HOMEじっくりLISTシネマTOP




【 じっくり映画館 】No.21

オールド・ボーイ


2003年  韓国  120分
監督 パク・チャヌク
出演
チェ・ミンシク、ユ・ジテ、カン・ヘジョン、チ・デハン
オ・ダルス、キム・ビョンオク、ユン・ジンソ

  ストーリー
 妻と一人娘を持つ平凡なサラリーマン、オ・デス(チェ・ミンシク)はある夜、突然拉致され一室に監禁される。そして部屋に 据えられたテレビで、妻が殺され自分が犯人として指名手配されたことを知る。
 15年間監禁され続けた後、また何の前触れもなくオ・デスは突然解放される。「いったいだれが、何のためにこんなことを?」  復讐を誓ったオ・デスは、ふとしたきっかけで知り合った若い女性ミド(カン・ヘジョン)の助力を得て、監禁した相手の正体を 探り始める。
 ミドには謎の男の影がちらつくが、いつしか2人は互いに惹かれあうようになる。
 そんなオ・デスの前に現われた正体不明の男ウジン(ユ・ジテ)は、「自分を殺せば監禁の理由が分らなくなる」とオ・デスを 挑発するのだった・・・。
 土屋ガロン(作)・嶺岸信明(画)原作の同名コミックの映画化で、カンヌ国際映画祭でグランプリを獲得した。『JSA』のパク・ チャヌク監督作品。

  ふた口感想
 ドスンと腹に重量級のパンチを食らったような、どす黒い迫力に満ちた映画だ。
 少々酒癖が悪く、女癖もよくないけれど、まーまー平凡な家庭持ちの男が、ある夜突然拉致されて、どことも知れぬ場所に監禁される。 だれが、いったい何のために? 理由は一切知らされず、そのまま15年が過ぎる。
 まるでカフカの小説を思わせるような不条理さでストーリーは始まる。

 しかしこれは哲学的な難しい映画ではない。それどころか、けばけばしい位の色調の映像は劇画やコミックを連想させるほどだ。
 (あとで実際、原作が日本のコミックと知り、驚いた。こんな面白い素材をむざむざ外国に持って行かれるなんて、なんだかとっても残念。もっとも日本で映画化しても、これほどの映画に仕上がったどうかはかなり疑問だが・・・。)

 15年後に、これまた理由を知らされず突然解放された男は、当然、自分をこんな理不尽な目に会わせた者を見つけ、復讐しようと 思う。相手はいつも男を監視しているらしく、姿を見せないまま自分の存在を男に知らせ続ける。
 映画の中ごろに犯人が姿を現わすシーンが鮮やかだ。怪我をしたオ・デスを通りがかりの男が抱えて、タクシーに乗せてくれる。車が 走り出す瞬間に、男は「あばよ、オ・デス」というのだ。
 爽やかな笑顔の好青年、それが犯人だった・・・。

 犯人が登場したことで、観客は「これで監禁の理由が明かされるのか」と期待するのだが、この映画のしたたかさはそれを見事に 裏切る。犯人のウジンはオ・デスに「お前は質問を間違っている。なぜ “監禁” したのか、ではなく、なぜ “解放” したのか、と 問わなければならない」というのだ。ここで、オ・デスならずともぎょっとさせられる。
 「そうだ・・・。なぜ15年も経って、突然解放したんだ」。これから何が待っているのだ、ウジンはこれ以上何を企んでいるんだ ろう、とぞっとした気分に襲われる。

 オ・デス役のチェ・ミンシクは、『シュリ』で北朝鮮から韓国への潜入部隊のリーダーを演じていて、やつれた色気が素敵だった。
 本作では、泥酔して警察に保護され、大暴れしている時のユーモラスな演技から、監禁解放後の暗い翳を帯びた男への変貌がなかなか 見事。
 しかし、なんといっても白眉はウジンに扮したユ・ジテだ。
 『春の日は過ぎゆく』で、年上の女性に失恋にする繊細で寡黙な青年を演じていたのが嘘のように、酷薄な悪役をすごい存在感で 演じている。
 映画の半ばまで登場しないのに、主役チェ・ミンシクを食ってしまうほど、その印象は強い。
 そして新人女優カン・ヘジョン。小柄でキュートな女優だが、母性的ともいえるオ・デスへの愛情を一途に演じて、鮮烈な光彩を 放っている。
 主役3人を見るだけでも、韓国映画の俳優の層の厚さに感じいってしまう。

 オ・デスは、少々不良っぽく軽薄だった少年時代、知らぬうちに人を死に追いやるほどに深く傷つけていた。その過去が記憶の ベールをはぐように明らかにされていく。
 母校にもどったオ・デスが、下級生の少年を追う過去の自分を、さらにその後ろから追っていく。セピア色の画面を鉄階段が斜めに 走り、少年の姿が現われては消える。階段を上る音だけが響く。過去の記憶にオ・デスと一緒に迷い込んだような、不思議な感覚に 囚われる。

 オ・デスの「罪」が明らかになり、普通ならここで物語は終わるところだが、この映画には二重三重に底がある。“監禁” が1年とか 2年ではなく、なぜ15年だったのか。この歳月に怖ろしい意味があったのだ。
 そこに隠された真実を知った時、オ・デスは、復讐を誓ったはずの自分がいつの間にか立場が逆転し、復讐される身だったことを 思い知る。
 オ・デスが「ミドに真相を明かさないでくれ」とウジンに懇願するシーンは凄まじい。「どんなことでもする」「犬になって尻尾も 振る」と這い回り、ワンワン吠え、お尻を振る。そんなオ・デスを見て、ハンカチを口に当て「クックッ」と笑いをこらえるウジン。 滑稽でありながら、身震いが出るほど怖い場面だ。

 人間は知らずに犯した「罪」をどこまで償わなければいけないのか。そういう「罪」を犯さない人間は果たして存在するのか・・・。 そんなことを考えると、初めに哲学的ではないといったけれど、意外に重いテーマを持った映画だとも思う。
 アクが強いのでだれにでも勧められる映画ではないが、私にはたしかな手応えの「超ド級」の面白さだった。
  【◎△×】8

▲「上に戻る」