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【 じっくり映画館 】No.24

チョコレート


2001年  アメリカ  113分
監督 マーク・フォースター
出演
ビリー・ボブ・ソーントン、ハル・ベリー、ピーター・ボイル
ヒース・レジャー、ショーン・コムズ、モス・デフ

  ストーリー
 ディープ・サウスと呼ばれるジョージア州で州立刑務所に務めるハンク(ビリー・ボブ・ソーントン)は、今は退職した父親バック (ピーター・ボイル)、そして息子ソニー(ヒース・レジャー)と親子3代にわたる看守だ。黒人への根強い偏見を持つバックや ハンクと違い、若いソニーは近所の黒人一家と親しくしている。ハンクはそれを苦々しく思っている。
 黒人の死刑囚マスグローブ(ショーン・コムズ)の死刑執行の日、初めて立ち会うソニーは緊張からミスを犯す。厳しく咎める ハンクに、ソニーは「父さんは俺を憎んでいた。俺は愛していたのに」と言って、父や祖父の目の前で拳銃自殺をしてしまう。
 一方、マスグローブの妻レティシア(ハル・ベリー)は、夫の処刑後、哀しみが癒える間もなく一人息子(モス・デフ)を轢き逃げ 事故で亡くしてしまう。
 息子を病院に運んだのは、偶然通りかかったハンクだった。こうして出会った2人は、引き寄せられるように近づいていく。ハル・ ベリーが本作で黒人女優初のアカデミー賞主演女優賞を受賞した。

  ふた口感想
 この映画で私が一番興味を引かれたのは、人種差別のテーマよりも3代にわたるハンク父子の葛藤だった。
 “男は強くあらねばならない” という考えは別にアメリカに限ったものではないと思うが、フロンティア開拓の歴史を持つアメリカ では、ことさら顕著にそれが表われ、受け継がれて来たような気がする。
 それが家族への支配となり、身体的・精神的暴力となっても、当事者たちは自分の痛みには無自覚で、親から子へ、さらにその子へと 支配・被支配の関係が連鎖されていく。
 そうした意味で、ハンクの父親バックを演じたピーター・ボイルの存在感は圧倒的だ。
 彼がいかに威圧的な力で妻子を支配し、彼らの精神を圧迫してきたかが、彼のがっしりした肉体と眼光鋭い顔から息苦しいまでに 迫ってくるのだ。
 バックを見ていると、亡くなった彼の妻の不幸な人生がまざまざと見えるようだ。彼にとって家族は愛の対象ではなく、支配の対象に 過ぎなかったのではないかと思う。

 ハンクはそうした父に屈服して人生を過ごしてきた。彼にとってそれは当然のことだったろう。
 でも、ハンクが父の価値観(人種差別やパワー思想)を骨の髄から信奉していたかといえば、私は違うような気がする。
 彼は、息子ソニーが初めての死刑執行立ち会いで取り乱すと、「処刑される者はどう感じる。自分の身になって考えてみろ」と言って ソニーを責める。
 「みっともない」とか「めめしい」「男らしくない」という理由ではなく、処刑される者の心を乱したことを非難したのだ。処刑される のは黒人だ。バックならこんな理由は一顧だにしないだろう。
 ハンクはこのころはまだ、父親の価値観への反発や、自分の中にある優しさを自覚していない。しかしソニーの突然の 死で初めて気づく。息子が彼の愛を求めていたこと、しかし父バックと同様、自分は妻や息子に愛を与えなかったこと、そして自分も 愛を求めていたことを。
 そして、本当は父親の人種差別思想を憎んでいたことを、彼は初めて悟ったのだと思う。

 ハンクはレティシアを送っていく車の中で、「死ぬほどに息苦しい気持ちを経験したことがあるか」と聞く。「どうしても殻が破れ ない苛立たしさを」と。
 彼は無意識のうちに、父に圧殺された人生の息苦しさと、別の人生がどこかにあることを感じていたのではないかと思う。
 彼が看守を辞めたのは、父の価値観への決別宣言だ。息子の死という取り返しのつかない代償を払ったのちに、彼はやっと封印されて きた本当の人生を歩むべきことが分かったのだと思う。
 彼がレティシアを愛する時にみせる優しさには、幸せを味わうことなく死んだ妻への償いの思いも重ねられているように私には思えた。

 ハンク父子のことばかり書いてしまったが、レティシアに扮したハル・ベリーが強烈な印象を残す。夫、息子と次々に失い、くず 折れんばかりの悲しみのなかで、それでも生きてゆこうとする姿 は強靭で、かつ繊細だ。
 レティシアがハンクに言う「私は大切にされたいの」という言葉はなんと切ない響きをもつのだろう。これまでの彼女の人生のつらさが すべて凝縮されているようで、私は思わず涙ぐんでしまった。
 2人で新しい生活を始めようという矢先に、レティシアは夫の処刑に立ち会ったのがハンクとソニーだったことを知る。大きな ショックを受けるレティシア。
 しかし、映画はこれには深く触れず、玄関のステップに並んで座り、湿り気の多い夜気のなかでチョコレート・アイスを食べる2人の ショットを映し出す。
 レティシアの視線の先には3つの白い墓碑。おそらくハンクの母と妻、そしてソニーの墓だろう。それらに見守られた 2人の不思議な安らぎ。静かな優しさがいつまでも余韻となって残った。
  【◎△×】8

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