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4月 |
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ストーリー 20年以上に渡ってソ連/ロシアに国家機密を売り渡していた実在のFBI捜査官ロバート・ハンセンの衝撃的な事件を、彼が 2002年に逮捕されるまでの2ケ月間に絞って描いている。 FBI捜査官を目指す若き訓練生エリック・オニール(ライアン・フィリップ)は、ある日、上司のケイト・バロウズ(ローラ・ リニー)から、組織でもトップクラスの優秀なソ連情報分析官ロバート・ハンセン(クリス・クーパー)を監視するよう命ぜられる。 しかし、なに1つ怪しい点はない。任務に疑問を感じ始めたオニールに明かされたのは、驚くべき事実だった。 ハンセンは長年、ソ連/ロシアに国家の安全にかかわる重要機密を漏洩している二重スパイだというのだ。 20年以上にもわたって最重要の国家機密を敵対国に漏洩し続けた男がいる、それもFBI捜査官として。フィクションならどんな 荒唐無稽もあり得るが、これは現実の事件なのだ。ハンセンの犯罪は国家の安全を根底から揺るがすものばかりで、彼から得た情報を ロシアは中東のテロリスト集団に転売している可能性もあるというから驚く。
映画は、FBIの若き訓練捜査官エリック・オニールの目を通して描かれる。だから、観客はエリックが実際に経験したこと、その目に
映ったことを、彼と同じ順番で知ることになる。エリックの疑問は観客の疑問であり、彼の驚きはそのまま観客の驚きとなる。それが
映画のリアリティになっている。たとえば、エリックのはじめの任務は「ハンセンは性倒錯者という情報がある。彼の身辺を探り、行動を逐一報告せよ」というものだ。 窓のない陰気な部屋で一日中ハンセンと顔を突き合わせ、性倒錯者である証拠を探すなんて、バカバカしくてやってられない。エリックが 腐るのは当然だ。 彼の目に映るハンセンは、能力があるのに不当な扱いを受ける気の毒な上司、まじめで家庭思いの善人だ。もっとも、ハンセンの鬱屈 した眼光は、彼の抱える底の知れない沼の存在を感じさせ、女性上司のバロウズの緊張を湛えた冷徹さも、事がそれだけではないことを 暗示する。クリス・クーパー、ローラ・リニーの好演が光る。 こうしてエリックの任務への疑問を膨らませておいて、さっと、総勢50名にも及ぶハンセン捜査の特殊チームの存在を明かす 切り替えが鮮やかだ。2年も前から極秘裏に捜査が進められていたという事実。エリックのなかで「パチン」と音を立ててスイッチが 入ったのが手に取るように分か
る。それ以降は、エリックの目的をハンセンに見破られやしないかというスリルが映画を引っ張る。ハンセンは自身がじつはスパイである だけでなく、スパイ対策のプロ中プロだ。冒頭でンセン逮捕の映像が流れていなければ、エリックに勝ち目はないと思ってしまう ところだ。 ハンセンが身辺にせばまる捜査網を感じ、引退を決意したにもかかわらず、エリックの「ロシアにとってあなたは何者でもない」と いう言葉に挑発されて、最後の取り引きに手を出してしまう様子は、なぜか悲しい。少年時代の彼と父親とのエピソードが思い返される。 なぜこのような犯罪に手を染めたのか、彼は語らず、映画自体もあえて動機を説明しようとしない。私はそれでよかったと思って いる、人間の心はそれほど簡単ではないと思うから。 しかし私には、クリス・クーパーの鋭い目に時おりよぎる孤独の影に、父親に認められたい、何者かでありたい、その苦しみがずっと ハンセンのなかに息をひそめているように思えたのも、たしかなのだ。 【◎○△×】8 |
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4月 |
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ストーリー 『フレンジー』『ナイル殺人事件』などの脚本で知られるアンソニー・シェーファーの戯曲で、72年にジョゼフ・L・マンキウィッツ 監督により映画化されている。 ロンドン郊外にあるベストセラー推理作家ワイク(マイケル・ケイン)の豪邸を、マイロ・ティンドル(ジュード・ロウ)と名乗る若い 男が訪れる。彼はワイクの妻の愛人で、離婚を承諾させようとやって来たのだ。 そんな男にワイクは奇妙な提案をする。邸の高価な宝石を盗みだし、売りさばけというのだ。ワイクは保険金を手に入れて妻と別れる つもりだし、互いに利益になるという。ティンドルは彼の言うままに邸内に忍び込むが・・・。 日本では最近、『椿三十郎』『隠し砦の三悪人』と、黒澤明作品のリメークが続いて話題になっているが、リメークの本場(!) アメリカは、自国といわず外国といわず、面白いとなれば手当たり次
第、節操のなさが活力の素かと思うほど多い。本作のオリジナル『探偵 スルース』(72)は(私は未見)かなり地味な映画らしいが、対話のなかで二転三転していく面白さは、 主役のローレンス・オリヴィエとマイケル・ケインがともにアカデミー主演男優賞にノミネートされたことからも推測できる。 もともとは舞台劇。それが映画化され、さらに今回のリメークだ。アクションやCGなどの派手な仕掛けは極力排し、出演者の演技力 が最大限に要求される(あるいは発揮できる)。こういう素材は演技者の表現意欲を刺激するものらしく、ジュード・ロウが筆頭製作者に 名を連ねている。 青みを帯びた無機質な部屋。監視カメラのモニターに囲まれて、初老の男が1人。冒頭のこのシーンだけで、この老作家の風変わりな性癖が 伝わってくる。オリジナルでオリヴィエが演じた役を、35年を経て、マイケル・ケインが演じている。そして彼の豪邸を訪ねて くる若い男がジュード・ロウ。かつてケインが演じた役だ。ところを変えて、同じケインが出演しているのが興を深める。
ストーリーはおおよそ3つのパートに分かれる。最初が、老ミステリー作家ワイクを訪ねてきた役者の卵マイロが、同棲中の愛人で
ワイクの妻でもあるマギーとの離婚話を、ワイクに持ちかけるくだり。妻を寝取られた夫に、寝取った男が図々しくも「なんで離婚しないんですかね」と食い下がる。夫のほうはそのたび「君の名前は変わってる」だの「失業役者じゃ、マギーの贅沢心は満足させられないと思うよ」とか話をはぐらかす。
こりゃ、未練たっぷり、別れる気はないな、と思わせといて、「彼女の贅沢にはついていけない。潮時と思ってたところなんだ。じつは・・・」と奇妙な提案をする。‘若さと美貌’ー と、色恋には強力な武器を2つながらに持っているマイロのほうがどうも形勢不利。粘っこい妖しさと怪しさを備えた マイケル・ケインの腹の読めない演技が面白い。 パート2では、行方不明のマイロを捜索しているという、謎の探偵がワイクの豪邸を訪れる。パート3で探偵の正体が明らかになり、 さらに思いがけない展開が・・・。ストーリーの主導権が次々入れ替わり、なんともいえずスリリングだ。マギーが(壁に貼られたポート レイトがちらりと映るだけ)一度も画面に姿を見せないのも、「どんないい女だろう」と好奇心を掻きたてる。こうなると、オリジナルの ほうも見たくなった。 【◎○△×】7 |
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4月 |
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ストーリー 1930年代、戦火が忍び寄るイギリスを舞台に、高級官僚の娘と使用人の息子の身分違いの
恋と、作家を目指す多感な少女の嘘が招いた悲劇を描いている。イギリス現代文学を代表するイアン・マキューアンのベストセラー、「贖罪」の映画化。第2次世界大戦前夜のイングランド。政府官僚の娘で作家を夢見る13歳の少女、ブライオニー(シアーシャ・ローナン)は、夏の 休暇で帰省する兄を自作の戯曲で歓待する準備で、邸中を走り回っていた。 姉のセシリア(キーラ・ナイトレイ)もロンドンの大学を 卒業して邸に戻っていたが、幼なじみで使用人の息子ロビー(ジェームズ・マカヴォイ)にひそかに想いを寄せていた。 昼下がり、ブライオニーは噴水の傍らにたたずむ2人のただならぬ気配に、激しいショックを受ける。そしてある夜、いとこのローラが 庭で何者かに襲われる事件が起こる。ブライオニーは逃げていく人影はロビーだったと証言するのだが・・・。 10分ほど遅れて劇場に入ったのだが、耳に響く軽快なタイプライター音に心を奪われた。音に合わせて少女が大きな邸のなかを走り 回っている。書き上げたばかりの戯曲を見せようと、母を探しているのだ。利発で早熟な少女のイメージがクリアに立ち現われて、この あと目にする光景を彼女がどう受け止めたのかが、自然に納得できてしまう。
庭園の噴水の傍らで、姉のセシリアと庭師の息子ロビーが話している。セシリアはやにわにドレスを脱ぐと下着姿で噴水に入る。偶然
邸の窓からこの光景を見て、ブライオニーは息を飲む。なぜならそれは、彼女にとって見てはならない大人のエロティシズムの世界(と
ブライオニーは思い、彼女の目を通してこの光景を見ている私たちも同様に思うのだが)だったからだ。このあと映画は時間を少しずらして、今度はセシリアとロビーの側から、このシーンを再現する。ブライオニーの目に映ったのと同じ 光景だが、意味はまったく違っていた。こうして私たち(観客)は思い違いを修正することが出来たが、ブライオニーはその機会が与え られないまま、この時の思い込みがベースになって、その後に起こる出来事が次々
と彼女の中に積み重ねられていく。事実は1つでも、見る人によって、意味が変わってしまう。思い込み、誤解、行き違い・・・、日常、ふつうに起こっていることだ。 でも、考えると怖いことだと思う。 ところで、なぜブライオニーはあのような受け止め方をしたのだろうか。1つは、多感な年頃にかかっていた彼女の中で、性の欲動が 芽生え始めていたことがあるだろう。 ブライオニーはセシリアの行為に驚くと同時に、羨望と嫉妬を感じたのではないだろうか。ロビーと2人だけの空間で、秘密を共有するセシリア。同時に、それを許しているロビーに対する怒りもあっただろう。 彼への思慕も性の目覚めも、本人は意識していないだけに、いっそう強くブライオニーを突き動かしたのではないかと思う。心身が 急激に変化する思春期の罠。何も気づかず通り過ぎる人もいる一方で、ブライオニーのようにその陥穽に落ち込んでしまう者もいる。 やがて戦争が始まり、犯罪者として刑務所にいたロビーは戦場へ送られ、あれ以来家を出たセシリアは看護師となり、ブライオニー(ロモーラ・ガライ)も看護師見習いをしながら、あの時の過ち
をどう償えるのかと苦悩する。ブライオニーは果たして罪を贖(あがな)えるのだろうか・・・。たとえ彼女がいまさらに真実を告白したと しても、一度ロビーに押された烙印は消えはしないという気がする。すべてに「時」というものがある。ロビーにとってのその「時」 は、とうに過ぎてしまった。ロビーは一生、重荷を背負って生きるほかないんじゃないか・・・、そんな重苦しい思いにとらわれる。 しかし、私たちを待っていたのはもっと切ない結末だった。最後数分で明かされる2人の運命は、足元が崩れ落ちるような悲痛さだ。この驚きの前には、老年のブライオニー(ヴァネッサ・レッドグレーヴ)が取った方法は、私には(悲しいことだが)自己弁護としか映らない。 離れ離れになった恋人ロビーの面影に「戻ってきて、私のところへ」とくり返し語りかけるセシリア。詩情溢れる映像が哀切きわまりない。 【◎○△×】7 |
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4月 |
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ストーリー 1980年代のテキサスを舞台に、大金を拾ったベトナム帰還兵、彼を追う殺し屋、昔気質の地元保安官の3者の逃亡と追跡のなかに、 暴力の不条理性を描いたアクション。作品・監督・助演男優(ハビエル・バルデム)・脚色、と4部門でオスカーを獲得した。 ベトナム帰還兵モス(ジョシュ・ブローリン)は、メキシコ国境に近い砂漠でハンティング中に、偶然、大量のヘロインと現金200万 ドルを見つける。危険と知りつつ持ち帰った彼にすぐに追っ手がかかる。 今の暮らしを脱して、妻カーラ・ジーン(ケリー・マクドナルド)と新しい生活に歩み出したいモスは必死の逃亡を図るが、不気味な 殺し屋シガー(ハビエル・バルデム)はどこまでも執拗に追いつめてくる。地元保安官のエド・トム・ベル(トミー・リー・ジョーンズ) は事件捜査に乗り出すが・・・。
映画を見ていて、事件の被害者の感覚に襲われた。最近多い「相手はだれでもよかった」という通り魔殺人がそうだ。こうした事件が 起きた時、私たちは動機や背景をなんとか理解しようとする。犯罪の理不尽さを、理不尽なままにおいていくことに耐えられないからだ。 しかしどんなに理由めいたものが説明されようが、「でも、なぜよりによって、自分(や家族)なの
か?」という被害者の思いが解消される訳ではない。本作でハビエル・バルデムが演じる殺し屋シガーは、こうした人間社会が内包する “暴力性” の不条理を象徴しているように思える。 彼がどんな環境で育ち、どうしてこんな人間になったのかはまったく説明されない。彼を理解したくても、そのよすがの一片も与えられ ないのだ。眼前に突きつけられるのは、殺しに励む彼の行為のみ。そこには原因も理由もない。 ヒッチハイカーと勘違いし好意から車を停めてくれた人も、ガソリンを分けてやろうとした人も、額に酸素ボンベを当てられ、何のこと かと思っているうちに殺される。
トミー・リー・ジョーンズが扮する保安官エドは、こうした訳のワカラナさをなんとか分かろうとする旧世代の代表というところか。映画が、“動機のない犯罪” が増えた、と語る彼のナレーションで始まるのが印象的だ。父親の代から保安官をしてきたエドは、犯罪の動機を追及し、犯人を捕らえ、それによって次の犯罪を防ぐ、と信じてきたのだ。しかし、シガーの後を追ううち、行く先々で意味もなくころがる死体に、最後は理解しようとするのをあきらめ、引退してしまう。 今の世の中ついていけん、という彼の絶望ともつかぬ嘆きは、私たちに共通する思いでもある。 対照的なのが、大金を持ち逃げしたモスだ。彼ははじめから分かろうなんてしない。自分を追う者のただならなさが分かっても、金を 返して見逃してもらおうなんて思わない。意味がないことを知っているからだ。暴力に理由なんてない、この一点で、追う者、追われる 者が奇妙な類似性を持つ。ジョシュ・ブローリンの不敵な面構えがなかなかいい。強烈な男臭さは、今後、個人的に要注
目だ。本作の圧巻は、ハビエル・バルデムが造形した殺し屋シガーだ。無感情だが、けっして無機質ではない。重傷を負い、表情一つ変えず 自分で手当てする彼だが、そこには生々しい肉体性がある。病院の世話にならないのは、足が付くからというよりも、自分で自分のケアを し、時が来れば死ぬだけ、それが彼にとって自然だからだろう。 序盤、雑貨屋の親父の軽い世間話に返す反応の不気味さも特筆ものだ。親父が徐々に異常さを感じ、緊張していく様子がじつにリアル。 モスが泊まるモーテルの部屋の前で、シガーの足が停まる数秒間の恐怖は、ハラハラドキドキなんてものではない。記憶に残る悪役 だろう。 犯罪、事故、自然災害、戦争さえも含む “理由のない暴力” を描いて、現代の救いのなさを突きつけられる思いがした。 【◎○△×】7 |