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【 映画雑感 】No.24

息子のまなざし


2002年  ベルギー/フランス  103分
   監督 ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
出演
オリヴィエ・グルメ、モルガン・マリンヌ、イザベラ・スパール

  ストーリー
 『ロゼッタ』でカンヌ映画祭パルムドールを受賞した兄弟監督ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌの新作。主演のオリヴィエ・ グルメは本作でカンヌ国際映画祭で主演男優賞を受賞した。
 職業訓練所で木工を教えるオリヴィエ(オリヴィエ・グルメ)は、数年前に息子を亡くした痛みを今も抱えていた。ある日、少年院を でたばかりのフランシス(モルガン・マリンヌ)という16歳の少年が入所してくる。彼は木工のクラスを希望する。オリヴィエは一旦 は人数が足りていると断るが、なぜか翌日自分のクラスに入れることにし、再婚の決まった前妻マガリ(イザベラ・スパール)を訪れ て、少年が訓練所に入所したことを告げる。激しく動揺するマガリ。彼こそ2人の幼い息子を殺したその張本人だったのだ。
 フランシスは真面目に木工を学ぼうとしているようだった。目測だけで距離をぴたりと当てるオリヴィエに信頼と尊敬を抱き、ある 日、木の勉強のために製材所へ向う途中、オリヴィエに後見人になってほしいと頼む。

  ひと口感想
 大仰に振りかぶったものなど1つもない、淡々とした運びの映画だが、それだけ一層、真摯なものが響いてくる。
 主人公オリヴィエはもともと職人肌の寡黙な男なのに違いない。しかし、この映画に現われる彼の無口さはそれだけなのではない。 息苦しいほどに密着したカメラが、彼の無骨な首筋、逞しい背中を映し続ける。彼の動きを追い続ける。一切の状況説明を廃したカメラ ワークそのものが寡黙なのだ。クローズアップした画面を通して彼の肉体の息遣いが迫ってくる。それが、幼い息子を殺され、 (おそらくそれが原因で)妻と離婚し、平穏な家庭のすべてを失った男の、押し殺した怒りと悲しみをこれ以上なく雄弁に伝えてくる のだ。

 少年フランシスは製材所へ来る途中、後見人になる以上どんな罪を犯したのか知りたい、というオリヴィエの言葉に「盗み」といって 口を濁す。それだけかと聞かれ、目撃していた子供を殺してしまったという。「後悔したか」とオリヴィエに聞かれ、「当然だ よ」と答える。「5年も少年院にいればそんな気持ちになる」と。
 この答えに私は胸を衝かれる思いがした。「当然だよ」はないだろう、という思いがまず胸にくる。自分のしたことが本当に分かって いるのか、と。といって、反省や後悔の言葉を口にされればかえって釈然としない。「人一人殺してそれだけか」といいたくなる。監督の ダルデンヌ兄弟はここで少年にあからさまな悔いの言葉を口にさせない。被害者と加害者の2人を突き放す。それがこの映画の真実性を 深めていると思った。
 オリヴィエは唐突に「お前が殺したのは俺の息子だ」と告げる。逃げるフランシス、追うオリヴィエ。突然の感情の爆発がオリヴィエを襲う。 それに耐えた彼が林の木立の中を立ち去る時、カメラはすっと遠のき初めて彼の全身像を映しだす。彼に密着していたカメラが 一気に視野を広げたのだ。心が解放された・・・、そんな思いが胸を浸す。解放されたのは、オリヴィエなのか、見ている私たちなのか ・・・。

 ふと気づけば製材所の入り口にフランシスが立っている、怒ったようにムッと口を引き結んで。けれどその顔は怯えと極度の緊張で こわばっているようにも見える。いかにも頼りなげなその姿。彼の心に今何が起こっているのか分からない。詮索する必要もない。彼はただ 自分が殺した子供の父親のもとに戻った。そして仕事を手伝い出す。オリヴィエは黙ってそれを受け入れる。それが、今、目の前に 起こっていることのすべてだ。

 ここで断ち切るように映画は終る。被害者、加害者を問わない。人間の心の救済はどこにあるのか。人はどのようにして癒されるのか。オリヴィエとフランシスはこれから長い困難な時間を共有するだろう。にもかかわらず、その先に救いの光が仄見える。そのことに思いを馳せて、映画館を後にした。
  【◎△×】8

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