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【映画メモ】  で始まる映画



ダーティハリー

1971年  アメリカ  103分
監督 ドン・シーゲル
出演
クリント・イーストウッド、ハリー・ガーディノ、アンディ・ロビンソン
レニ・サントーニ、ジョン・ヴァーノン

  ストーリー
 殺人狂を追う一匹狼の刑事の非情な執念を描いた犯罪アクション。
 サンフランシスコのビルの屋上から一般市民が銃撃される事件が起きた。犯人(アンディ・ロビンソン)は10万ドルを要求し、 支払わなければ次の犠牲者を狙うと通告してくる。
 汚い仕事を任されることから、“ダーティハリー” の異名を取る殺人課の敏腕刑事ハリー・キャラハン(クリント・イーストウッド) は、相棒刑事のチコ(レニ・サントーニ)とともに犯人を待ち伏せするが、激しい銃撃戦の末に取り逃がしてしまう。
 その後犯人は14歳の少女を誘拐して、20万ドルの身代金を要求。ハリーは20万ドルを手に、犯人の指定したマリーナへと向う。
 ハリーは犯人を追いつめ、捕らえるが、逮捕の際に負わせた傷が拷問を加えたと解釈され、犯人はすぐ釈放される。謹慎を命じられた ハリーは単独で犯人を追い、銃撃戦の末に射殺し、刑事バッジを川に投げ捨てる。
 本作は後に続く一匹狼的刑事ドラマに強い影響を与え、公開後も長く直賛否両論が渦巻いている作品である。

  一口感想
 犯人が一方的に指定した場所に覆面をした男が現れて、身代金を取ろうとしたら、だれだってそれが犯人と思うに決まっている。その 男に怪我を負わせ、その後、似たような状態の怪我を治療しに来た男がいれば、それが探している犯人だと、これまただれだって思う だろう。
 その男を突き止め、逮捕したというのに、どうして碌に取り調べもせずに釈放してしまんだろう。これじゃ捜査を重ね、命を的 (まと)に追跡し、やっと逮捕した刑事の立つ瀬がない。第一、一般市民は安心して暮らせない。
 という具合に、ハリーが単身犯人に闘いを挑む心理に大いに共感してしまった私だ。

 この手の映画は犯人に強烈な悪の個性がないと説得力がなくなるが、その点犯人に扮したアンディ・ロビンソンの迫力は並大抵じゃ ない。奪ったスクールバスで、子供たちを相手にキレそうになる寸前の眼なんて、まさに狂気そのものだ。
 身代金の受け渡し場所を、彼はサディスティックなまでに次々と変え、ハリーに一刻の猶予も与えない。身代金を入れたバッグを 提げたハリーは、背中を丸め息を切らせて、ひたすらその指示に従って走る。
 “ダーティ” と綽名されるくらいだから、よほど乱暴な手を打って犯人を出し抜くのかと思うとそうではないのだ。ひとえに 誘拐された少女の命を救うため。そのクールさはまさにプロ、かっこいいの一語だ。
 灰色の空をバックに、スクールバスが来るのを陸橋の上で待つハリーのシルエットも、一匹狼の名にふさわしい孤高をたたえて 惚れ惚れする。
 この映画は公開当時「ファシズム的だ」と激しく非難されたそうだが、どこがそうなんだろう。殺人狂と共通した凶暴さをハリーの なかに見て取ってのことなのだろうか。私にとっては痛快なアクションをシンプルに楽しめる映画だった。
  【◎△×】7

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タイタンズを忘れない

2000年  アメリカ  114分
監督 ボアズ・イェーキン
出演
デンゼル・ワシントン、ウィル・パットン、ライアン・ハースト
ウッド・ハリス、ドナルド・フェイソン、キップ・パルデュー

  ストーリー
 1971年、バージニア州アレキサンドリアの町。公民権運動の高まりにより、人種差別解消のための統合政策で、それまで人種ごと に分れていた高校が合併することになる。
 町の最大の関心事、フットボール・チーム “タイタンズ” が結成され、ヘッド・コーチに黒人コーチ、ハーマン・ブーン(デンゼル ・ワシントン)が任命される。長年、白人高校でコーチをしていたビル・ヨースト(ウィル・パットン)は、自分の地位を黒人に 奪われたことにショックを受ける。
 白人選手や保護者たちもこの措置に猛反発し、チームはまとまりのないバラバラな状態でスタートする。その様子を見たヨーストは、 ブーンのアシスタントとしてチームに残ることにする。
そんなところに、“サンシャイン” と仇名される陽気なロニー(キップ・パルデュー)が都会から転校してくる。

  一口感想
 カリフォルニアからやってきたロニーこと “サンシャイン” が、長髪にしているために “ヒッピー” と差別されるのが興味 深かった。『イージー・ライダー』でも似たようなシチュエーションが描かれていた。こういう点はアメリカの田舎は日本よりずっと 保守的だなぁと思う。
 ロニーは育ったカリフォルニアという土地柄のせいか、白人、黒人という別を意識せず、自由にどちらとも付き合う。通風孔から風が 吹き込むような気楽さがあって、彼を見ていると「こだわりなく生きたいよね」という気分にさせられる。
 登場人物の中では白人コーチのヨーストに惹かれた。彼の置かれた立場はそうとう苦しかったと思うが、扮したウィル・パットンは 表情だけでその葛藤をうまく表現していたと思う。
 これは実際にあった実話の映画化だそうだが、人種混合の新生チームがさまざまなトラブルを乗り越え優勝するまでを描いている。 そのプロセスの中で選手たち、町の人々が人種の壁を越えて互いの理解を深めてゆく。
 ディズニー・プロらしく問題に深入りせずあっさりした仕上りだ。話がうまく行き過ぎて映画としては少々物足りないけれど、後味の 爽やかさは悪くない。
  【◎△×】6

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大統領の陰謀

1976年  アメリカ  132分
監督 アラン・J・パクラ
出演
ダスティン・ホフマン、ロバート・レッドフォード、ジェイソン・ロバーズ
ジャック・ウォーデン、ハル・ホルブルック、ジェーン・アレクサンダー

  ストーリー
 ウォーターゲート事件の真相究明に命をかけた追跡調査をし、ニクソン大統領を失脚にまで到らしめた二人の若き新聞記者の姿を 描いた社会派サスペンス。ワシントン・ポスト紙記者のカール・バーンスタインとボブ・ウッドワードのノンフィクションを映画化 している。
 1972年6月17日、ワシントンにあるウォーターゲート・ビルに5人の男たちが侵入し、逮捕された。彼らの目的はこのビルに ある民主党全国委員会本部に盗聴器を仕掛けることだったが、事件は共和党の狂信者による犯行として片付けられる。
 しかし、ワシントン・ポスト紙記者のカール・バーンスタイン(ダスティン・ホフマン)とボブ・ウッドワード(ロバート・レッド フォード)は、背後にただならぬ陰謀を感じ取り、独自に追跡調査を始めるのだった。

  一口感想
 実際に事件が起こってからあまり間もない頃に製作公開され、当時はあのスクープがどのようにしてなされたのか、その興味と 興奮で見た記憶がある。
 (バーンスタインとウッドワードはこれでたしかピュリッツァー賞を受賞したと思う。)

 今回20数年ぶりに見て、二人の地味な取材で薄皮を剥がすように事実が分かっていくプロセスは、まるで推理小説を読むようで、 やっぱり面白いと思った。
 ただ、やっと事件の黒幕が姿を見せ始めたか・・・、というところでいきなりストンと話が終わり、あとはニクソンが事件の 関与を認め失脚したという、二人のタイプライターによる記事原稿が画面に写されるだけなのは、少々拍子抜けの気分。
 当時は事件がまだ生々しくて難しい面があったのかも知れないが、この辺りもう少し工夫してほしかった気がする。

 ジェイソン・ロバーツのワシントン・ポスト紙社幹はさすがの貫禄。ダスティン・ホフマン、ロバート・レッドフォードは記者と しての色合いの違いが余り出てなくて、個性が弱いと思った。ただし、二人とも若いだけにとっても綺麗でかっこいい。



 【事件メモ】 72年6月、ウォーターゲート・ビルの民主党本部に盗聴を仕掛けようとした7人が逮捕されたことに端を発した この事件は、その後「ワシントン・ポスト」紙などマスコミの精力的な追及で、ニクソンの関与などの全容や揉み消し工作が暴露され、ニクソン 大統領の支持率は低下、退陣を余儀なくされた。
 ★1973/4/27 ワシントンのウォーターゲート・ビルで72年6月17日に発生した民主党全国委員会事務局盗聴事件、 通称“ウォーターゲート事件”が発覚。
 ★1974/8/8 ニクソン大統領がホワイト・ハウスの執務室から、テレビ放送で、ウォーターゲート事件の責任を取って辞任する ことを国民に告げた。
  【◎△×】7

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台風クラブ

1985年  日本  96分
監督 相米 慎二
出演
三上 祐一、紅林 茂、松永 敏行、工藤 夕貴
大西 結花、三浦 友和、尾美 としのり

  ストーリー
 台風の接近とともに心身のコントロールを失い、騒乱状態に陥る中学生たちの4日間を描いた青春映画。
 東京近郊の地方都市。夜、学校のプールに泳ぎに来た5人の女子中学生は、先に来ていた明(松永 敏行)をからかい、溺死寸前にまで 追い込んでしまう。
 翌日、教師・梅宮(三浦 友和)の恋人の母親が教室に乗り込み、生徒の間に動揺が広がる。
 台風が近づいている土曜日、理絵(工藤 夕貴)は学校をサボって東京へ家出し、台風の襲来で家に帰りそびれた恭一(三上 祐一)らは、カセットから流れる音楽に合わせて踊ったりの大騒ぎをする。翌朝、恭一は教室の窓から飛び降り、死んでしまう。

  一口感想
 心身ともに急激な変化が起こる思春期をよく “疾風怒濤の年代” というけれど、その “疾風” を文字通り台風で表わしたところが 面白い。ただ映画では、土曜に突然激しい風雨が襲来し、急に子供たちがおかしくなる感じで、やや唐突だ。
 ラジオやテレビで刻々と台風情報が流れたり、子供たちがつまらないことで常にない小競り合いをして、大人が「一体どうしたんだ」と 首を傾げたりするシーンが挟まれば、台風の接近とともに子供たちが心のバランスを崩していく様子が、もっとよく分かったと思うけど・・・。

 家庭が恵まれていないらしい健(紅林 茂)が、気になる女子生徒(大西 結花)の背中に理科の実験の薬をいれて火傷させたり、台風の 夜、その子が怯えたように逃げ出したら急に火がついたように追っかけ回して、「お帰り、お帰りなさい、ただいま」と呪文のように 呟きながら教室の戸を蹴り続けるシーンは、自分でも訳の分からない衝動に突き動かされるこの年頃の少年の心がよく表われていると思った。

 興味を覚えたのは、三浦友和が扮する数学の教師・梅宮。理想に燃えて教職に就いただろう青年の成れの果て、という感じがとてもよく 出ている。授業中に同棲中の恋人の母親に「どう責任取るのか」とねじりこまれた後、寝転がったまま脚で恋人にからみながら「どうして(お袋に)あんなことさせるんだよ」とグダグダ文句を言うのには吹き出した。
 そのままセックスするのかと思ったらそういう訳でもない。ハンサムなのにそれを気ぶりも感じさせず、どうしようもない男を難なく 演じる三浦友和って得がたい俳優だと思う。

 優等生の三上に「僕はあなたを認めません」といわれて、「15年経てばお前もこうなるんだよ。15年の命なんだよ」と返す梅宮。 ほんとはもっと前から徐々にこうなって15年後の今だから、少年の “純真寿命” はもっと短いことになる。
 「汚れちまった悲しみに・・・」という中原中也の詩が胸をよぎる。今の自分が一番やりきれないのは梅宮自身なのだ。三上は死に 急いでしまったけれど、大人のこの悲しみが判る年齢まで、辛抱して生きてほしかった。ぐうたら教師の梅宮だってそう思ったに違いないと思うな・・・。
  【◎△×】7

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ダイヤルM

1998年  アメリカ  107分
監督 アンドリュー・デイヴィス
出演
マイケル・ダグラス、グウィネス・パルトロウ、ヴィゴ・モーテンセン
デヴィッド・スーシェ

  ストーリー
 ヒッチコック監督の名作サスペンス『ダイヤルMを廻せ!』(54) を現代風にアレンジしたリメークした作品。
 スティーヴン(マイケル・ダグラス)とエミリー(グウィネス・パルトロウ)の夫婦は一見裕福で平穏な生活を送っているが、 エミリーは不倫の恋に落ちていた。
 一方、事業が破産寸前に追い込まれたスティーヴンは、エミリーの莫大な財産目当てに彼女の殺害を企て、エミリーの不倫相手の デヴィッド(ヴィゴ・モーテンセン)を脅迫、50万ドルで請け負わせる。デヴィッドは昔の刑務所仲間に肩代わり殺人を依頼するが、 男はエミリーの抵抗で逆に彼女に殺されてしまう。
 マンションの鍵からスティーヴンの完全犯罪のカラクリは一気に崩れてしまうが・・・。

  一口感想
 『ダイヤルMを廻せ!』のリメークといっても、妻殺しが確かに実行されているかどうかを、夫が自宅に電話をかけて確認しようと するところと、家の鍵がトリックのキー・ポイントになっているところ、この2つをオリジナルから借用しただけ。映画としては別の ものと考えたほうがよさそうだ。
 オリジナルでは、妻は殺人罪に問われ、裁判に掛けられるところまで追い詰められる。彼女の正当防衛が認められるためには、夫の 仕掛けた鍵のトリックが解明される必要があり、いわば本格推理小説を読む面白さがあった。
 一方本作は、サスペンスというよりは “不倫の恋に悩む人妻のラブストーリー” という趣きの映画だ。マイケル・ダグラス、 グウィネス・パルトロウ、ヴィゴ・モーテンセンの主役3人がそれぞれに適役で雰囲気があり、前半はそれなりに楽しめるが、 ストーリーが進むほどほころびが目に付きだす。
 2度も人を殺すエミリーが、2度ともいともあっさり「正当防衛」と認められてしまうのは、いくらなんでも話が甘い。最初の事件の 時には、キッチンの血だまりに残った靴痕からスティーヴンの行動を鋭く見抜いた刑事が、その後さしたる活躍をしないまま終るのも 拍子抜けだ。鍵のトリックもエミリーがあっさり見破ってしまう。
 本来ならサスペンスを盛り上げる要因が、どれもこれも手にすくった水のように洩れてしまうのだ。
 オリジナルでは、夫が妻の殺害を委託するのは偶然再会した旧友で、妻とは直接関係のない人間だった。だから殺人者には、妻を殺す ことにはためらいがない。
 本作では夫が殺人を委託・強要するのはこともあろうに妻の愛人だ。夫の底恐ろしさや、愛人が追い込まれる窮地などの点では、 本作のほうがスリル度が高い。しかし、せっかくの設定がうまく生かされているとは言いがたい。材料そこそこだが調理は今一つの 料理、という感じの映画だ。
  【◎○×】5

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ダイヤルMを廻せ!

1954年  アメリカ  105分
監督 アルフレッド・ヒッチコック
出演
レイ・ミランド、グレイス・ケリー、ジョン・ウィリアムズ
アンソニー・ドーソン、ロバート・カミングス

  ストーリー
 ブロードウェイでヒットした舞台劇を脚色したヒッチコック・ミステリー。
 トニー(レイ・ミランド)とマーゴ(グレイス・ケリー)は一見平穏な夫婦の暮らしを営んでいたが、じつはマーゴには不倫の相手が いた。それを知ったトニーは金に困っている旧友レズゲイト(アンソ ニー・ドーソン)に妻を殺させようと企む。
 ところが、マーゴのとっさの反撃で、逆にレズゲイトが刺し殺されてしまった。トニーは作戦を変更し、そのためマーゴは正当防衛が 認められずに死刑の宣告を受けることに・・・。
 しかし、アパートの鍵のトリックが暴かれたことから、トニーの完全犯罪は一気に崩れ去る。

  一口感想
 推理小説を読むような趣きがあって、楽しかった。とくに、鍵のトリックに気づいた警部がトニーに罠を仕掛ける件りは面白い。この 警部を演ずるジョン・ウィリアムズがなかなか味がある。ラストシーンの櫛で髭をなでつける仕草・表情には思わずクスリとさせら れた。
 レイ・ミランドもいつもながらに印象的。彼の冷たさって独特の迫力あるなぁ。
  【◎△×】7

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タクシードライバー

1976年  アメリカ  114分
監督 マーティン・スコセッシ
出演
ロバート・デ・ニーロ、シビル・シェパード、ジョディ・フォスター
ハーヴェイ・カイテル、アルバート・ブルックス、ピーター・ボイル

  ストーリー
 ニューヨークの夜を走る一人のタクシードライバーを主人公に、大都会の狂気と挫折を鮮烈に描き出した、スコセッシとデ・ニーロの 代表作。
 ベトナム帰りのトラヴィス・ビックル(ロバート・デ・ニーロ)は、不眠症のためにニューヨークの夜を流すタクシードライバーに なった。大都会の猥雑な喧騒の中を走りながら、トラヴィスは都会の堕落に苛立ちを募らせていく。
 彼は、大統領候補の選挙事務所に勤めるベッツィ(シビル・シェパード)をやっとデートに誘い出したものの、ポルノ映画館に連れて 行ったためにあっさり振られてしまう。
 やがてトラヴィスは銃を手に入れ、身体を鍛錬し始めるが、スーパーに入った黒人強盗を射殺したことで、彼の中の何かが弾ける。 そして、彼は大統領候補の暗殺を決意する。
 バーナード・ハーマン作曲のメイン・タイトルが映像を圧倒する強烈な印象を残す。13歳のジョディ・フォスターが少女娼婦を演じた ことも話題を呼んだ。カンヌ国際映画祭作品賞を受賞。

  一口感想
   トラヴィスは13歳の娼婦アイリスを救い出して、ちっとは気が晴れたのかしら。こんなことで彼の鬱屈が解決されたとはとても 思えないが・・・。
 かといって、大統領候補の暗殺に成功していたとしても、同じことだろう。映画は彼がまたタクシードライバーにもどって、街を 流しているところで終るが、これからもトラヴィスは「腐っている世の中をきれいに洗い流す」ために、次々犯罪を繰り返すんじゃ なかろうか。
 アルト・サックスが奏でる孤独感や不安感をかきたてるような旋律を聞いていると、一層そんな気分になる。

 運転するトラヴィスの背中ごしに、都会の雑踏がタクシーのウィンドウを流れていく。そして、バックミラーに映ったトラヴィスの 眼が、車内の暗い空 間にポッカリと浮かぶ。
 繰り返し現われるこのショットが、都会から疎外されたトラヴィスの心の空白を強烈に伝えてくるようだ。

 トラヴィスは「自分の殻に籠って一生過ごしても仕方ない」と考えて大統領候補暗殺を決意するけれど、アイリスがなぜ娼婦のままで いいと言ったのか、ベッツィがなぜポルノ映画館に連れていかれて怒ったのか、を考えようとしない。それが何より彼が自分の殻から 出ていないことを示している。
 トラヴィスに限らず、現代は他人の気持への共感能力がどんどん失われているようで、怖いと思うことがよくある。トラヴィスを 演ずるデ・ニーロが、痩せて、いかにも顔色悪そう・・・。
  【◎△×】8

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ダロウェイ夫人

1997年  イギリス/オランダ  97分
監督 マルレーン・ゴリス
出演
ヴァネッサ・レッドグレイヴ、ナターシャ・マケルホーン、ルパート・グレイヴス
マイケル・キッチン、アラン・コックス、レナ・ヘディ、サラ・バデル、ジョン・スタンディング

  ストーリー
 20世紀を代表する女性作家ヴァージニア・ウルフの同名小説の映画化。老いや死を意識し始めた初老の女性の心の移ろいを描いて いる。
 1923年6月。国会議員を夫に持つダロウェイ夫人クラリッサ(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)は、今夜自宅で開くパーティの 準備に忙しかった。
 彼女はパーティの花を買いに行く途中、30年前の輝くような青春時代と、恋人ピーター・ウォルシュ(アラン・コックス)のことを 思い出す。そして、冒険的なピーターとの波乱に満ちた人生ではなく、平凡だが穏やかな夫リチャード(ジョン・スタンディング)との 人生を選んだことは正しかったのかと自問する。
 花屋から通りを見ていたでクラリッサは、戦争神経症の退役軍人の青年セプティマス(ルパート・グレイヴス)が、幻影に苦しむのを 目撃する。

  一口感想
 「ダロウェイ夫人」をモチーフにした『めぐりあう時間たち』はとても好きな映画だが、本作のほうは公開時も含め3回鑑賞に チャレンジして、3回とも残念ながら共感するまでには至らなかった。
 一番の理由は、キャスティングに違和感が大きかったことがある。ダロウェイ夫人は50代半ばくらいの年齢らしいが、いかんせん ヴァネッサ・レッドグレイヴが歳を取り過ぎている。
 夫リチャードを演じる俳優は彼女と似た年頃なのでまだしもだが、現在のピーターに扮するマイケル・キッチンは若すぎて、レッド グレイヴとのダンス・シーンなどは気の毒になるほどだ。娘のエリザベスとも、母娘というより、祖母と孫娘に見える。
 いっそレッドグレイヴに合わせて、60代半ばくらいに設定を変えたほうがよかったんじゃなかろうか。そのほうが、老いと死を 見つめつつ若い日に思いを馳せる、という内容にも合っている気がするが。
 クラリッサの親友・サリーに扮する老若2人の女優(レナ・ヘディ、サラ・バデル)も、同一人物という設定にしてはあまりに イメージが違いすぎる。

 「現在」と並行して語られるダロウェイ夫人の「青春時代」はなかなか魅力的だ。良家で大切に育てられた令嬢(クラリッサ)(ナターシャ・マケル ホーン)の無垢な明るさが、良き時代そのもののイ メージと重なって、生き生きと躍動する。
 ただ惜しむらくは、それが「懐かしい思い出」という域を脱していないことだ。ダロウェイ夫人が、それによって自分の人生を 振り返り、現在の自分を確認する、というところまでには達していない気がする。
 同様に、ダロウェイ夫人の1日と交互に描かれる戦争神経症の若者セプティマスの一日も、ダロウェイ夫人が死を見つめるという モチーフとしてはうまく機能していない。
 ストーリーが2つに分かれたまま進んでゆき、最後のパーティの場面でやっと1つになる。しかし、見知らぬ青年の自殺に衝撃を受けた ダロウェイ夫人が、最後に「これでいいのだ」と自分の人生を受け入れるのが、私には正直なところあまりよく分からなかった。
 1920年代を再現した街並みや公園、衣装など、きちんと手間とお金をかけた映画になっているが、綺麗で整った美術品を眺めて いるような距離感があった。
  【◎△×】7

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断崖

1941年  アメリカ  99分
監督 アルフレッド・ヒッチコック
出演
ジョーン・フォンテイン、ケイリー・グラント、ナイジェル・ブルース
セドリック・ハードウィック、レオ・G・キャロル

  ストーリー
 夫の言動に疑惑を抱いた妻が、彼に殺されるという妄想に陥る心理スリラー。ジョーン・フォンテインがアカデミー主演女優賞を 獲得した。
 ジョー・エイズガース(ケイリー・グラント)はハンサムな上にイギリス社交界の人気者。彼に憧れて結婚した富豪の娘リナ・ マクレドロー(ジョーン・フォンテイン)は、ジョーが実は無一文で、華やかな生活はすべて友人などからの借金と知って愕然とする。
 しかもやっと不動産業を営むいとこのメルベックを手伝うようになったと思ったら、多額の金を横領してクビになっていた。
 親友で遊び人のビーキー・スウェイトがパリで不審死を遂げたことを知ったリナは、その時彼に同行していたという身元不明の イギリス人をジョーと疑い始める。
 そして、知人の女流探偵作家に殺人の方法をしきりと尋ねるジョーに、財産を狙って自分を殺そうとしていると思い込んでしまう。
 実家にもどるというリナをジョーは車で送ろうという。彼が運転する車は猛スピードで断崖にさしかかった。

  一口感想
 ケイリー・グラントが、明るくて軽妙で、図々しくて無責任、そのくせ憎めないジゴロ的な男の魅力をよく出している。すごく悪い 男にも見えるし、単純な底のない男にも見える。グラントの地なのか演技なのか、その曖昧なところが妻リナの妄想をもっともなものに 思わせて、面白いと思った。ただ、話としてはちょっと単純。もう一捻りほしかった。
  【◎△×】6

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タンゴ

   1998年  スペイン/アルゼンチン  116分
監督 カルロス・サウラ
出演
ミゲル・アンヘル・ソラ、ミア・マエストロ、セシリア・ナロヴァ
ファン・カルロス・コペス、カルロス・リヴァローラ
フリオ・ボッカ(実名で特別出演)

  ストーリー
 スペインの巨匠カルロス・サウラ監督作。
 ブエノスアイの舞台演出家マリオ(ミゲル・アンヘル・ソラ)は、『タンゴ』と題する映画を作るためにオーデションをする。そこで 若く美しいダンサー、エレーナ(ミア・マエストロ)に出会い惹かれるが、彼女は映画製作の出資者アンへロの愛人だった。
 リハーサルが始まると、マリオは稽古場にベッドを持ち込み、寝泊りしてショーのプランを練る。そこはレッスンやリハーサルが 行われ、映画へのマリオの幻想が交錯する場でもある。
 エレーナとの間に恋が芽生え、映画製作は佳境に入るが、2人の仲に気付いたアンへロは、群舞を踊るダンサーの中にエレーナを狙う 刺客を送り込む。

  一口感想
 ミュウ=ミュウ主演の別の映画と勘違いして見たのだが、意外に面白くて拾い物だった。
 一応ストーリーめいたものはあるけれど、それよりはショーとしてのストーリーと、現実の出来事と、ショーの監督でありこの映画の 主人公でもあるマリオの夢想(というか妄想)が渾然一体となり、それにタンゴの踊りが絡んで見せ場となっている。
 とくに私にとって新鮮だったのは、タンゴがシルエットや鏡に映った映像として描かれる場面。水に映る幻影を見るような、揺らめく ような不思議な感覚があって、ひどく幻想的だ。
 男一人に女二人のトリオや、女性二人、男性二人のデュエットは初めて見る組み合わせだったし、大勢のダンサーたちが男女に 分かれて幾何的に配置されて一斉に踊るシーンは、ダイナミックな迫力があってとても素敵だった。
  【◎△×】7

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探偵物語

1983年  日本  111分
監督 根岸 吉太郎
出演
薬師丸 ひろ子、松田 優作、岸田 今日子、北詰 友樹
秋川 リサ、坂上 味和、財津 一郎、中村 晃子、藤田 進

  ストーリー
 殺人事件に巻き込まれた女子大生が、私立探偵とともに事件の調査に乗り出すロマンティック・ミステリー。
 父の待つアメリカへの出発を1週間後に控えた女子大生の新井直美(薬師丸 ひろ子)は、憧れの先輩・永井に誘われホテルに入るが、 突然飛び込んできた私立探偵の辻山(松田 優作)に邪魔される。彼は、父の元秘書で直美の世話をしている長谷沼(岸田 今日子)に 雇われ、ひそかに直美のボディガードをしていたのだ。
 辻山の元の妻でクラブ歌手の幸子(秋川 リサ)が、ある朝、密会中のホテルで愛人が殺されたと、辻山のもとに飛び込んでくる。 容疑者として指名手配された幸子を救うため、直美と辻山は真犯人探しに乗り出した。

  一口感想
 この映画の公開当時、薬師丸ひろ子の人気はもの凄かった。いったいどこがよかったんだろうと思いながら見たが、残念ながらあんま りよく分からなかった。女子大生という設定だが、まるで中学生くらいにしか見えない。その稚さがよかったのかなぁ・・・。
 松田優作はもっさりとして風采の上がらない役柄なのにすごくかっこいい。分別を備えた大人の匂いがする。改めて魅力ある 俳優だなと思った。
  【◎○×】5

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暖流

1957年  日本  94分
監督 増村 保造
出演
根上 淳、左 幸子、野添 ひとみ、船越 英二
村田 知栄子、品川 隆二、小川 虎之助

  ストーリー
 日疋祐三(根上 淳)は今は病床にいる恩人・志摩博士(小川 虎之助)から彼の病院の建て直しを依頼されて、久しぶりに東京の土を 踏んだ。病院は院長の息子・泰彦(船越 英二)の無能をよいことに、目に余るほど腐敗している。
 日疋は彼に想いを寄せる看護婦の石渡ぎん(左 幸子)の協力で病院内の情報を手に入れるが、院長の娘・啓子(野添 ひとみ)に 憧れを抱き、彼女の婚約者・笹島(品川 隆二)の素行を調べ、その乱脈を極めた女性関係を知る。

  一口感想
 一応文芸映画だと思うが、吹き出しそうになる場面が多くてストーリーに入り込めず、困った。
 例を上げればキリがないが、分りやすいところで言えば、時代が違うから仕方ないのかも知れないけど、俳優たちが演技のそろって 大仰で大時代的なこと(見ていて気恥ずかしくなる)、根上淳や品川隆二のポマードべったりの髪型、野添ひとみの厚化粧。
 船越英二が白衣の胸に赤い花を付けて「メケメケ・ハモハモ・バッキャロウ〜」と歌いながら登場するにいたって、とうとう我慢し きれず笑い出してしまった。
 この映画の公開当時はこれでよかったのかなぁ、今の感覚で批評したら酷かもしれない、と思ったりもするけれど、気分が白けること 大。
 ストーリーもあまりに現実離れしていて、悪いけどばかばかしさが先に立ってしまう。病院の腐敗や、外部者がいきなり入っていって 建て直しをするわけだから、当然起きるはずの内部者との軋轢や葛藤が丁寧にしっかり描かれていれば、もっと感情移入できたかも しれないが・・・。妙に漫画チックな映画だった。
  【◎○×】5

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