| 【 じっくり映画館 】No.46 |
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ストーリー 原始の姿が残されている中国の広大な無人地帯ココシリ。海抜5000m近いこの地に生息するチベットカモシカの密猟を取り締まる ために、元軍人のリータイ(デュオ・ブジエ)は民間の山岳パトロール隊を組織する。 ある日、隊員の1人が密猟者に殺される事件が起きる。その調査のために北京からやって来た記者ガイ(チャン・レイ)は、リータイ に取材を申し込む。初めは猜疑の目を向けていたリータイだが、ガイの「自分の記事がパトロール隊の活動の役に立つはずだ」という 言葉に、彼の同行を承諾する。パトロールはガイの想像を超える苛酷なものだった・・・。 チベットカモシカの密猟者とそれを取り締まるパトロール隊の命がけの攻防を、実話に基づいていて描いている。 地味な映画だが、全編に圧倒的な力がみなぎり、ハンマーで脳天を殴られたような気持ちになる。私にとって今年の新作鑑賞映画の 五指に入る作品になるのではないかと思う。
表題の【ココシリ】とは、チベットの最後の秘境ともいうべき場所で、富士山より高い海抜4700mの無人地帯にチベットカモシカ が生息している。捕獲は禁じられているが、毛皮は軽く柔らかく保温性に富み、法外な高値で取り引きされる。そのため密猟がやまず、 かつては100万頭いたチベットカモシカが、1990年以降、1万頭にまで激減してしまったという。 そうした事態を憂えた民間有志によって、1993年に山岳パトロール隊が結成された。パトロール隊の初代と2代目の隊長がパト ロール中に落命したのを知ったことが、監督が本作を作るきっかけになったという。 隊員の1人が密猟者たちに射殺される場面で映画は始まる。パトロールが生易しい仕事ではないことが示されるのだ。その鳥葬シーン がショッキング。ここで生きることは、感傷が立ち入る隙は毛筋一本ほどもない、生死ぎりぎりの厳しさであることが伝わってくる。 何台かの車に分乗したパトロール隊は、密猟者の足跡をたどって、奥へ奥へと追跡を続ける。平地の3分の1という薄い空気の中で、 全力で密猟者を走って追ったために、急性の肺気腫になる隊員が出る。車の燃料が無くなり、雪山に孤立する別働隊員たちもいる。 食料が窮乏してくると、隊長リータイは捕まえた密猟者たちを零下20度という雪原に放り出す。
国道までの何百kmを自分たちの
才覚で生き延びろというのだ。追うほうも追われるほうも命がけだ。こうしたなかで分かってくるのは、草原が砂漠化し放牧ができなくなった農民たちが、密猟者に雇われて、カモシカの皮剥ぎをして いるという事実だ。希少動物の乱獲を云々する以前に、彼らにとってほかに生きるすべがないという現実がある。 パトロール隊に立ちふさがる現実も厳しい。時には銃撃戦になることもある彼らに生命の保証はない。その上、政府からの資金援助は なく、活動費はすべて彼らの持ち出しなのだ。 肺気腫の隊員を町まで送っていく隊員のリウ(キィ・リャン)に、隊長リータイは押収した皮を売って治療費に当てろという。同行 記者のガイが「それは違法だ」というと、リータイは「非合法は承知だ。監獄に入っても構わん。そうしなければ部下もココシリも守れ ない」という。 下手をすれば、彼らは密猟者から皮を奪い、転売して利益を得るだけの犯罪者集団に堕ちかねないのだ。そうならずに、厳しい使命感 で自らを律する原動力は一体なんなのか。
それはココシリという自然そのものなのだと私は思う。彼らが野営地のテントで眺める夜空の息を飲む美しさ。満点にきらめく星を 見つめながら、隊員の1人は「山に入ると家に帰りたくなる。でも家に帰ると、すぐにココシリが恋しくなる」とガイに語る。 【ココシリ】とはモンゴル語で “美しい少女”、チベット語で “青い山々” という意味だ。ココシリの自然の中に厳然と存在する超自然的なものへの畏敬。ここには彼らにとって連綿と続く魂の流れがあるに違いない。彼らが命を賭けて守っているのは、ココシリの “霊性” なのだと私は思う。 リウが町から必要物資を買い込んで山にもどる途中、流砂に飲み込まれるシーンの恐ろしさは筆舌に尽くしがたい。雪原に取り残された 隊員たちの恐怖と不安、パトロール隊を見送る家族の悲しみ。無事に帰れる保証はない。それでも彼らは出発する。生半可では通用しない 覚悟の壮絶
さに胸が詰まる。現在は、ガイの記事が呼び水となって国による自然保護管理局が設置され、密猟監視員やパトロール・カーなどが大幅に改善された そうだ。チベットカモシカも3万頭まで回復してきたという。 隊長リータイに扮するデュオ・ブジエの存在感がすごい。皮膚は風雪にさらされ、妥協を許さぬ精悍な風貌は、ドキュメンタリーを 見ている錯覚さえ起す。 恋人(チャオ・シュエジェン)と束の間の逢瀬の後に「金、貸してくれ」としか言えないリウ、初めは見るからに都会っぽだったが、 パトロール隊に同行するうちに骨太の視線を獲得していくガイ、一見朴訥ながら、農民のずるさとしぶとさを秘めた老農夫マー(マー・ ツァンリン)など、出演者1人1人の個性が強く印象に残った。 ![]() 青線が【ココシリ高原】 背後の山はヒマラヤ山脈 1.富士山:約3776m 2.熱気球の高度:約1000m 3.小型飛行機の限界高度:約5000m ココシリがいかに高地にあるかがよく分かります。 |