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【 じっくり映画館 】No.5

太陽の誘(いざな)


1998年  スウェーデン  118分
監督 ナトリー・コナン

出演
ロルフ・ラスゴード
ヘレーナ・ベリストレム
ユーハン・ヴィーデルベリ
リンダ・ウルヴェウス

  ストーリー
 イギリスの小説家H・E・ベイツの短編小説「小さな農場」を、50年代スウェーデンの物語に翻案したラブ・ストーリー。 母の死後一人暮らしを続けてきたオロフ(ロルフ・ラスゴード)は40歳の農夫。引っ込み思案のオロフのたった一人の友といえば、 アメリカ帰りが自慢の色男のエリック(ユーハン・ヴィーデルベリ)だけだ。読み書きの出来ないオロフに代わって農場の収穫を町で 売り捌いてやっている。
 ある日、オロフは新聞に家政婦募集の広告を出す。数日後、彼を訪れたのは都会的に洗練されたエレン(ヘレーナ・ベリストレム) という女性だった。エリックは、彼女のような美しい女性がこんなところで働くはずはない、何かが隠されている、と猛反対するが、 オロフは気にしない。二人の静かな農場生活が始まる。オロフはエレンに惹かれ、エレンも朴訥なオロフに心を寄せるようになるのだ が・・・。美しく短い北欧の夏を背景に、切ない大人のラブストーリーが綴られる。

  ふた口感想
 久々のスウェーデン映画だ。セピア色の陽光が降り注ぐ沼で馬が水を飲む、ひらめく光のなかで草原が風にそよぎ犬が走る、木洩れ日 の道を農夫が馬を曳いていく・・・短い北欧の白夜の夏をいとおしむように、陽の光が画面から溢れでて輝く。“太陽の誘 (いざな)い”というタイトルが美しい。さまざまに表情を変える短い夏の陽光を表わしているようで、魅力的だ。

 オロフは40才の独身の農夫だ。母の死後もそれまでと変わりなく牛の乳を搾り、鶏に卵を産ませ、坦々とした日々を送ってきた。 しかし彼の心には「女性と出会いたい」という素朴でささやかな願いが生じていた。
 オロフ役のロルフ・ラスゴードは45才だという。だいたい実年齢に近い役を演じてることになるが、日本人の眼には10才 くらい老けてみえる。初めは少し違和感があるが、スウェーデンを代表する俳優の1人というロルフ・ラスゴードは、大柄な体躯で オロフのナイーブな優しさをじつに繊細に表現し、物語が進むうちこれらの違和感もいつか氷解しているのに気づく。
 オロフは読み書きができない。これはオロフの存在を象徴的に示しているようだ。オロフは自然のなかで、自然と一体となって 暮らしている。映画の初めと終わりに、<初めにあるものは後にもあり、後にあるものは初めにもあった。日のもとに新しきはなし> というナレーションが流れる。太古から未来にわたって変わることなく繰り返される男と女の愛の物語。読み書きのできないオロフの 存在は、文明の虚飾に惑わされないもっとも素朴な愛の形を表わしているのだと思われてくる。


 オロフは新聞に家政婦募集の広告を出し、都会から美しい33才の女性エレンがやってくる。スウェーデンといえばグレタ・ガルボ、 イングリッド・バーグマンといった透明感のある美人女優が思い浮かぶ。エレンを演ずるヘレナ・ベリストレムも美しい。美しすぎる ほどだが、中央が微かに開いた唇がセクシーな愛らしさと人柄の暖かさを醸し出している。凛とした強さと、匂いたつ情感がミックス され、久しぶりに大人の女性を見る思いだ。
 単調だが安らぎに満ちたオロフとエレンの日々が始まる。オロフは会ったその時からエレンに恋し、エレンも純真で無垢なオロフを 次第に愛するようになる。しかしふたりは簡単には結ばれない。読み書きできないことや女性経験のなさがオロフの負い目になって いる。こんなに美しいエレンが都会からやって来たことにも、なにか訳がありそうだ。

 アメリカ帰りが自慢の27才の青年エリックはオロフのただ1人の友人だ。彼は毎日のようにオロフの農園を訪れ、町での 買い物や卵の売りさばきをしてやっている。しかし実はエリックはオロフの信頼をいいことに、かれの金をさまざまな形でごまかして いる。彼は愚直とすらいえるオロフの素朴さを内心侮っているのだ。だが、足繁く農園にやってくる彼の姿には、オロフに安らぎを 感じ、彼なりにオロフを愛していることが窺える。
 そんなエリックにとってエレンの出現は、オロフと彼との居心地のよい関係を壊すものに思われる。エレンの美しさに惹かれ つつ敵意を示すエリック。オロフの傍らから彼女を排除しようと、彼女の秘密を探ろうとする。そこには金のごまかしの問題だけで なく、自分がオロフにとって唯一の存在でなくなることへの、エリックの不安があるように 思えてならない。

 エリック役のユハン・ヴィーデリベリは油断ならない小動物のような青年だ。微笑の奥に眼には硬質なきらめきを蔵し、軽侮や 敵意と愛情が綯い交ぜになった複雑な心理を、巧みに表わしている。彼のキャラクターが物語に緊迫感を与え、映画をギュッと引き 締めたものにしている。エリックとエレンの葛藤に満ちた場面が現われるたびに、いつかエレンの秘密が明らかになり、オロフは 大きな傷手を受けるのではないかと、胸が痛くなる。


 晩夏、牧草の取り入れが忙しくなる頃エレンは1通の手紙を残し姿を消す。オロフはエリックに読んでくれるように頼む。 エリックは迷いながらも自分に都合のよい偽りの内容を読み聞かせる。
 秋色に包まれたなだらかな丘を馬を曳いて俯き歩くオロフ。緑深かった森もすでに夏のきらめきを失い、冬の気配は駆け足で 近づいてくる。愛犬がオロフの前を走る。長く厳しい季節をオロフはどのようにひとりで耐えるのだろう・・・。
 一台の車がオロフを追いこして停まり、エレンが下り立つ。町で夫との関係を整理しもどって来たのだ。オロフは肌身離さず 持っていたエレンの手紙を差し出し、なんと書いたのか読んでほしいという。彼が読み書きできないことを初めて知ってエレンは 驚き、そして自分の書いた手紙をオロフのために読む、「永遠にあなたを愛します」と。
 大きな体をかがめて包むようにエレンを抱き締めるオロフ。孤独なオロフの心に明かりが灯り、エレンの心をも暖める。 もうすぐ訪れる長い冬も、もうオロフには堪え難いものではなくなったのだ。ふたりの静かな幸せが伝わってくるラストシーンだ。
  【◎△×】8

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