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【 映画雑感 】No.4

キャラクター/孤独な人の肖像


1996年  オランダ  125分
監督 マイケ・ファン・ディム
出演
ヤン・デクレール、フェジャ・ファン・フェット、ベティ・スヒュールマン
タマル・ファン・デン・ドップ、ヴィクトー・ロウ

  ストーリー
 オランダ作家F・ホルデバイクの小説を基に、1910年代から30年代のオランダ・ロッテルダムの運河の町に展開する、ひとり の青年と父親の愛憎を綴った人間ドラマ。
 冷酷な収税執行官のドレイヴルハーブン(ヤン・デクレール)は、住込み女中のヤコバ(ベティ・スヒュールマン)と1度だけ関係を持つ。その数ヶ月後、妊娠した彼女は姿を消し、そして生まれたのがヤコブ=ヴィレム (フェジャ・ファン・フェット)だった。ヤコバは、その後彼女を探し出したドレイヴルハーブンのプローポーズを拒否し続け、女手1つでヤコブを育て上げる。
 無口な母の厳しい躾のなかで成長したヤコブは、やがて父の存在を知る。父は息子に経済的圧力を加え、息子も父に激しい対抗意識を燃やす。奇妙な父子の関係の中で、ヤコブは法律事務所に職を見つけ、着々と力を着けていくのだが・・・。アカデミー賞外国語映画賞を受賞。

  ひと口感想
 欧米は父子の葛藤をテーマにした映画がけっこう多い。父性原理が優勢なキリスト教文化の影響だろうか。それにしてもこんなシビアな父子関係を描いた映画の原作が、オランダではよく知られた小説というから驚く。

 息子をとことん追い詰め、その憎悪を掻き立てることで息子を鍛える。しかもその行き着くところ、息子に自分を殺させようとするのだ。精神分析でいう “父殺し” は精神的に父を殺すことで父を乗り越え、一人前の大人として自立していくことを意味するが、この映画のドレイブルハーヴンは文字 通り息子ヤコブに自分を殺害させようとする。
 それが叶わないと知ると、莫大な遺産を彼に残して、自ら腹にナイフを突き立て自殺するのだから凄まじい。

 遺言書にサインするシーンが強烈だ。ヤコブと殴り合い腫れ上がった瞼で、ドレイブルハーヴンは眼を宙に泳がせる。その茫漠と した瞳をふと書類に眼を落とす。署名された文字は “ドレイブルハーヴン” ではなく “Vader”(父)。
 凍った憎悪の蔭から一気に父親としての孤独と、閉じ込められた愛が噴出する。このシーンは私には非常にショッキングだった。

 それにしてもヤン・デクレールはなんとうまい役者なのだろう。初めは非情な怪物にしか見えなかったドレイブルハーヴンが、徐々に貧民街の住人たちの憎しみを一身に浴びて、怯えと孤独のなかに生きる哀れな人に見えてくる。
 息子ヤコブは、自分を苛めぬいた挙げ句、遺産だけ残してポンと死んでしまった父親を、その愛(なのかエゴイズムなのか・・・)を、これから自分の中でどう収めていくのだろうか。なんともいえぬやり切れなさが胸に残る。

   それにしても気になるのは母親ヤコバのことだ。自分を犯したドレイブルハーヴンを生涯許さなかったのはまだしも、分らないのは息子ヤコブに対する気持だ。
 家を出る息子のために新しいシャツを用意する様子を見れば、彼女なりに息子を愛していたようにも思える。しかし、それにしては彼が苦痛になるほどのヤコバの寡黙さは何なのだろう。
 誰にも心を開かず、息子にすら心を閉ざし突き放し続けたヤコバ。愛し愛されることを拒み続けたかに見える彼女の生涯は、一体何だったのだろう。
 公開時、劇場で見た時に一番気になったのが、じつはヤコバのこうした生きかただった。彼女の心の在り処(ありか)に少しでも近づきたくてまた見たのだけれど、やっぱり謎のまま終わってしまった。
  ○△×】9

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