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【 じっくり映画館 】No.44

スターリングラード


2000年  アメリカ/ドイツ/イギリス/アイルランド  132分
監督 ジャン=ジャック・アノー
出演
ジュード・ロウ、ジョセフ・ファインズ、レイチェル・ワイズ
ボブ・ホスキンス、エド・ハリス、ガブリエル・トムソン

  ストーリー
 実在した伝説のスナイパー、ヴァシリ・ザイツェフと彼を倒すためにドイツから送り込まれた凄腕スナイパーの対決を通して、第2次 世界大戦下、スターリングラードの攻防を描いた戦争ドラマ。
 1942年9月、ナチス・ドイツの猛攻にさらされて、陥落寸前のスターリングラード。羊飼いの祖父に仕込まれ、天才的な射撃の腕 を持つヴァシリ・ザイツェフ(ジュード・ロウ)は、戦場で出会った政治将校ダニロフ(ジョセフ・ファインズ)の要請で、スナイパー としての任務につく。
 次々にドイツ人士官を倒す彼の活躍は、機関紙を通して全国に報じられ、ヴァシリは国民的ヒーローとなっていく。ドイツ軍はヴァシリ 暗殺を狙って、軍きっての狙撃の名手ケーニッヒ少佐(エド・ハリス)を送り込んでくる。
 一方、ヴァシリとダニロフは、女性志願兵ターニャ(レイチェル・ワイズ)をめぐって、友情にひびが入るようになる。

  一口感想
 スナイパー(狙撃手)の勝負は1発だけだという。2発目を発射すれば、自分の居場所を敵に悟らせ、狙われる確率がぐんと増大する からだそうだ。物陰に何時間も潜んで敵を待ち受け、たった1発で音もなく将校や指揮官を仕留めていく。スナイパーが “戦場の 悪魔” といわれる所以だ。
 戦争といえば大勢の兵士たちの銃撃戦をつい頭に浮かべてしまう私には、姿をみせない一撃必殺のスナイパーが市街戦の裏で暗躍して いたというのは衝撃的な事柄だった。

 この映画は第2次大戦時、スターリングラードの攻防で活躍した実在のソ連の天才スナイパー、ヴァシリ・ザイツェフと、彼を抹殺 するためにドイツから送り込まれた凄腕狙撃手ケーニッヒ少佐の、文字どおり死闘の物語だ。
 ヴァシリを演ずるのは『リプリー』(99)で輝くばかりの美貌をみせたジュード・ロウ。彼を見たさに映画館に出かけた私だったが、 映画が始まってすぐ、そんなふやけた思いはどこかに吹き飛んでしまった。

 スターリングラードに向かう新兵たちが、ヴォルガ河畔から舟艇に詰めこまれ、対岸に向かう冒頭のシーンからして凄い。上空から ドイツ軍の編隊機が襲いかかり、機銃掃射を浴びせる。逃げ場のない舟艇のなかで兵士たちがバタバタ倒れる。たまらずに川に飛び込む 兵は、「臆病者は許されない」と上官が舟艇の上から射殺する。
 スターリングラードに上陸した後も、同様のことが続く。銃が不足しているために、2人に1人は素手のまま突撃しなければならない。 倒れた兵の銃を奪い合って進むが、戦いのあまりの不利に退却しようとすると、後方から「退却は脱走と見なす」と督戦隊の銃弾が 浴びせられる。
 前進も退却もできず、敵ばかりか味方の銃でも殺されていく兵士たち。リアルな描写は息を飲むばかりだ。
 赤の広場を埋め尽くす累々たる死体を、ドイツ軍兵士がさらに機銃で掃射していく。まだ息のある者、死んだ振りをしている者も徹底 的に根絶やしにするのだ。
 残敵狩りの眼を逃れたヴァシリは、瓦礫の中からドイツ士官らを的確な射撃で仕留めていく。その腕と冷静さを政治将校ダニロフに 見込まれて、彼は狙撃部隊に編入され、その活躍は機関紙で全国に報じられる。兵士の志気が高揚し、ヴァシリはヒーローに仕立て 上げられていく。
 その影響力の大きさを見過ごせなくなったドイツ軍は、ヴァシリを始末するためにベルリンから凄腕スナイパー、ケーニッヒ少佐を 呼び寄せる。

 ここからの両者の心理的駆け引きが凄い。中でも印象的なのは、ケーニッヒが罠を仕掛けてヴァシリらを廃工場におびき寄せる場面だ。
 配水管の中をヴァシリらが移動しているのが、音と管の揺れで分かる。管の切れ目を跳躍した瞬間が狙われ、最初に跳んだ味方狙撃手 が額を打ち抜かれる。ちょっとした油断で捕らえられた仲間の1人は、ヴァシリたちの位置を知るための標的にさせられる。
 管を出て、物陰に隠れたヴァシリをケーニッヒ少佐が上から狙うシーンの張り詰めた緊張感。
 大きなガラスの破片にヴァシリの顔が映る。銃は数メートル離れたところにあり、ヴァシリは身動きが取れない。心配して後を追って きたターニャに合図して、ヴァシリはケーニッヒ少佐が潜んでいる場所にガラス片で太陽光を反射させる。一瞬の光のひらめきと同時に 身を翻して銃を取り発射するヴァシリ、命中した手の甲を思わず押さえる少佐。緊張感で神経がヒリヒリするようだ。

 ジュード・ロウの銃を構える眼がいい。澄んだその眼は、研ぎ澄まされ、獲物だけを狙う。教養はないが純朴で誠実なヴァシリが、 その瞬間、冷徹なスナイパーに変身する。
 しかし、彼がこんなことを言う場面がある、「遠くの人を撃つのではない。銃のスコープは、人がすぐそこにいるように表情が見える」 と。物を狙うように機械的に射撃しているわけではなく、彼はそのつど “人を殺す” という感覚を強烈に感じている、そう感じながら 人を殺し続けているのだ。
 射撃の凄さにばかり目が行っていた私は、目が覚めたような気がした、スナイパーとはなんと非情な任務なのだろう、と。ヴァシリの 人間性がよく感じ取れる言葉だと思う。
 ケーニッヒ少佐に扮するエド・ハリスがこれまた怖いほどにいい。老獪な策謀家。ヴァシリを仕留めるためには、靴磨きの少年さえ罠 にかけ、鉄塔に死体を吊るす冷酷さを見せる。しかし一方で、前線で息子を失った悲しみを胸深く抱く父親でもある。
 繰り返される死闘の果てに、彼が負けを悟った時のシーンが印象的だ。思わぬ闖入者でヴァシリを見失った少佐が、ふと、銃の気配を 知る。たしかにそれは自分を狙っている。パンしたカメラに、ヴァシリのコートの裾が翻る。
 少佐はゆっくりと被っていた帽子を取り、身体の向きを変える。撃たれる覚悟の仕草だ。その瞬間、銃が火を吹き彼はゆっくりと 倒れる。敵だけでなく、己に対しても厳しく潔い少佐だった。エド・ハリスはこれだけで場面をさらってしまったと思う。

 個人的に興味深かったのは、フルシチョフを演じたボブ・ホスキンス。子どもの頃よく新聞で眼にしたフルシチョフにあまりにそっくり で驚いた。陽気な農夫風の笑顔を思い出すが、本当はホスキンスが見せる鋭い眼差しを実物のフルシチョフも持っていたのだろう。
 戦後いち早くスターリン批判を展開した変わり身の早さも含めて、政治家の狡さや冷徹さを人の好さそうな顔の裏に覗かせて、フルシ チョフが実際にそこにいる錯覚を起しそうだった。

 美しい女兵士ターニャを巡る恋。ダニロフの友情と裏切り、そして彼の死。2時間余があっという間に過ぎていく。ヴァシリとター ニャが愛し合うシーンは、妙に生々しくエロティックだが、こんな状況下だからこそ命を燃やす切なさがある。
 スターリングラードの攻防戦はドイツ軍の敗北に終わり、その後の独ソ戦の重大な分岐点になったことは周知の事実だ。しかし、それ を大掛かりな戦争スペクタクルでではなく、ヴァシリやターニャ、ダニロフ、ケーニッヒ少佐らの人間ドラマとして描いたことで、感情 移入しやすくなり、感動もより深まったと思う。
  【◎△×】8

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