| 【 映画雑感 】No.75 |
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ストーリー 第二次大戦が終わって間もない46年6月、ソ連は社会主義体制を逃れ、西側に亡命していたロシア人たちに特赦を与え、疲弊した 祖国の再建に参加するよう呼びかけた。それに応えて帰国して人々のほとんどが、処刑されるか収容所送りになったという。本作は、 そうしたスターリン時代の暗黒政治の一面を描いている。 フランスに亡命していた医師アレクセイ(オレグ・メンシコフ)は、フランス人の妻マリー(サンドリーヌ・ボネール)と一人息子 (ルーベン・タピエロ)を伴って帰国する。しかし一家を待っていたのは、共同住宅で常に監視にさらされる苛酷な日々だった。 同じ住宅に住む水泳選手のサーシャ(セルゲイ・ボドロフ・ジュニア)は、祖母がマリーと親しくなり、フランス語の歌を歌ったこと からスパイ容疑をかけられ、逮捕されてしまう。行き場所をなくしたサーシャはマリーの好意で彼らと同居することになる。 家族の生活を守るために体制に従うアレクセイとマリーとの仲は、次第に険悪になっていく。マリーはフランスから公演にきた有名 女優ガブリエル(カトリーヌ・ドヌーヴ)に、帰国を訴える手紙を託すのだが・・・。 こういった映画を見ると、日本人の私としてはどうしても、帰還事業で北朝鮮に帰った在日の人たちや、同行した日本人妻たちに イメージが重なってしまう。彼らはスパイとして収容所送りになった人が多いと聞いたことがある。 本作にも、「帰国者の90%は帝国主義のスパイだ」という内務省役人の台詞が出てくる。それならなぜ帰国を促したりするんだろう、 残り10%の愛国者を得るために、90%の犠牲も厭わないということなんだろうか、と素朴に疑問を感じてしまう。 本作自体はフィクションだが、そのもとになる実話は山ほどあったんじゃないかと思う。 亡命はしても、祖国への愛そのものが消えるわけではない。帰還船のなかで、帰国者たちが新
生ソ連の建国のために力を尽くそうと
誓い合い、祖国の懐かしい歌や踊りに興じるシーンが、冒頭に出てくる。やっと祖国に帰れるという彼らの喜びや、祖国再建への昂揚した思いが伝わってくるだけに、船がオデッサの港に着いた途端、拡声器 から冷たい響きで流れ出る命令や、従わなかったものが問答無用で射殺されるシーンにはショックを受ける。 その後の、お互いが監視し、密告しあう生活。描写がリアルなので、見ていて息苦しくなる。マリーでなくても、自由主義の生活を 知るものにはとても耐えられない。ソ連崩壊後、あまり間がなく製作された本作だが、ロシアでは多くの観客を集めたそうだ。彼らはついこの間までのこういう生活を、どのような思いで見たのだろう。 マリーが女優ガブリエルの導きで、息子セルゲイ(エルヴァン・ベノー)とともにブルガリアのフラ
ンス大使館に逃げ込むシーンが
非常に印象的だ。ガブリエルは「西欧人(=単なる旅行者)に見えるように」とマリーにコートを着せる。平静を装って大使館へ歩む3人、見送る警官。 彼の目がふと足もとに注がれる。すると、ガブリエルがストッキングとパンプスなのに、隣を歩くマリーは厚手のソックスに深靴なのだ。 いかにも野暮ったく、地味で貧しい。これで一遍に亡命者とばれてしまうのだ。 ガブリエルもマリーも、足もとまでは思いが及ばなかった。いかにもありそうで、そのリアルさが異常な緊迫感を生んでいた。しかし、 間一髪のところでマリー親子は亡命に成功する。 映画を見終わって一番心に残るのは、夫アレクセイの妻子に対する愛情の深さだ。 望郷の思いで帰国したものの、祖国再建の夢は無惨に打ち砕かれる。彼も本心ではすぐ後悔したのではないかと思う。しかし、体制に順応し信頼されなければ脱出も不可能だと悟った彼は、辛抱強く機会を待つ。 雌伏10年という言葉があるが、まさに10年の歳月を経て、彼はついに妻子を脱出させることに成功する。一家離散という大きな代償と引き換えに・・・。彼が渡仏を許可されるのはそれからさらに30年後、ゴルバチョフの軟化政策によってなのだ。 美男俳優のオレグ・メンシコフが苦渋に満ちた夫を好演し、本作をみごとな夫婦・家族の愛の物語にしていた。 【◎○△×】8 |