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【 映画雑感 】No.123

シュウシュウの季節


1998年  アメリカ  99分
監督 ジョアン・チェン
出演
ルールー、ロプサン、リュウ・ユエ、ガオ・ジエ
リー・チチェン、ガオ・シャン、シン・ウェンヤン

  ストーリー
 『ラストエンペラー』で皇后役を演じたジョアン・チェンの初監督作品。下放政策に翻弄される少女の苛酷な運命を描く。
 1970年代半ば、文化大革命末期の中国では、都会の少年少女を農山村に派遣して労働を学ばせる “下放政策” が行われていた。 成都に住む少女シュウシュウ(ルールー)も農村に移り住むが、1年が過ぎた時、さらに平原に移住してチベット人のラオジン (ロプサン)に放牧を学ぶことになる。
 シュウシュウはひたむきに任務を全うし、両親(リュウ・ユエ、ガオ・ジエ)の元に帰る日を待ち望むが、半年間の任期が終わっても 迎えに来る者はいなかった。

  一口感想
 1966年からの約10年間、中国で吹き荒れたいわゆる “文革” の嵐は、日本でもさまざまな形で報道された。当時20代初めの 私には、おそろいの帽子をかぶり、ずらりと並んで行進する紅衛 兵の姿がずいぶん奇異に見えたことを思い出す。
 中国では今、凄まじい変化が起こっている、という印象はあったが下方政策のことは知らなかった。これは文革末期、都会の学生に 労働の尊さを教える目的で、毛沢東の号令一下、行われたものだそうで、2〜3000万の若者たちが農村や辺境に移住させられたと いうから驚く。

 文化大革命は中国の経済・文化・教育・人心に大きな混乱と荒廃をもたらした。『さらば、わが愛/覇王別姫』(93)や『レッド・ バイオリン』(98)などからも、この運動がいかに中国の人々に深い傷を残したかを垣間見ることが出来る。そして本作では正面から 下方政策の犠牲になった少女の短い人生が語られる。

 下方政策で農村へ赴いたシュウシュウは、放牧を学んで女子班を組織するという任務を与えられて、さらに奥地の草原に派遣される。 しかし、実際やることといえば、若いころ喧嘩がもとで去勢されたという噂があるチベット人のラオジンと、同じテントで寝起きする だけだ。
 2人の生活を描いた前半は牧歌的なのどかさに満ちて、とても楽しい。ラオジンの不能の噂をからかったり、都会が恋しいと無邪気に 当たったりするシュウシュウ。そんな彼女によって、孤独な暮らしが慰められるラオジン。
 お風呂に入りたいというシュウシュウのために、ラオジンは丘に穴を掘って浴槽代わりの池を作る。シュウシュウが草の丘を気持ち 良さそうにごろごろ転がるシーンは、のびやかな幸福感すら漂う。雄大な自然の中で2人の心は交わり深まっていく。

 やがて任期の半年が過ぎて、故郷に帰る日が近づく。シュウシュウは荷物を整理し、大切にしまっていた一張羅のセーターと美しい スカーフで身支度を調え、迎えが現われるのを待つ。しかし誰もやってこない。あくる日も、その次の 日も・・・。
 じつは、この半年の間に文革は終息期を迎え、奥地に送り込まれたシュウシュウは忘れ去られてしまったのだ。中国では居住地を 移動するには党の許可が必要なのだそうだ。自分の気持ちだけで動くことは出来ない。

 シュウシュウが帰郷許可証をちらつかせる男に騙され、さらに許可証発行を餌に次々とやって来る男たちに身を任せる辺りから、 物語は痛ましい様相を呈してくる。どんどん荒んでいくシュウシュウ。それを悲しげに見つめる無力なラオジン。彼がシュウシュウを 守れないことがじれったい。
 身ごもったシュウシュウは町で堕胎処置をしたあと、ラオジンに託した銃で撃たれて死ぬ。その結末が救いのように感じられるほどに、 この展開はつらく苦しい。

 テントに戻ったシュウシュウは、初めは、自分の足を撃って帰郷許可証を手に入れたという町の男に倣うつもりだった。しかし、 いつしか死への決意に変わる。髪を結い直し、スカーフを結び、口元に仄かな笑みを浮かべて銃の前に立つシュウシュウ。
 心中を察したラオジンは彼女を撃つ。そして遺体を浴槽代わりの池に浮かべると、自分も自決する。2人の身体と銃が雪に埋もれる。 あまりにつらく悲しい物語だけれど、最後はピュアなラブストーリーの色合いを帯びる。
 シュウシュウを演じたルールーのあどけないほどの可憐さ、中年の遊牧民ラオジンを演じたロプサンの無骨な誠実さ、ともにその 印象は鮮烈だ。

 今でも下方から帰ることが出来ずに、異郷で暮らす人は数多く存在するという。シュウシュウの悲劇はほんのその1つに過ぎないのだ。
  【◎△×】8

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