| 【 映画雑感 】No.9 |
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ストーリー グロリア(ヴィクトリア・アブリル)は、元闘牛士で事故から植物人間になってしまった夫の介護に疲れ、異国の地メキシコで売春婦 をしていたが、偶然犯罪組織がマネーロンダリングに使っている店のリストを手に入れる。故郷スペインに強制送還されたグロシアは、 姑フリア(ピラル・バルデム)の「自分で働いて生きなさい」という言葉に耳を貸さず、リストにあった高級ブティックから金を強奪 する計画を立てる。一方、リストを取りもどしグロリアを抹殺する指令を受けた殺し屋が2人、メキシコからマドリッドに送り込まれて くる。 冒頭、いきなり麻薬がらみの銃撃戦。てっきり犯罪組織の対立抗争を描くハードなクライム・アクションと思ったら、中身はまるで 違っていた。社会の底辺でぼろぼろになって生きる女の自立を、張り詰めたタッチで描いた映画だった。主人公はアル中の売春婦 グロリア。演ずるヴィクトリア・アブリルはスペインではトップクラスの女優とか。ほんとにうまい人だ。 グロリアはもう30半ば、年に似合わぬミニが痩せた彼女を貧相にみせる。学歴も資格もお金もなく、自分で生きようという意志も ない。「勉強しなさい。自分の力で生きなさい」と励ます姑フリアの厳しいなかの優しさを、裏切り続ける。ずたずたぼろぼろの グロリア。それでも泥沼から抜け出そうと必死にあがく姿が、見ていてたまらなく切ない。 姑フリアの存在も私に深い思いを抱かせる。大学出のインテリで、左翼運動に身を投じた闘志だったらしい。事故で植物状態の 元闘牛士の息子を世話しながら、学習塾で細々と生計を支えている。そして、突然蒸発しまたふらりと帰ってきた嫁のグロリアを、実の 娘のように迎え入れるのだ。フリアが闘志時代の友人を夕食に招く時のエピソードが心に残る。グロリアは見かけによらぬ料理上手 らしく、フリアは彼女に食事の準備を頼む。「あんたのメルルーサの詰め物は最高」と。でもメルルーサは高い。グロリアは売春まがい の行為で金を手に入れ、魚屋で大きなメルルーサを買う。酒でよろよろしながらメルルーサを抱えて帰るグロリア。彼女はフリアが 褒めてくれた料理をどうしても作りたかった、フリアの期待に応えたかったんだなぁ・・・。どん底の生活のなかで通い合う嫁・姑の 信頼や温かさが伝わってきて、胸がじわっと熱くなる。 強靱な生命力を感じさせたフリアが、グロリアが更正の道を歩み出すことを見届けるや、自死してしまうラストは、私にはちょっと ショックだった。なぜなのだ。フリアの人生はもう大分前に完結してしまっていたのだろうか。分らない。ずっと考えてしまう私だ。 ただグロリアが、殺し屋のリンチで痛めた脚を引き摺りながら大型トラックを運転し、学校で高卒の資格を取るために勉強を始める 結末は、仄かな明るさとなって救いをもたらしてくれる。フリアの眼差しを感じながら生きるグロリアだ。フリア役のピラル・バルデム の温かくも厳しい存在が私にまばゆく感じられる。 もうひとり気になる登場人物がいる。中年の殺し屋エドゥアルドだ。なんの迷いもなく殺しを続けてきた男が、愛娘の病気をきっかけ に自分の生き方に疑問を感じ始める。一人殺すごとに娘の病状が悪化する。これは神の罰ではないのか。そして、組織への忠誠心は 変わらぬまま、差し向けられた同僚の殺し屋の手により従容と死んでいく。途切れぬ緊張感のなかで死と再生を物語る、上質のエンター テインメント映画だった。 【◎○△×】8 |