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【 映画雑感 】No.119

ウィスキー


2004年  ウルグアイ/アルゼンチン/ドイツ/スペイン  94分
監督 フアン・パブロ・レベージャ、パブロ・ストール
出演
アンドレス・パソス、ミレージャ・パスクアル、ホルヘ・ボラーニ
ダニエル・エンドレール、アナ・カッツ

  ストーリー
 ウルグアイの下町で父から譲り受けた靴下工場を細々と経営するハコボ(アンドレス・パソス)は、1年前に亡くなった母親の墓石 建立式のため、ブラジルで暮らす弟、エルマン(ホルヘ・ボラー ニ)を呼び寄せる。
 ブラジルで同じく靴下工場を営むエルマンは、最新の機械を入れて順風満帆だ。ハコボは工場で働くマルタ(ミレージャ・パスクアル) に、弟の滞在中、妻の役を演じてほしいと頼む。
 長い付き合いだが、仕事以外の口を利いたことの2人は、それから結婚写真を撮ったり、結婚指輪を用意したりと、不慣れな準備を始める。
 無事、建立式も終わり、エルマンは2人をリゾート地への小旅行に誘う。 カンヌ国際映画祭、東京国際映画祭などで各種の賞を受賞した、日本初登場のウルグアイ映画。

  一口感想
 初めて見るウルグアイの映画がこれほど滋味豊かだとは思わなかった。私は冒頭からこのぶっきらぼうで無愛想な映画がすっかり 好きになり、最後まで引き込まれてしまった。
 錆だらけの古ぼけたシャッターの前に中年女が立っている。そこに似た年頃の男が現れる。「おはよう、ハコボさん」「おはよう、 マルタ」。男はガタガタのシャッターを開け、女は中に入って工場の動力にスイッチを入れる。2人の若い女性従業員が出勤してくる。 毎日繰り返される何の変哲もない日常。
 ここにハコボの弟、エルマンが現れなかったら、ハコボとマルタはこのまま無味乾燥な生活を10年、20年となんの疑問もなく 続けたことだろう。不機嫌ではないのだが、面白くもおかしくもない、といわんばかりの2人の表情は、独特の乾いたユーモアを醸し だす。

 ハコボの工場が作る靴下は、バーゲン用の安物だ。一方、エルマンはブラジルで同じ靴下工場を営み、羽振りはずっとよさそうだ。
 2人が挨拶代わりに自社製品を交換する場面が面白い。ハコボは町で上等の靴下を買い、包み紙を変えて、自分の工場で作った振りを する。エルマンは大いに興味をそそられ、どんな工場か見せてくれという。ハコボはしぶしぶ案内するが、エルマンは錆の浮いた シャッターを見ただけで中に入るのを止してしまう。
 成功した弟に対するハコボの意地は、見事に空振りする。ハコボの意地はその後の3人での小旅行でも散見され、おかしくもほろ苦い 気持ちにさせられる。

 そもそも、彼がマルタに妻の振りをしてくれと頼むのも、円満な家庭を営む弟への意地からなのだ。弟が帰るまでの一時しのぎに過ぎ ない。ところが、あっさり承知したマルタのほうは少し違っていた。変わり映えのしない日々を送りながら、彼女は何かが起こるのを 待っていたのだと思う。いそいそと美容院に行き、身奇麗に整える。
 3人の小旅行で、エルマンと “逆さ言葉” 遊びをしたり、ホテルのプールで水を掛け合ったりするマルタは、見違えたように 若やいでいる。彼女は初めて恋に似たトキメキを感じていたのではなか ろうか。

 プールでマルタはハコボから渡された結婚指輪を落としてしまう。母親のものだというこの指輪はもともとサイズが一回り大きい。 ゆるくて落としそう、というセリフが前に出て来て伏線を張ってはいるが、ここでマルタはハコボとの結婚は偽物だとエルマンに ほのめかしたのだと思う。もちろん無意識ではあるけれど。エルマンもそれをちゃんと察知する。
 エルマンは分別もあり情もわきまえた、なかなかチャーミングな男だ。マルタが彼と話すたびに心が潤っていくのがとてもよく感じ られる。それでも2人の間にはなにも起こらない。

 旅行が終わり、指輪をハコボに返し、タクシーで自宅に帰るマルタの顔がとても悲しそうだ。彼女はもうもとの生活にもどれない 自分を感じていたのではないかと思う。
 翌朝いつもの時間にハコボは工場にやってくるが、マルタはいない。シャッターを開け、工場の動力にスイッチを入れ、女性従業員が 出勤してきても、マルタは現れない。単なる遅刻でないのは明らかだ。
 人生の酸いも甘いも噛み分けたような演出ぶりだが、共同監督のフアン・パブロ・レベージャとパブロ・ストールは30代の若さなの だそうだ。なお、タイトルの「ウィスキー」は写真を撮る時の掛け声のことで、日本の「チーズ」に相当する。
  【◎△×】7

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