| 【 映画雑感 】No.128 |
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ストーリー 映画製作者たちの登竜門的映画祭 “ぴあフィルムフェスティバル”(PFF) で入賞し、本作で劇場長編映画のデビューを果たした 内田けんじ監督作品。カンヌ国際映画祭で批評家週間に正式出品され評判を呼んだ。2000万円もの大金をめぐって、内気で気のいい 青年の周囲で巻き起こる一晩の出来事を、複数の人物の視点を通して描いている。 婚約者の裏切りを知り、すっかり落ち込んだ真紀(霧島 れいか)は、1人で生きる決意をして、寂しくレストランで食事をしている。 一方、真面目で人の好い宮田(中村 靖日)は、半年前に突然姿を消した恋人・あゆみ(板谷 由夏)のことを今も思い続けている。 そんな宮田が歯がゆくてならない親友の神田(山中 聡)は、彼のために女の子をナンパする。それがレストランで隣りの席にいた 真紀だった。泊まるところがないという真紀のために、宮田は一晩だけ空いているあゆみの部屋を提供することにするが・・・。 時間がまき戻されていく構成は『メメント』(00)を連想するが、フットワークは本作のほうがずっと軽やかだ。レストランで 食事をする男2人、失恋して落ち込んでいる女1人。男の1人が女に声をかけて、3人は同席する。そのうち声をかけた男が席を外し、 残された男と女は少しずつ親密になる・・・、と始まりは典型的な “ボーイ・ミーツ・ガール” もの。 女は真紀、彼女に声をかけた世慣れた感じの男は私立探偵の神田、もう1人の気弱そうな男はサラリーマン宮田。神田と 宮田の会話が面白い。宮田は恋人のあゆみに逃げられ、半年たった今も彼女をぐずぐず思っている。神田がはっぱをかける。
「ふつうに暮らしてたらいつか女の子と知り合って、そのうちラブラブになって、なんて漠然と期待してたってダメなんだ。30
過ぎたらタイミングは自分で作らなきゃ。クラス替えも文化祭ももうないんだぞ」。これには笑ってしまった。たいていの人はやっぱりなんとなく・漠然と・期待してるんじゃないかなぁ、「まさか、このままずーっと 1人ってことはないよね・・・」と。 宮田くん、反論する、「でもナンパって才能とか技術がいるんだよ」。神田君、あっさり撃破。「人と出会うのに技術なんている かよ」。有名じゃない俳優2人の肩の力の抜けた自然体。もうこのシーンだけで2人がすっかり好きになる。 場面が変わる。洒落たマンションに帰宅した宮田に電話がかかる。神田からだ。一緒に食事しよう、すぐ出て来いと。妙にひそひそ した声だ。「なんで小声なんだよ」「あ、おれ今仕事中だから」。なるほど、尾行中なのか。なっとく。 う・・・? 尾行中に電話なんかする? 第一、しがないサラリーマンにしちゃ、宮田クンのマンション、立派過ぎない? そんな 小さな疑問の断片が、時間が巻き戻されるにつれて1つ1つ解明され、全体像を形作っていく。構成の巧みさにうならされる。
宮田の元恋人・あゆみはじつは結婚詐欺師で、ヤクザの組長・浅井(山下 規介)の金を持ち逃げし、神田のところに助けを求めて来ていたのだ。あゆみは宮田のマンションにその金を隠し、偶然それをみつけた失恋女・真紀がネコババし、更にそれをベッドの下に隠れていた浅井が目撃し・・・、とそれまで関係なさそうだった登場人物たちが、ヤクザの金を巡って連鎖状につながっていく。 神田がレストランでいなくなったのは、宮田に気を遣った訳ではなく、浅井の組員にみつかって事務所に連行されたのだ。可笑しいのは、凄みを効かせる組長浅井が意外に好人物なこと。あゆみが持ち逃げした札束は、上下の2枚を残して中身はじつは白紙だった。浅井は組員にも金があるフリでハッタリかましていた訳だが、それを知られたくないばっかりに、金の行方を1人でシコシコ調べ回る。 真紀の携帯番号を聞きだして小躍りしている宮田の傍を、あゆみを見つけ同乗させた浅井の車が走り抜け、さらに信号で真紀の乗った タクシーの横に並ぶ。真紀は金を入れたズダ袋を抱きし
めている。そんな偶然もうまく計算されている。こうして金曜の夜から土曜の朝までの出来事が丹念に、かつ巧妙に綴られる。全容を知っているのは観客だけ、登場人物たちは自分の 目の前で起こったことしか分からない。なかでも、宮田はある意味で事件の中心にいながら、なに1つ知らないままなのだ。その微妙な ズレが面白い。 ヒゲ面の神田に扮した山中聡のしょぼくれたハンサムぶりがいい。懲りない悪女、あゆみを演じた板谷由夏の女っぷりも印象に残る。 1人1人の役者がみな個性的だ。ラストは洒落たオチがついて、ほのぼのした気分になる。内田けんじ、楽しみな新人監督が現れた。 【◎○△×】8 |