| 【 じっくり映画館 】No.18 |
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ストーリー 1971年8月、仁川からソウルに向うバスが24名の兵士にハイジャックされた。彼らは大統領府がある青瓦台に向うが、待ち 構える軍と警察の合同軍により鎮圧される。 これは “シルミド(実尾島)事件” と呼ばれ日本でも報道されたが、初めは北朝鮮の武装ゲリラによる事件とされ、すぐに空軍 部隊の特殊犯の暴動事件と訂正されるなど、真相が不明なまま、その後30年以上も封印されてきた。 本作は、長く韓国政府により封じ込められてきたこの事件を大胆な推測を交えて描いたサスペンス・アクション。 1968年1月、北朝鮮特殊部隊による青瓦台(韓国大統領府)襲撃事件が起こる。 韓国政府はその報復として、ひそかに仁川沖のシルミド(実尾島)に受刑者を中心にした31人の男たちを集め、金日成暗殺の特殊 部隊を編成した。彼らは “684部隊” と名づけられ、空軍空挺隊長チェ・ジョヒョン(アン・ソンギ)の指揮下、死者が出るほどの 厳しい訓練を受ける。 3年後、いざ決行という夜、北へ向う彼らに作戦中止の命令が下る。南北融和の気運が高まり、政府が外交路線を変更したためだった。 部隊の存在が知られることを恐れた政府は、ついに部隊の抹殺を命令する。 それを知った訓練兵は指導兵との銃撃戦のすえ島を脱出、本土に上陸してバスを乗っ取り青瓦台へ向かうのだった。 【青瓦台襲撃事件(1.21事態)】 1968年1月21日、北朝鮮特殊部隊31名が青瓦台(韓国大統領府)付近にまで侵入し、韓国警察隊と銃撃戦を展開したという 軍事停戦以来最大の武装ゲリラ事件。 27名が射殺され、3名が逃亡、逮捕された1名が「パク・チョンヒ(朴正熙大統領)の首を取り に来た」と侵入の目的を語った。38度線を越えられただけでなく、青瓦台付近にまで迫られたことや、侵入の目的に衝撃を受けた韓国 政府が、報復措置のため人数までまったく同じ31名の684部隊を創設するきっかけとなった。(概要、パンフより) 『八月のクリスマス』や『友へ チング』『スプリング・イン・ホームタウン』『太白(テベク)山脈』など、 韓国映画の良さや面白さを少しずつ知り始めていた頃、その認識を決定的にしたのが日本でも大ヒットした『シュリ』だった。 とくに冒頭の北朝鮮のテロリスト養成風景には驚かされた。「訓練」というにはあまりに凄絶な迫真力。今も実際にこんな軍事訓練が 行われているんだろうか、まさか、これは映画だから、といろんな思いが交錯したものだった。 本作で、映画としてのフィクションではない、韓国と北朝鮮は今も戦時下と同様の緊張状態が続いているのだと思い知らされ、ショックを 受けた。(もっとも現在は68年当時のほどのことはないのだろうが・・・。)エンターテインメントとしての映画、という視点から 見ると、構成などに多少粗さがないではないが、「事実」の重みで押し切るだけの迫力に満ちている。 パンフによると、北朝鮮から潜入した大統領暗殺の特殊部隊がたまたま31名だったため、報復として計画された金日成暗殺の特殊 部隊も31名になったのだそうだ。映画スタッフの「なんで31人も侵入して来たんだ。10人かそこらならもっと楽だったのに」と いう冗談めいたグチを紹介しているが、「事実」というのは案外そうしたものかもしれない。 オープニングの北朝鮮特殊部隊が韓国に潜入するシーン(縦隊となって林間を音もなく抜けてゆくシーンは非常に魅力的)から、 主役の1人サンピル(チョン・ジェヨン)が敵対組織のヤクザのボスを鉄砲玉となって殺しに行くまでの流れはなかなか快調だが、 反面テンポがよすぎてなにが起こっているのかよく分からない、という難点もある。(一面、日本映画はこのテンポの良さを見習って ほしいとも思うのだが・・・。) しかし、684部隊が編成され、シルミドで訓練が始まってからはグイグイと迫ってくる緊迫感に文句なしに引き込まれる。今、 「訓練」と書いたが、「実戦」というほうが当たっている。じっさい7名もの死者が出るのだが、それもいとわぬほどの苛烈さなのだ。 敵対国にスパイとしてテロリストとして潜入することの凄まじさが、ひしひしと伝わってくる。 兵士同士の反目や友情、コメディリリーフ的役割の兵士、人間味をかいま見せる鬼教官など、軍隊映画のパターン通りの展開を 見せながら、それがストーリーに緩急自在の変化をもたらしてもいる。
決行の夜、荒海に3つのゴムボートに分乗して漕ぎ出す兵士たち。緊張の糸が張りめぐらされた構図と色調が一幅の絵を見るように美しい。彼らの前に巡視艇とおぼしき船が現われる。兵士たちの間に走る緊張。なんとそこには彼らの上官が乗っていて島に帰るよう命令する。 このシーンのアンチ・クライマックスは強烈だ。すべてはこの日のためと耐えに耐え、噴出の機会を待っていた彼らの心身の マグマは行き場を失ってしまう。「1日早く決行していたら・・・」と、見ている私まで気持ちの処理に困ってしまったほどだ。 その後の島全体を覆う弛緩した空気が印象的だ。あの苛酷な訓練はいったい何だったのか・・・、目的をなくし緊張を失った兵士たちの無気力 ・虚しさ・脱力感・・・。人間って目的とか希望があるからこそ苦しさにも耐えられるんだなぁ、と中学生みたいな感想すら胸に湧いて くる。 反乱を起こし大統領官邸に向った彼らの気持ちは、よく分かる気がする。絶望・怒りだけではない。「なぜなんだ!」それを 彼らは知りたかったに違いない。なぜ自分たちは抹殺されなければならないのか、それを大統領から直接聞きたかったのでは なかろうか。 監督のインタビューによると、訓練兵抹殺指令が現実に出ていたのかどうかははっきりしないらしい。「抹殺するか、釈放するか、 ベトナムに派兵するか」を話し合っているうちに、彼らが行動を起こしたという説もあり、資料がないために真相は分からないのだ そうだ。 本作は映画としての推測やフィクションを交えているというが、彼らが宥和政策という国策の犠牲となった重い事実は 残る。特殊部隊に関する書類が入れられたキャビネットが徐々に古び錆びついていくラストシーンは、この事件が闇のなかに封印され、 忘れ去られていく様子を示し、辛辣な後味を残す。 俳優たちはどの1人を取っても、他に代えようがないほどピタリとはまっている。彼らの汗と泥にまみれた迫真の演技に圧倒された。 とくに私はチェ・ジェヒョン隊長を演じたアン・ソンギが印象に残った。北朝鮮への潜入20数回。その厳しさを熟知するからこそ 生まれる訓練の激しさや、時折かいま見せる人間味、部隊員抹殺の命令に苦悩したすえ、兵士への責任から自ら死を選ぶ潔さなど、彼の 演技はチェ・ジェヒョン隊長の人間像に生まの息吹を与えた。 彼の映画を見るのはこれが5本目だが、前作『MUSA』辺りから 意識するようになった。韓国の国民的俳優だそうだが、たしかにそれだけの存在感を持った俳優だと思う。
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