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【 映画雑感 】No.53

父、帰る


2003年  ロシア  111分
監督 アンドレイ・ズビャギンツェフ
出演
ウラジーミル・ガーリン、イワン・ドブロヌラヴォフ
コンスタンチン・ラヴロネンコ、ナタリヤ・ヴドヴィナ、ガリーナ・ポポーワ

  ストーリー
 イワン(イワン・ドブロヌラヴォフ)は12歳の少年だ。母(ナタリヤ・ヴドヴィナ)、祖母、兄アンドレイ(ウラジーミル・ ガーリン)の3人と平穏な暮らしを送っている。
 ある日、遊びから帰った兄弟はベッドに眠る父(コンスタンチン・ラヴロネンコ)の姿に戸惑う。父は12年前に突然家を出て、以来 まったく音信不通だったのだ。寡黙な父は長い不在について何も語ろうとせず、母も説明しない。
 翌朝、父は兄弟を連れて2日間のキャンプ旅行に出かける。兄アンドレイは次第に事態を受け入れ、父への傾斜を深めるが、イワンは ことごとに反抗する。しかし、それも父の威圧感の前に一方的にねじ伏せられる。
 ぎこちない雰囲気のまま、父は突然目的地を変更し、ある無人島へと向うのだが・・・。
 アンドレイ・ズビャギンツェフ監督は本作によって、新人ながらべネチア国際映画祭のグランプリ、新人監督賞をW受賞し、ロシア 映画界の新星として世界にその名を知らしめた。

  一口感想
 突然に12年ぶりに帰ってきた父親は、その間どこに行っていたのか、なぜその間一度ももどらず、連絡も取らなかったのか、父親 だけでなく母親も、なぜ不在の説明をしようとしないのか・・・。
 この父親には暗い翳りがある。キャンプに行く途中で、しょっちゅう電話をかける相手は誰なのか。船の上で得体の知れない男と 耳打ちを交わす彼のシルエットは謎めいている。仕事が出来たといって、予定を変更して、急に無人島に向う。そこで彼が掘り出す 箱には一体何が入っているのか。
 私は、この父親は何かの犯罪に関わり、投獄されていたのではないか、という気がする。刑を終えたのか、仮出所なのか判らないが、 刑務所を出た今も、その犯罪と縁が切れていないのではなかろうか。
 次男イワンの父親への反発は、母と祖母、兄との安定した生活に突如現われた侵入者、というだけでなく、父親の持ち込むそうした 匂いにある種の不安を覚えたからではないか・・・。一方、多少年長の長男アンドレイは、微かに父の記憶があるだけに、戸惑いながら も、父を受け入れやすかったのだろう。
 とはいえ、私のこの現実的な想像は映画ではさほど重要な意味は持たない。長男と次男では、「父」という男の立つ世界がまるで 様相の違うものに見える。そのことが興味深く思えるのだ。

 イワンは映画冒頭では高いやぐらから海に飛び込むことが出来ない。下からあおった飛び込み台のやぐらは圧倒的な高さと大きさで 迫り、見るからに怖い。
 やぐらの上に取り残され、寒さと心細さで震えるイワン。母親はそんな彼を抱きしめてくれるけれど、それでは男の世界は立ち 行かない。弱虫とレッテルを貼られた彼は、少年のグループから疎外される。
 そこに突然現われた “父” は、彼を男として鍛える。イワンの父への反発は、得体の知れぬ突然の闖入者に対する不安と同時に、 大人の世界に踏み出す前の、少年の不安や孤独感と重なっているように思える。

 イワンはこの父が本当に “父親” なのどうかを試す。この時に、あのやぐらからの飛び込みと同じ場面が繰り返されるのが非常に 印象的だ。父はそれに応えようとして墜落し、死んでしまう。
 精神分析での “父親殺し” は、男の子が父を乗り越え、一人前の男に成長する時に行う心理的な作業と言われているけれど、イワン は実際に父を “殺して” しまったのだ。
 2人の兄弟が父から仕込まれた野生で生きる知恵を実際に確かめるのが、父を弔う時であるのが奇妙な符合を感じさせる。
 こうして2人は父と赴いた神秘的な無人島から母のいる現実世界にもどって来る。母の懐を巣立った「父の息子」として・・・。

 人の気配を感じさせない寂しく静かな町の風景。森や湖をおおう硬質で透明な色調。静謐な雰囲気のなかに緊張感が漂い、最後まで ぐいぐい引きつけられる。イワンに扮するイワン・ドブロヌラヴォフの可愛げのない仏頂面が強烈。
  【◎△×】8

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