| 【 じっくり映画館】No.27 |
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ストーリー ソフィア・ローレンの100本目の出演映画で、息子エドアルド・ポンティの長編監督デビュー作。カナダのトロントを舞台に、心に 痛みを抱えた3人の女性が、それぞれの人生と向き合い、新しい一歩を踏み出す姿を描いている。 家事やパートの仕事を黙々とこなすオリビア(ソフィア・ローレン)には、長年連れ添った夫(ピート・ポスルスウェイト)にも 言えないつらい秘密があった。彼女の心を慰めるゆいいつの楽しみは絵を描くこと。芸術の都フィレンツェに行く夢を持っている。 高名な写真家を父(クラウス・マリア・ブランダウアー)に持つナタリア(ミラ・ソルヴィーノ)は、戦場で撮った写真 が “TIME” 誌の表紙を飾り、新進フォト・ジャーナリストとして注目を浴びている。しかし、戦禍の惨状を目の当たりにして、 この仕事に疑問を持つ。 チェロ奏者のキャサリン(デボラ・カーラ・アンガー)は、暴力で母を死に至らしめた父への怒りと憎しみが癒えず、父(マルコム ・マクダウェル)への復讐を支えに生きている。刑期を終えた父が出所する日が近づいていた。 同じ町に住む3人の女性の人生が並行して描かれる。それらがやがて1つに収束されていく訳ではなく、ラストの空港待合ロビーで 偶然同じテーブルにつくまで、3人が直接顔を合わせることはない。それでも、映画はまとまりを失わず緊張感を持続する。エドアルド ・ポンティ監督はこれが長編映画の本格デビューだそうだが、なかなかの力量とお見受けした。 初老の主婦オリビアは、未婚で出産した娘を手放したつらい過去を持っている。画家になる夢を持っていたが、夫は彼女の内的な 世界にはまったく無関心で、鼻にもかけないあしらいよう。心の
通わぬ夫婦関係は索漠としている。ソフィア・ローレンは化粧っけなしの素顔。記念すべき100作目としてこういうやつれた主婦の役を選ぶのは驚きだが、それだけ 息子・ポンティ監督への思い入れも一入なのだろう。世界の大女優も母親なんだなぁ。ちょっと胸がほんわか。 気性の激しい女のイメージが強いローレンが、我がままな年下の夫にどこまでも黙って従う妻を淡々と演じている。 夫のジョンは始終「オリビア!」「オリビア!」と呼びたて、家の中に妻の姿を探す。威張っているようでも、ほんとうはすごく妻に 依存しているのだ。扮するのはピート・ポスルスウェイト。ローレンと互角の存在感を示している。 オリビアが憧れのフィレンツェに行く決心をした時、ジョンは「行きたければさっさと行け」と最後まで強がりをいうけれど、そっと 旅立ちの費用を渡す。この夫婦はまだ大丈夫、とほっとする私だ。 オリビアをさり気なく支える公園の庭師をジェラール・ドパルデューが演じている。ほんの脇役にこういう大物俳優を持ってくるのも すごいが、顔を出すだけでストーリーに厚みを増すドパルデューという役者もすごい。 偉大なカメラマンを父に持つナタリアは、戦火のアンゴラで少女のスクープ写真をものにして、フォト・ジャーナリストとしての 華々しいデビューを飾る。しかし、炎に包まれた少女の目がナタリアの
脳裏を離れない。ミラ・ソルヴィーノは愛らしくて、戦場を駆け回るカメラマンとしては線が細い気もするが、その分、シャッターを切る前に人間と してやるべきことがあったのではないかと悩む姿は、リアルだ。 父のアレクサンダーは「真実を知らせるのがフォト・ジャーナリストの使命だ」というけれど、そう簡単に割り切れるものでもない だろう。彼の自信に満ちた姿はむしろ、そういう「大義名分」を盾に、カメラマンとしての葛藤から目をそらしているようにも見える。 強大な父の重圧のもとで、ナタリアは写真家としても人間としても、本当には自分に自信が持てなかったのだろう。スクープ写真を 撮ったことで、かえって自分が見えたのだと思う。結局カメラマンを辞めて、国際青年援助隊の隊員としてボランティアに従事する道を 選ぶ。父を離れ、自立の道を歩み始めるのだ。 チェリストのキャサリンを演じるデボラ・カーラ・アンガーは私の好きな女優の1人だ。キツネのよ
うに尖った顔をしているけれど、いつもその表情は雄弁に内に秘めた思いを語る。この映画の彼女は、生い立ちの不幸が今も心の中で
血を流し続けている女性だ。キャサリンは、父の出所の日が近づくにつれて、夫と娘の待つ家で当たり前の生活を営むことが出来なくなっている。父への復讐を 支えに生きてきたからだ。 しかし、彼女がホームレス狩りの少年たちにいたぶられている父を救うのは、自分でも認めたくない父への愛が、彼女を衝き動したから なのだろう。 長い刑期の間に父は著しく変貌していた。彼が最後に取った行動で、キャサリンが長年の苦しみから解放されたのは間違いない。 しかし、父の変化はなぜ起こったのか、キャサリンはそれをどう受け留めたのか。それらがよく分からないために、このパートは ストーリーとしてはやや弱い印象もある。 あの『if もしも‥‥』『時計じかけのオレンジ』のマルコム・マクダウェルが茫洋とした父親に扮しているのにはびっくり。 3人の女性の抱えている問題に共通点はないが、共通のモチーフとして “少女” が適所に登場し、映画全体をつなぐ役割を果たして いる。3人はそれぞれにそれまでの人生を清算し、あるいは一区切りつけて、新しい一歩を踏み出す。地味ながらしっかりした作りの 映画だと思った。
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