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【 じっくり映画館 】No.30

レッド・バイオリン


1998年  カナダ/イタリア  131分
監督 フランソワ・ジラール
出演
第1話カルロ・セッチ、イレーネ・グラツィオーリ
第2話クリストフ・コンツェ、ジャン=リュック・ビドー
第3話ジェイソン・フレミング、グレタ・スカッキ
第4話シルビア・チャン
第5話サミュエル・L・ジャクソン、ドン・マッケラー
 コーム・フィオール、モニク・メルキュール

  ストーリー
 17世紀にイタリアで作られた一挺の赤いバイオリンが、4世紀もの年月をかけ、次々と人の手を移っていく。バイオリンに魅せられた 人々の数奇な運命が、タロット・カードの絵柄を通してオムニバス風に綴られてゆく。
 現代のカナダ、モントリオール。伝説の名器レッド・バイオリンが今まさにオークションで売られようとしている。
 時代は遡り、1681年のイタリア、クレモナ。高名なバイオリン職人ブソッティ(カルロ・チェッキ)の妻アンナ(イレーネ・ グラツィオーリ)が臨月を迎えている。アンナは下働きの老女にタロットカードで「将来は長い旅をする」と占われるが、死産し、 自らも命を落とす。
 1792年、オーストリア山中の修道院。バイオリンはここの孤児院で天才少年カスパー(クリストフ・コンツェ)の愛器となって いる。彼は慈善でバイオリンを教えに来た音楽家プッサン(ジャン=リュック・ビドー)に見いだされ、ウィーンに出る。しかし、厳しい 訓練を経て王宮デビューのオーディションを受ける日、急死する。
 ジプシーの間を転々としたバイオリンは1893年、イギリスの作曲家でバイオリニスト、ポープ (ジェイソン・フレミング)の手に 渡る。ポープは愛人で女流作家ビクトリア(グレタ・スカッキ)との確執からバイオリンに傷をつけ、絶望から拳銃自殺する。
 バイオリンは上海で西洋音楽を学ぶ少女のものになる。時は流れて1965年、文化大革命の嵐のなか、党の下級幹部シャン・ペイ (シルビア・チャン)は、母から譲り受けたバイオリンを音楽教師に託す。彼はバイオリンを隠した後、首をくくって死ぬ。
 現代のカナダ。バイオリンは中国政府がオークションに出品、鑑定士モリッツ(サミュエル・L・ジャクソン)はこれが 伝説の “レッド・バイオリン” ではないかと直感する。オークションでは指揮者ルセルスキーがバイオリンを落札するが・・・。

  ふた口感想
 現代のカナダ、モントリオールのオークション会場からストーリーは始まる。世界の最高級品ばかりを扱うオークションらしく、 会場にはリッチで華やいだざわめきと緊張感が漂う。
 一転して、場面は17世紀、イタリア。仄かな窓明かりの中で職人たちが黙々と仕事に励むバイオリン工房。鮮やかな転換に、一気に 映画に引き込まれる。
 工房の主はバイオリン作りの名手で、彼の妻は臨月を迎えようとしている。下働きの老女が、生まれてくる 子ども(じつは伝説の名器 “レッド・バイオリン” )の運命をカードで占うのだが、それがオムニバス風に綴られたストーリーを通す 1本の芯となり、狂言回しの役を果たしている。
 さらに、現代のオークション風景が、時には時間を逆回しして新しいカットが加えられて、ストーリーを縦断して挿入される。そして 次第に、“レッド・バイオリン” の魅力にとり憑かれた世界的楽器鑑定士が、本物を複製のバイオリンとすり替えようとする話へと つながっていく。
 オム二バスのエピソード1つ1つがよく出来ているだけでなく、こうした凝った構成になっているために、見終わった時には1本で 数本分の映画を見たような満足感がある。

 第2話の、オーストリアの修道院で育てられている孤児たちが、礼拝堂に並んでバイオリン演奏をするシーンがひどく心に残る。 場面は動かず、演奏する子どもたちの中央で赤いバイオリンを弾く少年が次々に入れ替わって行く。こうして、バイオリンとともに長い 時間がこの修道院で経過したことを感じさせるのだ。最後に1人の少年に場面が固定して、エピソードが始まる。
 天才的な才能を持ったこの少年は、“レッド・バイオリン” に魂を吸い 取られたかのごとくに、短く孤独な生涯を終える。哀切な物語だが、それと同時に、バイオリンの魔性ともいうべき魅力をいかんなく 物語って印象的なエピソードだ。
 少年の遺体が修道院に運ばれ、裏庭に埋葬されるシーンは、深い寂寥感が漂う。本編がこの 映画のなかではもっとも私の心に残った。

 中国に舞台が移っての第4話は、文化大革命を背景にしたエピソードそのものに力があり、強いインパクトを与える。
 1960年に中国に吹き荒れた文革の嵐は、『さらば我が愛/覇王別姫』『活きる』『シュウシュウの季節』『中国の小さなお針子』 など、幾つもの作品がすぐに思い出される。中国人にとっては痛切な思いとともに検証しなければならない歴史的事実の1つだろう。
 本作は製作に中国は関わっていないが、“バイオリン” という具体的なものに焦点が絞られているだけに、あの運動の本質がより 分りやすい形で描かれている。音楽教師が強制されてバイオリンを火に投じる場面は、あの “レッド・バイオリン” が消失する!と 一瞬、肝が冷える思いがした。
 現代カナダのオークションに登場する鑑定士を演じているのはサミュエル・L・ジャクソン。“レッド・バイオリン” の音色を聞く時の彼の 恍惚とした目。彼の演技はすごい。“バイオリン” に魅せられた人たちが辿った運命を思い起こさせ、不吉な気分になる。
 最後に “レッド・バイオリン” の赤い色の秘密も明らかになり、たっぷり楽しめる映画だが、こうまでして手に入れた “レッド・バイオリン” を、鑑定士は娘への土産にする。このラストはもう少しどうにか出来なかったものだろうか。
 数世紀を生き延びた魔性の “バイオリン” が、ただのおもちゃになってしまったようで、物足りなさが残った。
  【◎△×】8

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