| 【 じっくり映画館 】No.35 |
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ストーリー 極寒の南極で生きる皇帝ペンギンたちの生死をかけた子育ての生態を、ドラマティックにとらえ
たドキュメンタリー。3月、ペンギン類のなかで最も大型の皇帝ペンギンたちが、隊列を組んで100キロの道のりを行進し始める。外敵が近づきにくい 氷山に囲まれた営巣地で、パートナーを見つけ、産卵し、子育てするためだ。5月末、産卵を終えたメスは卵をオスに託し、再び歩いて 100キロ離れた海へ向かう。産卵で衰えた体力を回復し、生まれるヒナに与える餌を得るために。 監督は、動物行動学の研究者であり、数々の科学ドキュメンタリーを手がけているリュック・ジャケ。3年の準備期間を経て、3人の 仲間とともに、零下40度の極寒のなかでの子作り、産卵、そして子育てをする皇帝ペンギンたちの姿を8880時間にわたって撮影し、 編集した。 ロマーヌ・ボーランジェとシャルル・ベルリングがペンギンのカップルの声を担当している。 青く輝く巨大な氷山に、タイトルクレジットがキラリキラリと光ってかぶさる。「うわーー、きれい! でも寒そうだな・・・」と 思っているうちに、揺らめく地平線に人影が1人、2人と現われる。と思ったら、それがペンギンのなかで最も大きいといわれる皇帝 ペンギンたちだった。 このオープニングからすっかり映画の中に引き込まれる。海中から氷上へ弾丸のように飛び出してきたペンギンたちは、やがて 1列縦隊になって、100km離れた営巣地へ向かって歩き出す。よちよちと不器用に歩く姿はユーモラスで愛らしい。 ふつうは最大でも500羽くらいの群れなのだそうだが、本作の撮影時はなんと1200羽以上も集まったとか。それが延々と並んで 進んでいく眺めはまさに壮観だ。 時速500m、20日かけてたどり着いたオアモックと呼ばれる氷丘のコロニーには、いくつもの隊列がすでに到着している。その 中からパートナーを見つけ、交尾し、産卵する。抱卵するのはつま先を縮こめた足の上。な〜るほど。 メスは産卵のために体重の5分の1を失ってしまう。その体力の回復と、孵化した我が子に与える餌を体内に蓄えるために、再び 100kmを歩いて海に向かう。卵はその間オスが抱いて温める。 メスからオスにどうやって卵を受け渡すのかと思ったら、零下40度の氷上に直接転がし、大急ぎでオスが足の上に乗せるという 素朴なやり方だ。数秒の間に済ませないと、卵は凍ってしまうのだそうだ。慣れない作業にパニックを起こし、卵にひびをいれてしまう 若いカップルもいる。殻の割れ目がガチガチと音を立てて、見るまに凍りつく。凄まじいの一語だ。 メスたちは1ケ月かけて海に到着すると、思うさま餌を追い、満腹するまで海の開放感を味わう。しかしここも油断はできない。 お腹を空かせたアザラシに襲われるメスもいる。アザラシが獰猛な牙を見せて、飲み込みそうな勢いでカメラに覆いかぶさってくる シーンはほんとうに怖い。 アザラシの餌となったメスの子どもは、孵化しても生きられない。こうして母と子の2羽の命が失われるのだ。
留守を預かるオスたちは、猛烈なブリザードに吹きさらされながら、ひたすら足の間に卵を抱き続ける。“ハドリング” といって、 身体を寄せ合って体温を失わないようにし、絶えず動いて外側と内側が入れ替わり、卵の孵化を待つ。皇帝ペンギンが縄張り意識が 薄いのは、こうして互いに身体を密着させてスクラムを作らないと、生命の維持が難しいからなのだそうだ。 中には空腹と疲れに耐え切れず、倒れて眠ってしまうオスもいる。容赦ないブリザードはその上にたちまち白い覆いを作っていく。 やがて卵から愛らしいヒナのさえずりが聞こえ始める。首を折り曲げてくちばしで殻を叩き、孵化を促すオスのしぐさは優しい。 生まれたヒナはオスに餌をねだるが、4ケ月も絶食しているオスに与えるものはない。オスは胃壁や食道の粘膜をはがした “ペンギン・ ミルク” を出して、ヒナに食べさせる。まさに我が身を削る子育てだ。 命の限界までがんばった時に、メスたちが帰ってくる。今度はオスたちが海に向かう番だ。しかし、極限まで痩せて体力の衰えた 彼らにとって、それはとても苛酷な旅だ。途中で行き倒れになってしまうオスも多いのだそうだ。海で体力を回復したオスはまた コロニーに戻ってくる。 見ているとほんとうに溜め息が出てくる、どうして皇帝ペンギンはこんな苛烈な環境で生きることを選んだのだろう、と。1年に 1度、命をつなぐ営みは、ひたすら、海とコロニーの間を歩き、極寒と絶食に耐え、そしてパートナーを待つことなのだ。 私がこの映画を見た劇場はそう大きくはなかったが、満席で補助のイスもずらっと並び、映画が終っても幕が下りるまで席を立つ人は いなかった。ペンギンたちの大らかで愛らしい姿とうらはらの、崇高さすら感じさせる子育てに打たれてしまったのだ。 そして、撮影スタッフの尋常ではなかっただろう努力にも、思いを馳せずにおれなかった。
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