| 【 映画雑感 】No.46 |
|
ストーリー 2002年に処刑された、アメリカ犯罪史上初の女性連続殺人犯として “モンスター” と呼ばれた女性、アイリーン・ウォーノスの 痛ましい半生を描いている。監督は本作が長編でデビューとなる女性監督パティ・ジェンキンス。体重を13キロ増やし、義歯と特殊 メイクでアイリーン像を作り出したシャーリーズ・セロンがアカデミー主演女優賞を獲得した。 1986年、フロリダ。売春婦のアイリーン(シャーリーズ・セロン)は、同性愛の治療でこの町に来ていたセルビー(クリスティーナ ・リッチ)と知り合い、意気投合する。2人で暮らそうと提案するアイリーンだが、腕にギプスをはめたセルビーには生活力がなく、 足を洗おうと決心したアイリーンにまともな仕事の口はない。 再び道路脇に立つアイリーンが拾った客は、娼婦への憎しみを吐きながら凄まじい暴力を振るう男だった。男を射殺したアイリーンは、 セルビーを連れて逃避行に入る。「セルビーとの暮らしを守るためならどんなことでもする。」その決意が次第にアイリーンを追い 詰めていく。 映画が終わった時、私の胸をおおっていたのは深い悲しみの感情だった。 アイリーンの生い立ちについて、映画は彼女のナレーションと台詞でごくあっさりと触れるだけだ。それは悲惨な境遇を細かに描く ことで、彼女の犯した罪が「仕方なかった」と正当化されるのを避けるためのように思える。どんな理由があれ、アイリーンの犯した 罪は許されるべきものではない。そのことをしっかりと踏まえた上で、映画はアイリーンを偏見も差別もなく、一人の人間として描いて いく。
同性愛者ではないアイリーンが深くセルビーを愛するようになったのは、セルビーがそっとアイリーンの頬に触れながら「きれい」と 呟いた瞬間ではなかったかと思う。 それは美醜の問題ではない。美醜でいうなら、長年の荒んだ生活と、不信と絶望に凝り固まったアイリーンは、お世辞にも綺麗とは いえない。セルビーの言葉は「善きもの」としてアイリーンを受け入れたことを意味している。それがアイリーンの心を矢のように 貫いたのだ。 アイリーンは自分に蔑みと拒絶しか示さない社会に対し、心に硬い鎧を覆い、感情を麻痺させて生きて来たと思う。しかし、セルビー と出会ってからのアイリーンを見ていると、彼女がいかに血を吐くように「愛」を求めていたかが分かる。セルビーは彼女が初めて 出会った「愛」だった。セルビーとの生活を維持するために、アイリーンは次第に殺人さえ犯すようになる。 アイリーンの最初の殺人は、正当防衛に近いものだったのではないかと思う。路傍で客を拾うヒッチハイク娼婦が、いかに命を的に した危険な商売か、恐ろしいほどだ。しかし、アイリーンはこの殺人で一線を踏み越えてしまった。その後は、車を手に入れるため だけに、簡単に客を射殺するようになる。 アイリーンが運命の出会いをするセルビーは、不思議な女だ。同性愛治療のために預けられた父の友人ドナ(アニー・コーレイ)に 「売春婦などと一緒に暮らして」と言われると、「これが私の選択」ときっぱり言うような強さを見せる反面、「お腹がすいたのに何も してくれない」とアイリーンを非難する。子供と大人が交じったような複雑な性格だ。
殺したのが私服警官だったと知り、狼狽したアイリーンがバスで逃げようと言うと、「車でないと嫌」と言う。娼婦のアイリーンが
車を手に入れようとすれば、また殺人を犯すしかないと薄々承知していながら、そう主張するのである。クリスティーナ・リッチが、華奢な愛らしい風貌でアイリーンを翻弄する病的な少女を存分に演じてみせる。彼女は似顔絵の手配書が 回り、身の危険を感じると、やすやすとアイリーンを見捨てて親元へ帰ってしまうのだ。 アイリーンがバス停にセルビーを見送る別れのシーンは、この映画でもっとも悲痛な場面だ。いつも虚勢を張って強がっていた アイリーンが胸のうちを吐露し、初めて涙を流す。歪んだ愛ではあるけれど、紛れもなくアイリーンはセルビーを愛し、必死に守ろうと したのだ。 その悲痛さは、セルビーが警察に協力して、囮の電話をアイリーンにかける場面で極まる。盗聴されていることを察しながらも、 アイリーンは心からの愛をセルビーに告白する。この場面で、私は不覚にも涙が流れそうになった。13キロの増量と特殊メイク・義歯 で挑んだシャーリーズ・セロンの渾身の演技なくして、この映画はありえなかったと思う。 アイリーンは全米を震撼させた連続殺人犯として “モンスター” と呼ばれたそうだが、私は無惨な一生を送った女性として哀れを 禁じることが出来なかった。 ブルース・ダーンが演じたヴェトナム帰りの酒場の男トーマスにも触れない分けにいかない。彼はアイリーンの身の上を終始案じ 続けたただ一人の人物だ。彼の存在が、つらく重い映画の中でわずかな救いを感じさせてくれた。 【◎○△×】8 |