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【 映画雑感 】No.114

おろしや国酔夢譚


1992年  日本  123分
監督 佐藤 純彌
出演
緒形 拳、オレグ・ヤンコフスキー、川谷 拓三、三谷 昇、西田 敏行
沖田 浩之、米山 望文、マリナ・ヴラディ、江守 徹

  ストーリー
 江戸時代、ロシヤに漂着した無名の日本人船頭が、帰郷を熱望して女帝エカテリーナ二世に直訴し、帰国を果たしたという実話を もとに、井上靖原作の同名小説を映像化した大河ドラマ。総製作費45億円をかけて、シベリヤ大陸横断ロケを敢行した。
 1782年、大黒屋光太夫はじめ17人を乗せた神昌丸は大嵐で難破し、9カ月後に北の果てカムチャッカに漂着する。生き残った のは光太夫(緒形 拳)、小市(川谷 拓三)、九右衛門(三谷 昇)、庄蔵(西田 敏行)、新蔵(沖田 浩之)、磯吉(米山 望文)の わずか6名だった。
 彼らは寒さと闘いながらシベリヤを転々とするが、帰国の許可を出すのがイルクーツクの総督だと知り、光太夫は5000キロ かなたの地を目指す決心をする。さらに、学者ラックスマン(オレグ・ヤンコフスキー)らの協力を得て、首都ペテルブルグで エカテリーナ二世(マリナ・ヴラディ)に拝謁し、帰国の許可を得る。
 1792年、光太夫らはじつ9年9カ月ぶりに根室の土を踏む。しかし、鎖国中の幕府は彼らをすぐには迎え入れようとしな かった・・・。

  一口感想
 外国を舞台にした日本映画は、これまで違和感を覚えることが多かった。登場する日本人俳優は、周囲の風景や現地の人たちから 浮いていてまるで生活感がない。いかにもそこに馴染んだように振舞うのが、見ていて気恥ずかった。
 本作はソ連(途中で体制が変わり、ロシア)の協力を全面的に受けているせいか、そういう付け焼刃的な軽さがまったくない。日本人 俳優と現地のロシア人俳優がたがいにしっくり溶け込んでいて、不自然さがないのだ。そういう意味では安心して見ていられる映画 だった。

 圧巻なのは、光太夫らがカムチャッカからイルクーツクまで厳冬のシベリア大陸を横断するシーンだ。光太夫は出発前に、「落伍した ものは見捨てる。助けようとすると全員の命取りになるからだ。自分の命は自分で護れ」とみなに言い渡す。妥協の余地のない厳しさ。 背中がずーんとしてくる。
 シベリアの冬は零下60度とか70度とか聞いたことがある。風が吹きすさび雪が舞う大雪原を、光太夫たちのソリ馬車が一列に 並んで進んでいく。荒寥とした空気。切り裂くような冷たさが視覚的にびんびん伝わってくる。じっさいの光太夫たち一行はもちろん、 撮影も命がけだったろうと思う。それほど迫力がある。

 途中、庄蔵は馬が倒れたために1人取り残されてしまう。このまま彼はこの雪原で死ぬんだ、と思った時、地平線からシャンシャンと 鈴の音を響かせて光太夫がもどってくる。「やはり見捨てなかった」と思わず感動するが、話はそれほど甘くない。庄蔵はひどい凍傷に かかり、脚を切断しな ければならなくなる。
 捨て鉢になって荒れる庄蔵。その苦悩が契機となって、彼はキリスト教に帰依し、ロシアに帰化する。
 若い新蔵はイルクーツクでロシア女性と恋に落ちて、やはりここに留まる決心をする。望郷の思いに胸を焦がしながら、病を得て 死んで行く者もいる。
 船乗りたちの1人1人にそれぞれのドラマがある。それがとても見応えがある。

 後半のハイライトは、光太夫がエカテリーナ二世に謁見するシーンだろう。エルミタージュ宮殿にカメラが入ったのは初めてだそうで、 その絢爛たる壮麗さはまさに本物だけが持つすごさだ。居並ぶ宮廷人たちの前を進む光太夫。実際に自分もその場にいるような緊張を 覚える。
 短い謁見の後、女帝が立ち去り際にふと立ち止まって、「そんなに帰りたいか」と光太夫に問う。光太夫の「はい」という答えに、 「それでは帰るがよい」とまるで気まぐれのように洩れた一言。しかしその一言で大艦がしつらえられ、光太夫たちは日本まで送り 届けられる。
 絶対者の権力とは桁外れのものなのだ、と思わされる場面だった。あのマリナ・ヴラディが太めになって貫禄十分。やはり美しい。

 光太夫たちがロシアでどれほど望郷の思いを抱いて10年を過ごしたかが、生々しい臨場感で描かれるせいか、日本にもどった彼らが まるで罪人のように扱われるのが、見ていてとてもつらかった。上陸を許される前に、故国を眼前にしながら病死する者もいる。政治と いうのは非情なものだとつくづく思う。
 緒形拳を初め日本人俳優たちは、そろって個性ある素晴らしい演技だったと思う。
  【◎△×】8

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