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【 じっくり映画館 】No.19

誰も知らない


2004年  日本  141分
監督 是枝 裕和
出演
柳楽(やぎら) 優弥、北浦 愛(あゆ)、木村 飛影(ひえい)、 清水 萌々子(ももこ)
YOU、韓 英恵(かん はなえ)、平泉 成、加瀬 亮、タテ タカコ

  ストーリー
 1988年に東京・西巣鴨で実際に起きた子供置き去り事件をモチーフに映画化したヒューマン・ドラマ。カンヌ国際映画祭で、長男 役の柳楽優弥がカンヌ史上最年少で主演男優賞を受賞し、大きな話題となった。
 秋。母けい子(YOU)に連れられて、12歳の明(柳楽 優弥)が越してくる。しかし、妹・京子(北浦 愛)があとからこっそり 合流し、アパートに運び込まれたトランクからは弟・茂(木村 飛影)と末妹・ゆき(清水 萌々子)が出てくる。4人はみな父親が違い、 出生届けをしていないので、学校に通ったこともなかった。
 けい子が仕事に出かけている間、明が家事をし、弟妹たちの面倒を見ていた。ある日、けい子は明に「好きな人ができたの」と打ち 明ける。「また?」と取り合わない明だが、けい子は現金20万円と「みんなをしばらく頼むね」というメモを残して姿を消してしまう。 やがてお金は底をつき始め、けい子が帰ると約束したクリスマスが近づく・・・。

  ふた口感想
 見終わって日がたつほどにじわじわと感動が深くなる。母子家庭で小さい子供がいると家主が嫌がる。それでこの親子はこれまで 住まいを転々としなければならなかった。だから、新しいアパートに越してきた時、母親のけい子は子供たちに、長男の明を除いては、外に 出ることも大きな声で騒ぐことも禁じる。体のいい軟禁状態だが子供たちは屈託がない。けい子はいい加減で無責任な母親だけれど、 楽天的で陽気で、子供たちはこの母が好きなのだと思う。そうい明るさがこの親子にはある。
 でも母親のいい加減さを知っている明は、12歳の少年ながら弟妹たちを守るのは自分だと必死に思っているふしがある。母親がいる 頃から買出しや家事をし、母親代わりに弟妹たちの面倒を見る。けい子が蒸発し、置いていったお金がなくなると、弟妹たちの実父 を訪ねて金策をする、親しくなったコンビニ店員から売れ残りのおにぎりを分けてもらう、水道・電気が止められると近くの公園で 洗濯や洗髪をする。こうして黙々と細い肩に“家族”を担う責任を負う。

 いくつかの忘れられないシーン・・・。
 公園の水道から水汲みをしなければならなくなった時に、ついに子供たちは母の命令を破ってアパートの外に出る。そして公園の遊具 で遊びほうけ、原っぱで野草の種を摘み、カップ麺の器に土を入れてその種を埋める。“一家4人”の幸せが画面の隅々まで溢れる。

 しかし、末妹ゆきの誕生日のシーンは悲しい。それ以前に、明は母から送られてきた現金書留の住所をたぐって電話番号を知り、電話 をかけている。その時けい子は「山本です」と違う名を名乗る。明は黙って受話器を下ろす。明はこの時、母がもう帰って来ないことを 悟ったのだと思う。しかし幼いゆきは、誕生日に母が帰らないはずはないと思っている。だから、明はゆきの手を引いて帰らない母を 迎えに駅に行き、また戻って来るしかない。夜の道路に長い影を曳いた2人の姿が哀れだ。


 学校に行ったことのない明が始終学校に行って、校庭で遊ぶ子供たちを見る姿も胸を打つ。勉強がしたい。友達がほしい。明は、 初めて入ったゲームセンターで出来た友達に部屋に入り込まれて、弟妹たちの居場所を奪われても、大切な金を使わされても、何も 言えない。野球のメンバーが欠け穴埋めに誘われると、つい夢中になって時を忘れる。明を「小さな大人」にせず、少年としての願いも きちんと描いていることが、この映画を厚みのあるものにしている。

 しかし、野球に熱中している間にゆきが椅子から落ちて死んでしまう。必死に守ってきた家族が、少年らしい遊びにほんの少し心を 奪われた隙に、妹の死という結果を生んでしまった。その哀れさに涙がこぼれそうになる。彼は「飛行機を見に空港に行こう」というゆき との約束を守って、飛行場近くの原っぱに彼女の遺体を埋葬する。
 5歳のゆきはおそらくほとんど外の世界を知らないままに生涯を終えたのではなかろうか。彼女にとって飛行機は見知らぬ世界への 窓だったのだと思う。明はその飛行機の見える場所をゆきの永遠の眠りの場所にしてやるのだ。


 この映画は、不登校児の女子中学生・紗希(韓 英恵)を加えて再び4人になった子供たちが、これまでと同じ生活に戻っていくところ で終る。彼らがどんな思いを抱いて暮しているのか、大人たちは誰も知らない。子供たちは語ろうとせず、大人は知ろうとしない。
 大人の無責任さはひとり母・けい子だけのものではない。子供を打ち捨てて省みない父親たちもその謗(そし)りを担わなければならない。しかし、 映画はそれを声高に糾弾しようとはしない。その静かさがかえって胸に深く食い入ってくる。

 自然体の中で明の心の明暗をくっきりと演じきった長男役の柳楽 優弥、内面に複雑な思いを感じさせる長女役の北浦 愛、 おひゃらけたお調子者の次男役の木村 飛影、あどけない笑顔が次第にやつれた表情に変化する末妹役の清水 萌々子、みな見事な演技だ。 それを引き出した是枝監督の演出手腕も素晴らしい。そして、難しい母親役をさらりと演じたYOUの存在も際立っていた。
  【◎△×】8

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