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【 映画雑感 】No.124

狼たちの午後


1975年  アメリカ  125分
監督 シドニー・ルメット
出演
アル・パチーノ、ジョン・カザール、チャールズ・ダーニング
ジェームズ・ブロデリック、サリー・ボイヤー、クリス・サランドン

  ストーリー
 1972年8月22日、うだるような暑さのブルックリンで実際に起きた事件を題材にしている。
 午後2時46分、閉店間際の銀行に、ソニー(アル・パチーノ)とサル(ジョン・カザール)、2人の強盗が押し入った。彼らは金を 奪おうとするが、現金はすでに本店に輸送された後で、たった1100ドルしか残っていない。しかも警官隊とFBIが銀行を包囲し、 もはや逃亡は不可能。しかたなく2人は、行員たちを人質に立て籠る。
 やがて、マスコミや野次馬たちが殺到し、ソニーは銀行前の道路に出ては、テレビ中継を通じて巧み人々にアピールを始めた。いつの 間にかソニーたちと人質たち、野次馬たちのあいだに奇妙な連帯感が生じ、銀行強盗が人々の人気者になってしまう。
 シドニー・ルメットの綿密な演出で現代アメリカの一面を覗かせ、アカデミー脚本賞を受賞した。

  一口感想
 邦題は “狼たち” とエライかっこいいけど、ほんとのとこは、ソニーとサルは “犬” 並みの情けなさだ。勿論、猟犬ではない。 ソニーはみんなをまとめようと懸命に駈けずり回る牧羊犬、サルは雨に濡れてくんくん鳴いている捨てられた子犬、というところか。
 (ちなみに、辞書を引くと、原題 “Dog Day Afternoon” の 「dog day」とは「うだるような暑さの日」を言うらしい。)

 いつの間にか警察やFBIに包囲されているのを知って呆然とするソニーに、支店長が「さっさと立ち去らないからだ」と残念がる ように言う場面がある。彼だって自分の支店が襲われて嬉しいはずはない。でもそう言いたくなるようなじれったいところが、たしかに ソニーとサルの2人にはあるのだ。
 仲間のひとりが、もう銀行に押し入っているというのに、「やっぱり怖くなった」「ごめん」と脱落するのを手をこまねいて見ている し、その後の手際もあまりにお粗末で間が抜けている。支店長は、2人が根は善良な人間だということを直感的に見抜いたのだろう。
 この映画は実話をもとにしているそうだが、大それた事件のようでも、実際は案外こんなものか もしれない。被害者本人が、事件発生間もないのに、早くも犯人たちに同情している気配なのだ。
 ソニーが沿道に押しかけた野次馬たちやテレビ中継を通じて民衆の喝采を浴びたのも、2人のあまりにドジな素人っぽさに、人々が 親近感を覚えたからだろうと思う。

 ソニーとサルがしたことといえば、たかだか1100ドルの金を奪い損なっただけ、人質を傷つけた訳でも、銃を発砲した訳でもない。 それでも銀行強盗は重大犯罪だ。そのツケはちゃんと回ってくる。
 初めのうちは、警官モレッティ(チャールズ・ダーニング)が体当たりでソニーを説得しようとする。そのやり取りはユーモラスで、 人間臭い温かみがある。しかし、脇でじっと様子を見ていたFBIのシェルドン捜査官(ジェームズ・ブロデリック)が出てくる辺り から、じわりと緊張感が高まる。
 彼は「人質の様子を知りたい」という口実で銀行の中に入る。(それもそうだ、と入れてしまうソニーの人の好さ!)そしてわずか 数分の間に、「ソニーは滅多なことはしないだろう。問題なのはサル。おとなしいけれど、切れた時が危ない」と冷静に観察してしまう のだ。
 空港へ彼らを送る車が到着するまでに、運転手役の警官と綿密に計画を練ったにちがいない。「暴発するといけないから」と何度も 銃口を上に向けさせ、なし崩しにサルの防備を弛めて、一気 に額を打ちぬいてしまう。その手際のよさはゾッとするほどだ。

 次々に起きるトラブルをひとりで抱え、右往左往して、少しも報われないソニー、ソニーの言うことを丸呑みにして頼りっきりのサル。 これまでいいことなど1つもなかったに違いない2人が、やっぱり最後まで惨めな “犬” の人生から抜け出せなかったのが哀れに 思える。
 あれほど喝采した人々が、数時間もたたないうちに、空港に向かう彼らの乗った車に石を投げつけ罵倒するシーンが印象的。民衆の 気まぐれは、犯罪すらお祭りの出し物に化し、そしてすぐに飽きるのだ。
 気持ちが通い合ったかに見えた人質たちが、サルの死体やソニーに一瞥もくれず立ち去るのを見て、がっくり頭を垂れるソニー。 2人の主人公を初めとして、脇役の1人1人にいたるまで、登場人物の個性がはっきりと粒だって見える。それがこの映画を魅力ある ものにしていると思った。
  【◎△×】8

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