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【 映画雑感 】No.7

死ぬまでにしたい10のこと


2002年  スペイン/カナダ  106分
監督 イザベル・コヘット
出演
サラ・ポーリー、マーク・ラファロ、スコット・スピードマン
デボラ・ハリー、レオノール・ワトリング、アマンダ・プラマー

  ストーリー
 『スウィート・ヒアアフター』のサラ・ポーリーが、余命2、3ヶ月と告げられた23歳の女性を演じたヒューマン・ドラマ。
 若くして結婚し、母親の家の裏庭にあるトレーラーハウスで、失業中の夫ドン(スコット・スピードマン)と幼い2人の娘と暮らしている アン(サラ・ポーリー)。育児と夜勤の大学清掃の仕事に忙しい日を過ごしていたが、ある日突然の腹痛で病院に運ばれる。 検査の結果、アンは末期のガンで、余命は2〜3ヶ月と知らされる。23歳のアンの若い肉体はあっという間にガンが進行し、もはや 手の施しようがなかったのだ。
 アンはだれにも打ち明けないことを決意し、ノートに死ぬまでにしたいことを書き出す。
 「娘たちに毎日愛しているという」「娘たちが18歳になるまでの毎年の誕生日に送るメッセージを録音する」「娘たちの気に入る新しいママを見つける」とまず子供のこと。「夫以外のだれかと恋に落ちる」というのもある。「爪とヘアスタイルを変える」「刑務所のパパに会いにいく」といったささやかな願いもある。
 それはちょうど10項目になった。その日からアンはそれを1つずつ実行していく。
 監督は『あなたに言えなかったこと』のイザベル・コヘット。『トーク・トゥ・ハー』のペドロ・アルモドバルが製作総指揮に 当たっている。

  ひと口感想
 友人が「私なら絶対もうすぐ死ぬって家族に言っちゃう。アンみたいに秘密にしない」という。そう、私も多分同じだろう。 でも、アンは言わないと決めた。だからこそ、残りの日々を十分に生き切れたのではないか。そんな気がして、私はアンの決心がとても よく了解できた。

 アンが死ぬまでにしたいこととして書き出した10の事柄。まず初めに子供たちのための項目がくるのがいじらしい。娘たちが18歳 になるまで、毎年の誕生日に贈るメッセージを、ひとり車の中でテープに録音する。「なんでもパパに相談するのよ」「新しいママを 愛してあげてね」、そしてある時ふと気づく、「今年あなたは18歳・・・もう大人なのね」と。今の自分とあまり変らぬ年齢に成長 した娘に思いを馳せて、言葉を詰まらせるアン。このシーンで目頭に涙が滲むのを、私は止めることが出来なかった。

 10項目の中には「だれかと恋に落ちる」なんていうのもある。先ほどの友人、「要するに浮気してみたいってことでしょ」。う〜ん、 まー、それはそう。でもこれも私はよーく分かる。アンは17歳で初めてキスした相手とそのまま結婚し、出産した。初恋の相手と結ば れたといえば言えるけど、恋に酔いしれ味わう暇もなく、母となり育児に追われる日を過ごしてきた。アンが“恋”に若い女性らし い憧れを抱くのは無理もないと思うのだ。
 この映画が素晴らしいのは、夫ドンをとても好ましい人物として描いていることだ。彼もまた 若くして父親になった。失業中の彼は大学の清掃で夜働くアンのために懸命に育児をし、疲れて帰るアンの足をさする優しい夫だ。 プール工事の仕事が決まると、「運が向いてきた。がんばるぞ」と喜ぶ。アンが恋に憧れるのは、夫に不満があるからではない。夫を 愛しながら、なお恋に憧れる。若さってこういうことなんじゃないのだろうか。「不倫」という言葉の響きとは異質の瑞々しい心情を、 そこに私は感じるのだ。

 アンと恋に落ちるリー(マーク・ラファロ)もドンと同様に素敵な青年だ。死が近づいたことを悟ったアンが彼に別れを告げた時、 リーは「君の夫がどんな人か見たい」という。そして、車で迎えに来たドンがアンに駆け寄り彼女を抱きしめるのを、遠く離れた車の 中でじっと見つめる。リーの切なさが痛いほど伝わってくるシーンだ。それでもアンが残したテープを聴くリーの表情が清々しいのが 救いだ。今は辛くても、アンと過ごした日々が彼にとってよい思い出となっていくだろう、と素直に思えるから。

 アンが死ぬ前にやっておかなければいけない大事なことの1つに、「子供たちのために新しいママをみつけること」がある。隣に 越してきた同じ名前の看護婦 “アン”(レオノール・ワトリング)が、彼女の見つけた「新しいママ」の候補だ。アンは隣の“アン” を夕食に招く。でも、もう台所に立つことが出来ない。そこで隣の“アン”が代わりに夕食を作る。ドンと子供たちが彼女の指示に 従ってテーブルを支度する。それをじっと見つめるアン。自分の死後作られるだろう新しい家族の姿を目の当たりにして、アンの心に 渦巻く思い。それは、寂しさ、嫉妬、そしてドンにはよい妻・子供たちにはよい母をついに見つけたという安堵・・・。このシーンを 思い出すだけで、私は胸に涙が溢れそうになる。

 この映画がテーマに比して少しも暗くないのは、死に直面したアンの「生」を全うしようとする前向きの姿勢と、アンの死後も周囲の 人たちが変わりなく暮らしてゆく姿が最後に点描されるせいだろう。主役のサラ・ポーリーを初め、夫役のスコット・スピードマン、 恋人役のマーク・ラファロ、隣の“アン”のレオノール・ワトリング、それに母親やアンの職場の友人、医師、1人1人の人物像がキメ 細かく造形され、それぞれに好演だった。
  【◎△×】8

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