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【 じっくり映画館 】No.25

告白


1969年  フランス/イタリア  136分
監督 コンスタンチン・コスタ=ガヴラス
出演
イヴ・モンタン、シモーヌ・シニョレ、ガブリエル・フェルゼッティ
ミシェル・ヴィトルド、ウンベルト・ラオ

  ストーリー
 冷戦下のチェコスロバキアで起きた “スランスキー事件” を、実際に体験した夫妻の共著「告白」をもとに、『Z』の コスタ=ガヴラス監督が映画化した。
 鉄のカーテンに閉ざされていたチェコスロバキアの政情の内幕とスターリニズムの実態を暴露し、鋭く告発した社会派ドラマ。主演の イヴ・モンタンは27キロも減量して撮影に臨んだ。
 1951年、チェコスロバキアの首都プラハ。外務次官のジェラール(イヴ・モンタン)はある朝、突然なにものかに拉致され、 いずことも知れぬ場所に監禁されてしまう。そして、身に覚えのない国家に対する反逆行為の告白を強要される。
 十分な睡眠も食事も与えられず、何ヶ月も執拗に続く訊問。初めは必死に否定していたジェラールも、次第にその気力を失っていく。 やがて彼は、これが自分を抹殺しようとする急進的なスターリン主義者たちの陰謀であることに気づき始める。

  ふた口感想
 私がもっとも強烈なインパクトを受けたのは、「自白」というものがどのように捏造されるのか、ということだった。それがこの 映画でつぶさに描かれる。
 例えばこんな風だ。「47年、フィルドとコンタクトを取ったか」。
 ジェラールが肯定すると、たちまちタイプライターの音が響き、“米国側スパイ、フィルドと接触した” という調書が出来、サインを 要求される。ジェラールは「47年当時、彼がスパイとは知らなか った。それを知ったのは49年だ」と、それを拒む。
 何度かこのやり取りが繰り返され、なおジェラールがサインを拒否すると、取調べ担当者が机上のブザーを押す。兵士たちが現われ 独房に引き立てられる。
 厳寒にもかかわらずジェラールは上半身裸で、両手を上げたまま膝の屈伸運動を強要され、合間に水がぶっ掛けられる。 そしてまた取調室に連れ戻され、さっきのやり取りが始まる。

 こう書くと大したことに見えないかもしれないが、ジェラールは逮捕されて以来ずっと、独房で監視の兵士から絶えず「歩け!」と 命令されている。疲れて壁にもたれたりすると、たちまち兵士が飛び込んできて、制裁を加える。
 (フランス映画なので兵士は「マルシェ(歩け)!」と怒鳴る。「マルシェ!」「マルシェ!」「マルシェ!」。映画が終っても、しばらくは この「マルシェ!」が私の耳の奥でがんがん響いた。それほど迫力がある。)
   寝るのは部屋の隅の細長い板。ここでも「正しい姿勢で寝ろ!」と命令され、仰向けに真っ直ぐ寝させられる。動くことが許されず、 固定した姿勢で寝ることがどれほどの苦痛か、試してみればすぐ分かることだ。
 絶えず手錠のままなので、食事の食器が持てず苦労していると、「時間だ!」といって持ち去られる。なかでも見ていて一番 つらいのは、不定期に行われる尋問だ。寝たと思うと起こされ、引き立てられ、睡眠が切り刻まれる。
 こうした拷問といっていい日々の中での取調べなのだ。神経が衰弱し、消耗し、朦朧としたなかでサインしてしまうのは当然に思える。

 すると次は、「フィルドから金を受け取ったか」になる。ジェラールは肯定し、「それは結核の治療費として、党から支給された 金だった」と説明する。しかし、調書にはフィルドの買収に応じたと記録されてしまう。
 こうして小さな事実らしきことに1つ1つサインさせられ、やがてそれは寄せ集められて、1つの物語に組み立てられる。「帝国主義者ジェラールは47年、米国側スパイ、フィルドと接触し、情報を提供。その礼金として800フランを受け取った」。サインした1つ1つの小さな書類がその証拠となる。
 「大きな偽り」を真実と認めさせようとするのではなく、「小さな事実」を1つ1つ事実として認めさせ、その集積が最後に 大きな偽りの物語にすりかえられてしまうのだ。
 その手法の巧みさに感心する。と同時に心底怖いなぁとも思う。


 予備審問も本裁判も茶番といっていいほど周到に準備される。
 質問に対する答をすべて予め完全に暗記させられ、しかも「棒読みでは いけない。感情を込めて答えろ」と強要される。
 裁判の様子はニュース・フィルムに撮影され、ラジオで国民に中継される。
 表向きは被告の権利が保障されているので、弁護士と控訴を検討してよいといわれるが、弁護士たちは「おとなしく判決を 受け入れれば、特赦の可能性もある」と説得する役割だ。
 こうして被告たちは死刑判決を受け入れ、その後で控訴を放棄させられ、処刑される。実際14名の逮捕者のうち、11名が処刑された という。ジェラールの場合は幸い終身刑だったので4年後に釈放され、その後名誉回復されるのだが・・・。

 こんな目に会っても、ジェラールは党の正義を信じ続けるのだが、その後次々と各国で共産主義体制が崩壊し、宗主国ソ連すら 消滅してしまったことを、彼はどんな思いで見つめたのだろう。
 私のように主義も宗教も縁のない人間には、1つのイデオロギーを命に換えて信奉するというのは理解を超え、ただ痛ましい思い だけが残る。
 ジェラールに扮したイヴ・モンタンは、党の幹部としての矜持と、徐々に屈服させられていく惨めさを、鬼気迫る演技で体現して 見事だった。
  【◎△×】8

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