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今月見た新作映画 2003年

1月〜3月



2月
アイリス

2001年  イギリス  91分
監督 リチャード・エア
出演
ジュディ・デンチ、ジム・ブロードベント、ケイト・ウィンスレット
ヒュー・ボナヴィル、ペネロープ・ウィルトン

  ストーリー
 イギリスの作家アイリス・マードック(ケイト・ウィンスレット/ジュディ・デンチ)について夫の文芸評論家ジョン・ベイリー (ヒュー・ボナヴィル/ジム・ブロードベント)が綴った原作を基に、40数年に亘る夫婦の愛を描いている。
 1950年代、オックスフォード大学で出会った二人は、愛し合い、結婚する。地味な大学講師だったジョンにとって、才気煥発で 奔放なアイリスは、結婚してもなお憧れの的だった。やがてアイリスは次々と小説を発表し、豊かな知性と人生に対する深い洞察か ら、“イギリスで最も素晴らしい女性” と尊敬される存在になっていく。
 40年の歳月を経た1990年代のある日、アイリスは自分の脳に異変が起きていることに気づく。きっかけは言葉に詰まったり同じ 言葉を繰り返すという些細なことだった。検査の結果、アイリスはアルツハイマー病であると診断される。

  一口感想
 主役4人、若い時のアイリスを演ずるケイト・ウィンスレットと老年になってからのジュディ・デンチ、若いジョンを演ずる ヒュー・ボナヴィルと老年のジム・ブロードベントがそれぞれあんまり似ているので、それにまずびっくりした。姿かたち、身ごなし、 喋り方、なにもかもだ。
 そのせいか、若い二人が出会い、愛を育んでいく様子と、二人を襲った悲劇のなかで夫婦の絆が強まっていくという、過去と現在の 物語がバラバラにならずにスムーズに調和して伝わってくる。勿論、似ているだけでなく、彼らの演技力に負うところが多いは当然の ことだが。

 役者の凄さという点で感服したのは、アルツハイマー病が発症し進行していくさまを演じたジュディ・デンチだ。病いの発症を察知し、 戸惑いと悲しみのなかで命よりも大切にしていた思考、言葉を失っていくアイリス。その様子をじつにリアルに演じ切った。見事という しかない。ただ、見終わった後の印象は意外に淡白。物語が美し過ぎるせいかもしれない。
  【◎△×】7

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1月
運命の女

2002年  アメリカ  124分
監督 エイドリアン・ライン
出演
リチャード・ギア、ダイアン・レイン、オリヴィエ・マルティネス
エリック・パー・サリヴァン、チャド・ロウ

  ストーリー
 誠実な夫エドワード(リチャード・ギア)と平凡だが安定した幸せな結婚生活を送っていたコニー(ダイアン・レイン)だが、ある風 の強い日に偶然知り合った年下の青年ポール(オリヴィエ・マルティネス)に惹かれ、やがて情事を重ねるようになる。
 不審を抱いたエドワードは探偵を雇ってことの真相を知る。ポールのもとを訪れ、初めは穏やかに話していたエドワードだが、コニー に贈ったプレゼントが彼の部屋に飾られているのを眼にした瞬間激情が爆発し、ポールを殺してしまう。

  一口感想
 オープニングの突風がなかなか意味深長だ。人って思いがけない時に、“人生の突風” とでもいうべきものに見舞われることがある、 と暗示しているように思えるから。
 コニーはたしかに倦怠期に入っていたと思う。朝の夫との会話なんてそのいい表われだ。息子の世話に気を取られて、夫におざなりの 返事しかしない。でもまー、どこの夫婦も10年もたてばおおかたこんなものだろう。ありふれた朝の光景だ。そこに時ならぬ突風が 吹いて、気がついたら平凡な日常とは違う世界に運ばれてしまっている。

 夫のエドワードも同様に、ポールの部屋で、かつて自分がコニーに贈ったガラス玉の置物を見つけた時、重いがけぬ “突風” に 襲われる。急に息苦しくなり、眩暈をおぼえ、気がついたらその置物でポールを殴り殺しているのだ。
 「怒り」とか「嫉妬」とかいうより、わけの分らないつむじ風が心の中に巻き起こった、というほうがぴったりくる。
 不倫に走る妻、浮気相手に会いに行く夫、どちらも大した覚悟もなく行動しているところがいかにもありそうだ。

 とは言いながら、大人の愛のドラマを期待していたのだけれど、思ったほど胸に響いてこなかった。エドワードとコニーの心理の 切り込みが浅いんじゃないかなぁ。夫を愛しながらも年下の男との愛欲に溺れ込んでいくコニーの気持ちや、それを知ったエドワードの 嫉妬・苦悩が、いまいち説得力をもって伝わって来ない。
 主役のリチャード・ギア、ダイアン・レインオリヴィエ・マルティネス、3人とも雰囲気はあるだけに残念。とくにギアはいつものにやけたところがなく、ふつうの男に徹しているのは意外だった。

 もう1つ残念なのは、ポールの死体が発見されてからの後半が、ストーリーの練り込みが浅い気がしたこと。コニー(不倫)から エドワード(殺人)へと、秘密を抱く立場が逆転し、コニーが真相を知ってからは、2人の関係は共犯的なものになっていく。
 2人はもはや何もなかった頃の素直な夫婦関係には戻れなくなっているし、かといって離れることもできない。それに捜査の進展が 絡んで、いくらでもサスペンスフルになった気がするんだけど・・・。
  【◎○×】5

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1月
カンパニー・マン

2002年  アメリカ  95分
監督 ヴィンチェンゾ・ナタリ
出演
ジェレミー・ノーサム、ルーシー・リュー、ナイジェル・ベネット
ティモシー・ウェッバー、デヴィッド・ヒューレット

  ストーリー
 『CUBE』で注目されたヴィンチェンゾ・ナタリ監督が、極度にハイテク化された近未来を舞台に、平凡なサラリーマンが巨大な 陰謀に巻きまれていく様子を描いたSFサスペンス。
 妻との関係は冷え、仕事にも行き詰まりを感じていた会社員モーガン・サリバン(ジェレミー・ノーサム)は、以前から憧れていた 産業スパイになろうと、多国籍企業「デジコープ」の面接を受け、採用される。ジャック・サースビーという新しい名前と任務を与え られたモーガンは、ある企業のコンベンションに参加し情報収集を開始するが、任務の成功とは裏腹に、しばしば激しい頭痛と奇妙な 映像を見るようになる。
 そんな頃、あるパーティ会場でモーガンは謎めいた女性リタ(ルーシー・リュー)に出会う。彼女はモーガンに驚くべき事実を伝える のだった。

  一口感想
 ナタリ監督の長編デビュー作、『CUBE』の衝撃度があまりに強くて、神経的にピリピリ来るような怖い映画を予想していた。その 点ではわりと普通の映画だったが、ストーリーそのものが大きなトリックになっていて、私は最後の最後まで騙された。

 失業中のモーガン・サリバンは、多国籍ハイテク企業のデジコープ社に採用され、憧れの産業スパイになる。仕事は、各地で開かれている 業者向けセミナーに出席して講師のスピーチを録音し、衛星を通して本部に送ること。
 冷え冷えした画面の色調、“スパイ” という言葉の響き、オープニングのものものしさからすると、「え?」というほど任務はチャチ。モーガンも「次はもっと難しい仕事を」なんてのん気なことを上申したりする。
 ところが、リタという名の東洋美女が現われて、このセミナーには秘密があって、下手をすると殺される、と浮かれ気分のモーガンに 冷水を浴びせる。この辺りからストーリーは急速にサスペンス色が強くなる。

 ジャック・サースビーという偽名で、デジコープ社のライバル、サンウェイズ社のスパイ採用面接を受けたモーガンは、警備責任者 から、彼をデジコープ社に送り込んだのは、じつはサンウェイズ社なのだと告げられる。ここで一気に話は分らなくなる。というか、 ストーリーは一貫してモーガン の視点で語られるために、彼の混乱に合わせて観客も混乱することになる。
 一体だれの話を信じたらいいのだろう、謎の女リタか、サンウェイズ社の警備責任者か。そもそも、モーガンは果たして本当に モーガンなのか。ジェレミー・ノーサムは目もと、口元にのんびりした雰囲気があって、彼の存在自体がトリックといえる。

 無機質的な映像が斬新。オープニングの住宅街を上空から俯瞰した幾何学模様の光景、巨大企業内部の青みがかったメタリックな色調、 とくにエレベーターからの脱出シーンは、真っ白に光る金属的な垂直空間が窒息しそうなほどの息苦しさで、『CUBE』 的な怖さが あった。
 終盤は60年代のスパイ・アクション的展開となり、色彩も豊富になる。ラストショットなんてまさに “007” そのもの、精悍な ジェレミー・ノーサムがえらくかっこよくて、ついニヤリとしてしまった。謎の女リタを演じたルーシー・リューがキュート。
  【◎△×】7

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1月
ギャング・オブ・ニューヨーク

2002年  アメリカ  160分
監督 マーティン・スコセッシ
出演
レオナルド・ディカプリオ、ダニエル・デイ=ルイス、キャメロン・ディアス
リーアム・ニーソン、ジム・ブロードベント、ジョン・C・ライリー

  ストーリー
 『タクシードライバー』『グッドフェローズ 』のマーティン・スコセッシ監督作。“自由と民主主義の国” という美名の陰で、 建国のプロセスには暴力と抑圧の歴史があったことを暴いている。
 1846年、ニューヨークのファイブ・ポインツ。アメリカ生まれの住民の組織 “ネイティブス” とアイルランド系移民の組織 “デ ッド・ラビッツ” が対立していた。
 “ネイティブス” のボス、ビル(ダニエル・デイ=ルイス)は、 “デッド・ラビッツ” のリーダー、神父ヴァロン(リーアム・ニーソン)を殺し、ファイブ・ポインツは完全に彼の支配下に置かれる。
 15年後、ファイブ・ポインツに戻ってきたヴァロンの息子アムステルダム(レオナルド・ディカプリオ)は、素性を隠してビルに 接近し、彼の懐刀になる。ビルの愛人とは知らずに美しい女スリ、ジェニー(キャメロン・ディアス)と恋に落ちたアムステルダムは、 徐々に力を蓄えていくが・・・。

  一口感想
 3時間という長さが少しも苦にならず、引き込まれるように見た。19世紀末、ニューヨークのファイブ・ポインツが舞台だ。 “ネイティブス” と称するアメリカ生まれの一団と、“デッド・ラビッツ” を名乗るアイルランド系移民の一団が支配権をめぐって 激しく対立する。

 “ネイティブス” のリーダー、ビル・ザ・ブッチャーは「ここで生まれた」ことを錦の御旗にして、「よそ者は帰れ」と移民たちを 排斥する。しかし、元はといえば彼らも移民の子孫だ。日本人の私から 見れば、“ネイティブ” であることを主張できるのはアメリカ 先住民しかいないと思うのだが、こうしたことに無自覚なビルたちのありように、アメリカが本質的に抱える矛盾があぶり出されている気がする。
 闘いを制し、暴力と恐怖でファイブ・ポインツを支配するビルという男の人間像が興味深い。
 彼は “デッド・ラビッツ” のリーダー、ヴァロンに対して、憎しみだけでなく、自分と対等に渡り合ったただ1人の男として、尊敬の念を抱いているらしい。一度ヴァロンに命を助けられたことがあるのだが、それが彼のプライドを傷つけ、同時にひそかな感謝にもなっている。

 15年後、ヴァロンの息子アムステルダムが接近してきた時、正体を知ったビルが、彼を殺そうと思えば殺せたのにそうしなかった のは、“助けられる” という屈辱を「ヴァロンの息子」にも味わわせたかったからだろう。
 同時に、自分は持てなかった「息子」に対する愛情をアムステルダムに抱いていたせいでもある。ビルはつくづく恐ろしい人物だが、こうした複雑さが彼を魅力ある悪役にしていると思った。

 アムステルダムはやがて移民を結集して、圧政者ビルに立ち向かうが、国内では南北戦争が始まり、不穏な情勢のなかで人々の不安が 高まっていく。ショックだったのは、終盤、暴動を起した 民衆に軍隊が真正面から大砲をぶっ放すところだ。
 長い時間をかけて熟成してゆく文化と違い、急速に国家や町が形成されてゆく時には、こんな乱 暴なことも起こるのか、これがつい150年前のアメリカの姿なのだ、と呆然とした気持ちになった。ビルとアムステルダムの抗争は、こうして国家的なうねりの中に飲み込まれていく。

 ビルに対するアムステルダムの復讐と、アムステルダムとジェニーの恋、この2つを軸として物語は展開しているが、本当の主役は形を整えていくニューヨークの歴史そのものという気がした。
 ブルックリン橋のたもとの墓地が次第に風化し、入れ代わるように川向こうのマンハッタンに高層ビルが立ち並んでいくラストショット。2人の怨念と愛憎も時代の波に押し流されるほかはないのだ。マンハッタンの景観は成立していく近代国家の象徴のように思えた。
  【◎△×】7

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3月
刑務所の中

2002年  日本  93分
監督 崔 洋一
出演
山崎 努、香川 照之、田口 トモロヲ、松重 豊
村松 利史、大杉 漣、伊藤 洋三郎、椎名 桔平、窪塚 洋介

  ストーリー
 自ら体験した刑務所生活を綴った花輪和一原作の同名漫画を、『月はどっちに出ている』『豚の報い』の崔洋一監督が映画化。
 銃砲刀剣類等不法所持などで懲役3年の刑を受けたハナワ(山崎 努)は、受刑者番号222番を与えられ、晩秋の日高刑務所に服役 する。刑務所内の生活は規則はたしかに “少々” うるさい。しかし、それに馴れさえすれば、喧嘩も脱獄もない。食事はいいし、雑誌は 読める、テレビも見られる、運動時間もある。
 同房者4人も気のいい連中ばかりで、共同生活はなかなか快適だ。たまに入れられる懲罰房の1人暮しも悪くない。ハナワの刑務所 生活は平穏な中に淡々と過ぎていく。

  一口感想
 淡々とした筋運びだがじわじわと可笑しさが滲みでてくる。久しぶりに上質の喜劇に出会った気分だ。格別事件らしい事件が起こる 訳でもなく、刑務所の中の日常がエピソードの積み重ねで描かれるだけなのだが、規則でがんじがらめになった生活が、本人たち (受刑者、刑務官、医官すべて)が大真面目なだけに、可笑しい。
 刑務所が一見居心地よさそうな錯覚を起こしてしまうほど穏やかな生活だが、ふと我にかえると、これほど自由が拘束された生活は 一日でも我慢できそうにない、とも思う。作業中落とした工具を拾うにも、挙手 → 申告 → 許可、の手順が要るのだ。トイレに行くの だって同じこと。下痢にでもなったら大変だな、なんてついあらぬ方向に連想がいく。

 主人公ハナワに扮する山崎努の茫洋とした表情と演技が、刑務所生活の観察者としての絶妙の “間” を作り出す。その存在感が 絶品だ。同房の4人の受刑者、香川照之、田口トモロヲ、松重豊、村松利史もみんな個性的でいい。
 上映の合間に「当劇場では受刑者が大好きなアルフォートを販売いたしております。なお、ここは刑務所の中ではございませんので、 飲食はご自由です」というユーモラスなアナウンスがあり、釣られて売店で買う客が多かった。かく言う私もその1人。濃厚な甘さだが、 結構おいしい菓子だった。(*アルフォート:受刑者が楽しみにしている映画会の時に配られるチョコレート菓子。)
  【◎△×】8

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2月
スコルピオンの恋まじない

2001年  アメリカ  101分
監督 ウディ・アレン
出演
ウディ・アレン、ヘレン・ハント、シャーリーズ・セロン
ダン・エイクロイド、エリザベス・バークレイ

  ストーリー
 ウディ・アレン監督・主演のちょっとシニカルで都会的な探偵物コメディ。
 1940年のニューヨーク。一流保険会社のやり手調査員のブリッグス(ウディ・アレン)は、新任の女性重役フィッツジェラルド (ヘレン・ハント)とは犬猿の仲。顔を合わせるたびに痛烈な皮肉を浴びせ合っていた。
 そんな頃、会社では頭の痛い問題が持ち上がっていた。保険のかかった宝石が、防犯装置をかいぐぐって盗まれる事件が続発して いたのだ。じつは悪賢い催眠術師に操られたブリッグスが催眠状態で盗み出していたのだが、そうとは気づかぬブリッグスは、 リストラを進めるフィッツジェラルドの鼻を明かそうと、調査に乗り出すのだった。

  一口感想
風采のあがらない中年男が恋の呪文で美人にモテるという設定、分らなくはないが、ウディ・アレン、風采上がらな過ぎ。5年、10年 前の彼ならまだ分るけど・・・、と初見の時は思ったが、2回目の今回はあまり気にならない。それどころか、ちょっとシニカルで、 適度にロマンティックなストーリーが存外楽しかった。

 腕利きの古参保険調査員ブリッグスと、効率的なシステムを導入して調査部は廃止しようともく ろむやり手の新重役ベティ・アン、顔を合わせれば皮肉を言い合う2人の舌戦が面白い。お洒落で気の利いた科白が、ポンポン威勢よく、あるいはボソッとさり気なく、ツボを押さえて発せられる。
 美人で頭の回転の速いベティ・アンには、どこから攻めてもブリッグスは敵わない。ペしゃんとやられてオフィスを後にする彼の姿は ペーソスいっぱい、微苦笑を誘われる。

 天敵同士の2人が、同僚の誕生パーティで、悪党の催眠術師に操られて愛を告白しあう尻こそばゆさ、呪文が解ければけろっとして、 また罵りあうおかしさ。映画が終っても、しばらくは “コンスタンチノープル” “マダガスカル” と聞いただけで笑いそうになって 困った。

 以前何かで読んだことだが、催眠術で人を操って犯罪を犯させるというのは現実には無理だそうだ。催眠中もべつに記憶を失っているわけではなく、現状をちゃんと認識しているし、善悪の判断もできるからだ。
 そうだろうな、そうじゃなきゃえらいことだ、と安心したけれど、それはそれとして、ブリッグスが “コンスタンチノープル” という 呪文を聞いた途端に、夢遊病者のように虚ろな動きになるのは、見 ていてやっぱり面白い。
 彼は電話でこの呪文を聞かされた後、なんとプレイガールの金持ち娘ローラに、用事があるから帰ってくれ、という。
 ローラを演じているのはシャーリーズ・セロン。ブリッグスは「チビで近眼で、最近は抜け毛も多い」と自分で言うだけあって、冴えないことおびただしい中年男。「男に断わられたのは初めて」とローラが信じられない顔をするのがおかしかった。

 ウディ・アレンの自虐癖がいい具合に毒気が抜けてウェルメイドな笑いに転化し、ヘレン・ハントやダン・エイクロイドの脇役陣も 豪華で、公開時劇場で見た時よりもずっと楽しめたのは儲けものだった。
  【◎△×】7

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2月
西洋鏡 映画の夜明け

2000年  アメリカ/中国  115分
監督 アン・フー
出演
シア・ユイ、ジャレッド・ハリス、シン・ユイフェイ
リウ・ペイチー、リュ・リーピン、リー・ユーシェン

  ストーリー
 1905年、京劇の役者タンを主演に、中国で初めて劇映画が撮影されたという史実を基に作られた物語。
 写真館で働くリウ(シア・ユイ)は、ある日、イギリス人レイモンド(ジャレッド・ハリス)が語る “西洋鏡” という不思議な「動く 写真」のことを知る。彼の小屋で見た実物は、たしかに白い幕の上で「写真」が生き生きと動いていた。初めは度肝を抜かれ、そして 強く魅せられたリウはレイモンドの助手になり、撮影・映写技術を学びながら小屋の呼び込みを手伝い始める。
 芳しくなかった客の入りもやがて盛況を見せるようになり、人々は初めて見る映画の魅力に驚き、感動する。しかし新しい芸術の登場 は中国の伝統芸術・京劇との間に強い葛藤も生んでいった。

  一口感想
 予想した通りの話が予想した通りの展開で進んでいく。なにか物足りない。題材の目の付けどころは悪くないのに、もう一つの 印象のまま終わってしまった。主人公リウと写真館の主人との恩愛と離反の葛藤や、消え行く伝統としての京劇と、映画という 新旧芸術の相克などをもっとくっきりと描いたら、もう少し盛り上がりのある作品になったんじゃなかろうか。
 俳優はみな好感が持てただけに、惜しい気がする。音楽が『ニュー・シネマ・パラダイス』に似ているのがちょっと白けた。
  【◎△×】6

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1月
太陽の雫

1999年  カナダ/ハンガリー  180分
監督 イシュトヴァーン・サボー
出演
レイフ・ファインズ、ジェニファー・エール、ローズマリー・ハリス
ジョン・ネヴィル、ウィリアム・ハート、レイチェル・ワイズ
デボラ・カーラ・アンガー

  ストーリー
 帝政時代からナチ支配、そして共産主義政権と、19世紀末からの100年、激動のハンガリーを生き抜いたユダヤ人一族の 過酷な運命を、3代にわたって描いた壮大な叙事詩。主演のレイフ・ファインズが一族の男たち(イグナツ、アダム、イヴァン) を一人で演じている。
 エマヌエル・ゾネンシャインは薬草酒で成功を収め、一家の基礎を築く。
 息子イグナツは優秀な判事として出世の道を歩み、ユダヤ風の名ゾネンシャインを捨ててショルシュと改名する。第一次世界大戦 突入後は皇帝派として反乱分子に厳しい態度で臨むが、皇帝の死で失脚。
 フェンシングで頭角を現わした次男アダムは、名門クラブ加入のためにユダヤ教を捨ててカトリックに改宗する。そしてベルリン・ オリンピックで優勝するものの、ナチのハンガリー侵入により収容所送りとなり、そこで死ぬ。
 眼前で父アダムが殺されるのを目撃した息子イヴァンは、第二次世界大戦終結後は警察に入り、ファシスト狩りに執念を燃やす。 共産党に入り昇進するが、やがて党の実態を知り、幻滅から辞職。一転して民主化運動に没入するが、ハンガリー動乱がソ連軍に 鎮圧されて、イヴァンは投獄される。出所後、イヴァンは身辺の整理を済ますと、姓を本来のゾネンシュタインに戻すのだった。

  一口感想
   ユダヤ人への差別というのは書物などで知識として知るだけで、日本人の私には実感としてはなかなか分らないのだけれど、 ヨーロッパでは二千年このかた世相が不安定になると、必ずといってよいほどスケープゴートとしてユダヤ人排撃が行われる。 こういう映画を見ていると、民族としての精神力が余程に強くないと到底生き延びていけないなぁ、彼らの強烈なアイデンティティは こういう歴史の中で揉まれて来たからこそなのだなぁ、と感じさせられる。

 長い複雑な物語を混乱なくまとめあげ、3時間という超尺をいささかのたるみもなく一気に見せ切ったイシュトヴァーン・サボー 監督の力量に敬服した。ゾネンシャイン家3代の男たちを一人で演じ分けたレイフ・ファインズも見事だった。
  【◎△×】8

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3月
ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔

2002年  アメリカ/ニュージーランド  179分
監督 ピーター・ジャクソン
出演
イライジャ・ウッド、イアン・マッケラン、ヴィゴ・モーテンセン
ショーン・アスティン、オーランド・ブルーム、クリストファー・リー

  ストーリー
 J・R・R・トールキンのファンタジー小説「指輪物語」の完全映画化3部作の第二作。
 世界を支配しようとする冥王サウロンの野望を打ち砕くため、魔法の指輪をモルドールの火の山に捨てる危険な旅に出たフロドと仲間たちの、その後のそれぞれの旅を追う。
 フロド(イライジャ・ウッド)とサム(ショーン・アスティン)は、指輪を取り戻そうとする元の持ち主ゴラムに出会い、モルドール の “滅びの山” までの道案内をさせる。
 前作のラストでサルマンの手下、ウルク=ハイに連れ去られたピピンとメリーは、脱出してファルゴンの森に迷い込み、森の樹神・ エント族の長老 “木の髭” と出会う。
 アラゴルン(ヴィゴ・モーテンセン)、レゴラス(オーランド・ブルーム)、ギムリの3人は、より強力な魔法使いとして再生した ガンダルフ(イアン・マッケラン)と再会し、サルマンの呪いに苦しむローハンの国を守るため、敵の大軍勢との戦いに敢然と挑んでいく。

  一口感想
 前作では9人の仲間たちが一緒に助け合いながら旅を続けたが、ラストでメンバーの支柱的存在だった老ガンダルフが壮絶な死を遂げ、本作ではバラバラになったフロドと仲間たちのそれぞれの旅を追う。
 枝分かれした話はそれぞれが波乱万丈、かつますます壮大になり、筋を追いかけるのはかなり大変。今回もかなり疲れました。 それでもCG映像はいっそう迫力を増し、サルマンの軍勢の異形の怖さや戦闘シーンには圧倒され放し。ローハンのセオデン王、エオ ウィン姫をはじめ、新登場のキャラクターたちも魅力たっぷりだ。

 しかし本作の一番の見どころは、“善” と “悪” の葛藤のテーマがいよいよはっきりしてきたことだろう。
 第一作でちらっと出ていたゴラムが重要な役どころを演じる。愛を求め人を信じようとする善なる心と、猜疑心と憎しみで塗り つぶされた邪悪な心と、2つに分裂して苦しむさまは痛々しいほどだ。
 彼の相貌・体躯には、地獄のような孤独と裏切られ続けてきた心の 傷の深さが現われているようで、辛い気持ちになる。
 一方、本来、善なる存在のはずのフロドも、モルドールに近づくにつれて指輪の力が増し、その誘惑に苦しむようになる。何かに 酔ったように目には邪悪な光が宿り、イライジャ・ウッドの役者としての力量を見た思い。

 ところで、善と悪のはざ間で苦悩するフロドを救うのが、サムの現実的というか常識的な分別だ。フロドが理想を求めつつ内奥に うごめく悪の誘惑に苦悩する時、サムは現実的視点で素朴な精神のたくましさを発揮する。
 理想と現実を対立するものではなく、補強しあうものとして描いているところに共感を覚える。フロドが仲間から別れた時、サムがあくまでついてくるのは、こうして2人で1つの人格を作っているからではないかと思った。

 最初頼りなさそうに見えていたエント族が本当はとても強くて、ゆっさゆっさとサルマンの本拠地を急襲するシーンにわくわくした。 ファンタジーの楽しさが思い切り味わえる。
  【◎△×】7

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