。


 小林桂樹が扮する考古学の大学教授がなんともいい味。研究一筋、なりふり構わぬヒゲおやじだ。団子を食いながらタバコを吸い、 かつ、お茶を飲む。茶碗からもくもく煙突みたいな煙が出たのには驚いた。宴会では、ベートーベンのなんたらを歌います、とか言う。ドイツ語の難しい歌でも出てくるのかと思ったら、「ヤーレン、ソーラン、 ソーラン〜〜、沖のカモメに汐時聞けば〜〜」。妙な踊りを踊り出す。
 女にオクテで、礼子に詩で愛を告白するロマンティストだ。こまごまと彼の世話を焼く礼子を見るといいカップルになりそうだけど、 彼女はプロポーズを断わってしまう。結婚より研究を選んだのだ。仕事を選ぶ女性が増えつつあった時代相がこんなところに反映されて いるのかな。
 結局、寅さんも田所教授も礼子に振られたことになる。そうとは知らぬ2人が旅先で偶然に一緒なって、慰めあったり冷やかしあったり する様子が微笑ましい。


 順子の母・ゆきと寅さんのエピソードもしみじみした味わいがある。北国、夜、腹をすかせた金無し渡り鳥、赤子を背負った一杯飲み屋 の女、丼飯と湯気のたったブタ汁、そして香のもの・・・。これが寅さんの語りだけで描かれるのだ。渥美清の語りの巧さにはこれまでも たびたび驚嘆させられたが、この場面の彼の話術も凄い。陶然と聞き惚れるばかりだ。
 寅さんはそれから17年間ずっと、年に一度、手紙とともに順子の学資の足しにとお金を送り続けていたのだ。
 それを聞いたおいちゃん 「人違いじゃないのかねぇ。寅がそんなことするか?」
 おばちゃん 「お金はたくさんかい?」
 順子 「500円です」
 2人 「そりゃ、寅だ」
 ずるっとこけつつ、2人の間合いのいい突っ込みに笑ってしまう。
 この前振りのあとだけに、寅さんの話はひときわ胸に沁みる。ほんわり温かいエピソードばかりというのも悪くないなぁ、とつくづく 思う一作だった。
  【◎△×】7

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