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【 映画雑感 】No.31

レッド・ドラゴン


   2002年  アメリカ  125分
監督 ブレット・ラトナー
出演
アンソニー・ホプキンス、エドワード・ノートン
レイフ・ファインズ、エミリー・ワトソン
ハーヴェイ・カイテル、フィリップ・シーモア・ホフマン

  ストーリー
 『羊たちの沈黙』『ハンニバル』と続いたトマス・ハリス原作の “ハンニバル・レクター3部作” の1作目で、『羊たちの沈黙』 の “バッファロー・ビル” 事件の前に起きた、“咬み付き魔” 事件を描いている。
 FBI捜査官ウィル・グレアム(エドワード・ ノートン)はレクター(アンソニー・ホプキンス)を逮捕したものの、彼との死闘で自らも深い精神的な傷を負い、現在は引退して、 家族と温暖なフロリダで静かな生活を送っていた。しかしある日、元上司のジャック・クロフォード(ハーヴェイ・カイテル)が彼を 訪問し、最近の家族連続殺人事件の捜査協力を依頼する。
 気が進まぬグレアムだったが、結局クロフォードの要請を受け入れ、捜査に加わることになる。捜査は難航し、グレアムはいやいやながら収監中のレクターに助言を求めて会いに行く。そして、彼のヒントで一歩一歩事件の核心に近づいていくが、じつはレクターは犯人とひそかに連絡を取り合っていた。

  ひと口感想
 個人的には『羊たちの沈黙』より面白かった。『羊たちの沈黙』はB級ホラーの素材が出演者のレベルの高さで危うくA級に 滑り込み、おまけにアカデミー賞まで受賞しちゃった、という感じで大ブレークした映画だったと思う。
 この映画の魅力は圧倒的にアンソニー・ホプキンスの演じるハンニバル・レクター博士の異様な存在感にあった。それに絡む ジョディ・フォスター演ずるFBI捜査官候補生との関係がこの映画のすべてといってよく、二人が初めて顔を合わせる犯罪者 精神病棟の地下室のシーンは今思い出してもゾ〜ッとするほど怖かった。レクターと対決するクラリスの恐怖と緊張がそのまま 伝わってくる。稀に見る優れたシーンだったと思う。
 本作でも元FBI捜査官グレアムが同じ病棟の地下廊下をレクターに会いに行くが、あの時の恐怖が甦って、こわ懐かしい 変な気持になった。それほどに『羊たちの沈黙』はインパクトの強い記憶に残る映画だったが、心理的なものが好きな私としては、 連続殺人犯 “バッファロー・ビル” の猟奇的な異常性だけが強調されて、彼がどういう人間なのか少しも分らないが物足りなかった。


 本作『レッド・ドラゴン』はさすがにレクター博士の怖さは薄れているが、3作目ともなれば致し方ない。その意味で、名優 ホプキンスといえグレアムとレクターの絡みをサブにして、連続殺人犯 “咬み付き魔” ダラハイドと彼を追うグレアムをメインに したのは賢明だったと思う。錚々たる俳優たちを揃え、それぞれが十分に力量を発揮して見応えある内容になっている。

 連続殺人犯ダラハイドは、幼少時に受けた虐待から自己愛や自尊感情をぼろぼろに破壊された人間だ。その苦しみを<強きもの> “レッド・ドラゴン” に同一化し、自らを<神>とすることで乗り越えようとする。その深い苦悩を丁寧に描くことで、監督 ブレット・ラトナーは犯人像に人間的奥行きを与えることに成功した。
 個人的には、デビュー作『真実の行方』で多重人格の殺人犯を演じて印象が強かったエドワード・ノートンがダラハイド役でも よかった気もするが、レイフ・ファインズも眼に静かな狂気を湛えてぴったりとはまっている。
 彼が、拉致した新聞記者フレディを全裸にして接着剤で椅子に張り付け、その前で背中に彫ったドラゴンの入れ墨を揺らして見せるシーンなど、性倒錯的な恐怖がぞーっと湧き上がってくる。図書館でウィリアム・ブレイクの画集からレッド・ドラゴンのページを破り取り、むしゃむしゃと食べるシーンの彼の眼も怖い。

 しかし、映画はこうした異常性だけでなく、ダラハイドの幼少時の記憶をフラッシュバックのように描くことで、愛に飢え、 去勢の恐怖に怯える子どもの姿を眼前に髣髴(ほうふつ)とさせる。心に魔物を棲まわせなければ、彼は生き 延びてこれなかったのだ。
 彼が盲目の女性リーバの純愛に触れて、自らの心の闇に巣食うモンスターから彼女を守ろうとあがくシーンは切ない。 その孤独と苦悩が見るものの胸に迫ってくる。それだけに、ダラハイドは彼女への愛に殉じて最後の放火シーンで死んでほしかった 気がする。最後でただの怪物男のようにしてしまったのは、演出としてはちょっと間違ったんじゃなかろうか。


 この映画でもう1つ興味深かったのは、グレアムとレクター博士の間に流れる “血族” とでもいうような、奇妙な連帯の感情だ。 2人はどちらも自らの心の闇に潜む魔物のことを知っている。グレアムはFBI捜査官になることで “こちら側” に踏み止まり、 レクターは平然と “あちら側” に身を置いて、グレアムの努力を嗤う。
 実際グレアムはまんまとレクターの罠にはまり、新聞記者フレディを死に追いやる。つまり間接的にだがフレディを殺害することに加担する。2人が対面する場面には、だからレクターに呑み込まれるという若いグレアムの恐怖と緊張がいつも漂う。2人の関係が生むこの緊迫感が映画全体を引き締めていると感じた。

 グレアムを演ずるエドワード・ノートン、ダラハイド役のレイフ・ファインズは、それぞれに陰影深い人物像を造型し、さすが と思った。彼らに絡むエミリー・ワトソン、フィリップ・シーモア・ホフマンも好演。ただ、ハーヴェイ・カイテルは凡庸と いう印象。個人的には『羊たちの沈黙』の上司役グレン・スコットの方が好きだった。
  【◎△×】8

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