| 【 じっくり映画館 】No.20 |
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ストーリー 古き良き時代の映画館を舞台に、老映写技師と少年の心の交流を描いたヒューマン・ドラマ。 シチリア島に住むいたずらっ子の “トト”(サルヴァトーレ・カシオ)は毎日のように映画館パラダイス座に通う映画好きで、 映写技師アルフレード(フィリップ・ノワレ)を慕っていた。 ある日、フィルムへの引火が原因で映画館が火事になり、アルフレードが失明してしまう。彼に代わって改装されたパラダイス座 の映写室を任されることになった “トト” だが、アルフレードは島を出ることを熱心に勧めるのだった。 それから30年、映画監督として成功した “トト” サルヴァトーレ(ジャック・ペラン)はある夜、故郷からアルフレードが 死んだという知らせを受ける。葬儀のために故郷へもどった彼が思い出すのは、アルフレードと初恋の人エレナ(アニェーゼ・ナーノ) のことだった。 本作は91年に公開された完全版で、通常版(89年)でばっさりとカットされた故郷へ戻ってからのエレナとの再会シーンなど、 51分約60カットが加えられている。有名なラスト・シーンの意味合いが大きく変わっており、どちらがより良いか意見の分かれる ところでもある。 通常版はアカデミー外国語映画賞、カンヌ国際映画祭審査員特別賞などを受賞。 完全版については賛否両論あるらしい。しかし、通常版を見てさらに “トト” の内面に踏み込みたい人、あるいは、人生の折り返し点を 過ぎた中高年者にはこの「完全版」が向いているような気がする。 私は通常版で、アルフレードの “トト” に対する父性愛にも似た思いや、2人の映画に対する愛にとても感動したのだが、青年に なった “トト”(マルコ・レオナルディ)の初恋はどうも印象が薄く、ばっさりカットして、壮年になった “トト” サルヴァトーレが アルフレードの死を知って故郷に帰るラストに直接つないでもいいんじゃないか、と思ったりしていた。 私にとって『ニュー・シネマ・パラダイス』は、映画全盛の頃へのノスタルジーと、アルフレードと “トト” の絆を描いた映画と いっても過言ではなかった。しかし完全版を見て、それだけではないと思うようになった。
完全版では、むしろサルヴァトーレの初恋が重要な意味を持ってくる。故郷に帰りエレナ(ブリジット・フォッセー)に再会した
サルヴァトーレは、2人の恋を壊したのがほかならぬアルフレードだったことを知るのだ。ここで、アルフレードが「シチリアに留まってはいけない」「帰ってくるな。私たちを忘れろ。郷愁に惑わされるな」と言って、 サルヴァトーレを送り出した意味が俄然重みを持ってくる。それはアルフレード自身の人生がそこに姿を現わすからだ。 アルフレードは映画を愛していたけれど、映写技師としての一生には悔いを抱いていたのではないか、という気がする。映写技師は、 映画を上映して人々に喜びを与えるけれど、所詮受身の仕事、彼自身が何かを作り出すことはない。アルフレードは本当は自らもなに ものかを生み出す、創作する人生を送りたかったのではないだろうか。 おそらく彼は何度も人生の転換を図ったことだろう。しかし、シチリア島という独特の風土が彼をさまざまなしがらみに縛りつけて、 夢を果たすことが出来なかった。彼は自分が生きられなかった人生を “トト” に託したのだと思う。 島を出たサルヴァトーレはアルフレードの願い通り映画監督として成功した。しかしそれは、初恋の喪失という大きな代償を伴って いたのだ。もしアルフレードが自分の夢を “トト” に託すのをあきらめ、サルヴァトーレはエレナとの初恋を実らせたなら、彼は島を出ることはなく、まったく別
の人生を歩んでいたことだろう。それはそれでよい。人生の形は1つではない。しかしその時、サルヴァトーレは平凡な幸せと同時に、何とも知れぬ空しさも感じ 続けたのではなかろうか、ちょうどアルフレードがそうだったように。 何かを得ることは、何かを失うことでもある。あるいは、失うことによって得られるものがある。人生の苦さはそこにある。サルヴァトーレはエレナとの再会で、そのことを改めてかみ締めたのではないかと思う。 ローマでサルヴァトーレは成功を手に入れたけれど、決して幸せには見えない。 母は「ローマに電話した時、電話口に出る女性が いつも違う」「お前を心から愛する声をまだ聞いていない」と言う。それは逆にいえば、サルヴァトーレがそれらの女性を心から愛していないことの表われだ。 彼の心は、島を出た時の失恋の痛みがずっと尾を引いていたのではないかと思う。 エレナとの再会で彼は失恋の真相を知った。しかし、エレナと彼の人生が交わることは最早ない。「人生はお前が見た映画とは違う。 人生はもっと困難なものだ」というアルフレードの言葉が、きっとサルヴァトーレの胸にこだましたことだろう。すべてを知った今、 やっと彼自身の映画人生が始まるという気がする。 カットされたキスシーンばかりをつないだあまりに有名なラストシーンの意味は、私にとって完全版でより深くなった気がする。 フィルムを見るジャック・ペランの表情が感動的だ。映画への愛、アルフレードとの絆、エレナとの決別。心底から湧き上がる思いに 身を委ね、フィルムを見つめる彼の表情に、柄にもなくつい涙がこぼれ落ちそうになる。 【◎○△×】9 |