| 【 映画雑感 】No.135 |
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ストーリー “強運” を競う不思議なゲームに参加させられ、命を賭けた過酷な運試しに挑戦する人々の欲望と恐怖を描いた異色のサスペンス。 子どもの頃、未曾有の大地震で九死に一生を得たフェデリコ(ユウセビオ・ポンセラ)は、育ての親サミュエル(マックス・フォン・ シドー)の経営するカジノで客から“運”を取る仕事をしている。しかし、彼のもとを去ろうとしたために、その能力をサミュエルに 奪われてしまう。 7年後、銀行強盗で逃走中だったトマス(レオナルド・スバラグリア)は、飛行機事故からただ一人奇跡的に生還する。女刑事サラ の(モニカ・ロペス)の監視下で入院していたが、強運の持ち主を探していたフェデリコが現われ、無理やりあるゲームに参加させる。 ゲームの頂点に立つサミュエルを倒す人物を見つけ出すのが、彼の目的だった。 こういう映画にぶつかるからスペイン映画は止められない。というと、運の強さを競い合って壮絶なバトルが繰り広げられ、スリル 満点、ドキドキはらはらし通しの映画と思われるかもしれない。しかし「ゲーム」そのものはばかばかしくて、思わずこけてしまうよう な代物だ。
暗闇の中で虫がぶんぶん飛び回り、誰の頭に止まったかで勝ちが決まったり、目隠しのまま林の中を競走し、最後まで木にぶつからずに走り通した者が勝者だったりする。フェデリコが強運の持ち主を探す場面もばかげている。候補者に目隠しをして高速道路を横断させるのだ。車に撥ねられて死んで しまう男も気の毒だけれど、撥ねた車もいい迷惑だ。 他人の運を奪う方法というのも、相手に触れたらいいというだけの素朴なものだ。フェデリコの仕事はカジノで勝ち続ける客から運を 奪うことなのだが、間違えた振りをして相手の手を握る。それだけなのだ。 “ゲーム” の場合は、参加者は運を奪う相手を抱きしめる。これがけっこう濃厚で、ドラキュラが血を吸う場面かラブシーンかと見紛う ばかりだが、これで相手の運が奪えるの、と思いたくなるのも確かだ。 にもかかわらず、この映画には麻薬のような魅力がある。ちょっと暗めの映像、登場人物たち
の陰影深い表情、全体にスタイリッシュなムードが漂う。“強運ゲーム” の頂点に立つのは、ナチ強制収容所の生き残り、カジノの経営者サミュエルだ。まだ子どもだった彼の心には、同房の 子どもが1人また1人と呼び出されて、2度と帰ってこなかった体験が深い傷となって刻まれている。 “強運ゲーム”の最終ステージは、挑戦者とサミュエルとの1対1の対決だ。弾倉から1発だけ弾を抜いた銃で、まず相手がサミュエル を撃つ。空砲であれば、今度はサミュエルが相手を撃つ。どちらも空砲になる可能性はあるけれど、30年間、一度も敗れることはなく、 必ず相手を倒してきた。 しかし同時に、この30年、彼は生きながら死を味わってきたといっていい。ゲームは彼にとって、収容所で死と直面し続けた体験を 再現している。彼はその時の恐怖からまだ解放されていない。それがサミュエルがゲームを続ける意味だ。マックス・フォン・シドーの 虚無を感じさせる存在感がすごい。 大地震の瓦礫の中からサミュエルに救われたフェデリコは、そのまま彼の “運” に閉じ込められてしまった男だ。その牢獄から解放 されるためには、恩人であると同時に支配者であるサミュエ
ルを倒さなければならない。助けられたが故に、自分の人生を生きられない、そんな皮肉さを彼の “運” は感じさせる。女刑事サラは交通事故で夫と幼い娘を失った。ただ1人生き残ったサラは運の強い女と思われている。しかし、心ない人の「君の運は 他の人間にとっては不運だ」という言葉が、深く彼女の胸に突き刺さる。 彼女がトマスの恋人アンナに、なぜ一緒に飛行機に乗らなかったのか、と聞く場面がある。トマスは飛行機事故でただ1人生き残った 男だ。アンナは搭乗直前に彼から「もう愛してない」と言われたから、と答える。 トマスには何か虫の知らせがあったのだろうか。だから、恋人が搭乗しないように、そんな心にもない言葉を口にしたのではなかろ うか。それが分かるから、アンナは「彼は命の恩人」と言う。
サラは思う、もしあの時自分が同じことを夫に言っていたら・・・。夫は道端に車を止め、呆然とサラを見つめるだろう。その背後を、
実際は彼らの車に衝突したあの車が通り過ぎる・・・。「もう愛してない」、もし自分がそう言っていたら・・・。サラはそう言わなかった自分を責めて苦しむ。 もう愛してない・・・。なんて切ない言葉なんだろう。カジノの地下室に潜入したサラは、サミュエルと相撃ちになって倒れ、近づいた トマスに一言「もう愛してない」と呟く。彼女の目には、トマスはきっと夫に見えていたのだろうと思う。 トマスとサミュエルの対決、そしてサラの死に至るクライマックスはすごい迫力だ。生きながらえたトマスは、すべての “運” から 解放されて荒野を走る。ラストは思いっきり明るい画面。発想の面白さを十分生かした作品になっていたと思う。 【◎○△×】7 |