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【 じっくり映画館 】No.11

ワンダー・ボーイズ


2000年  アメリカ  111分
監督 カーティス・ハンソン

出演
マイケル・ダグラス、トビー・マグワイア
フランシス・マクドーマンド
ロバート・ダウニーJr.
ケイテイ・ホルムズ、リップ・トーン

  ストーリー
ペンシルバニアの田舎町で、大学の教鞭をとるグラディ(マイケル・ダグラス)は、かつて文壇の寵児と謳われた作家だが、 7年前から書き始めた長編は未完のままスランプに陥っている。おまけに妻に家出され、不倫相手のサラ(フランシス・マクドーマンド)からは 妊娠を告げられる。
 そんな中、大学で作家たちの集い “ワード・フェスト” が開かれ、それに合わせて、担当編集者テリー(ロバート・ダウニーJr.) も原稿を催促しにやって来た。気の重いグラディは、パーティで教え子のジェームズ(トビー・マグァイア)が起こしたトラブルに巻き込まれ、ますます 落ち込んでしまう。

  ふた口感想
 グラディ・トリップ、大学の創作科教授兼作家。7年前に大ベストセラーを引っさげて文壇に登場した “ワンダーボーイ” だ。 ワンダーボーイとは若くして成功を収めた人のことだという。しかしその成功を維持し続けるのは至難の技だ。
 ご多聞にもれずグラディもその後、一作も発表していない。書けないのではない。短編のつもりで書き始めた小説が書けば書くほど 結末が遠のき、もう2611ページにもなるのにいまだ終わるきっかけが掴めないのだ。この映画は大学祭 “ワード・フェスト” の 3日間、グラディを襲った珍妙な災難の物語だ。

 その日グラディは妻に家出され、不倫相手のサラ(なんとグラディの勤める大学の女学長だ)からは妊娠を告げられ、しかも ニューヨークから7年前グラディ売り出しに一役買った編集者テリー・クラブツリーが “ワード・フェスト” のためにやって来る。
 テリーもその後ヒット作を手がけることが出来ず、出版社での地位が危うい。かつて栄光を分かち合ったグラディの新作に編集者 生命を賭けていて、進行状況を確かめるつもりなのだ。
 ホモっ気のあるテリーをグラディが飛行場に迎えにいくシーンがおかしい。やたらに背の高い女装の男と腕を組み、テリーは嬉々と して現れる。女装の長身男を見上げては、彼に見下ろされる自分に困惑するグラディ。名のある作家、編集者の集まる “ワード・ フェスト” を前にして、自信喪失に陥っている彼の状況を巧まずして表わし、微苦笑を誘われる。

 眼のぐりぐりと大きいテリー役のロバート・ダウニーJ r .もなかなかの味だが、グラディ役のマイケル・ダグラスがいい。『危険な 情事』(87)、『氷の微笑』(92)、最近では『ゲーム』(97)と、シビアで暗いイメージの役柄の多い彼がこれほどのコメディセンス を持っているとは意外だった。
 しかしよく考えると、『ローズ家の戦争』(98)のダグラスは相当おかしかった。そのコミカルさが生かされ、この映画でも髪は ぼさぼさ、髭も剃っているのかいないのか、あのシャープな二枚目が見栄も外聞もない風体で画面をうろうろする。肩の力の抜けた 名演だ。
 脂っ気の抜けたくたびれた中年男の姿に思わず笑いが込み上げるが、同時にしみじみ共感してしまう。

 こんなグラディだが、彼に熱をあげる女子学生がいる。しかし彼は若くチャーミングな教え子には眼もくれず、ひたすらサラを 追いかける。お世辞にも美人といえず、しかも中年のサラを。頭脳優秀、情熱的な瞳を持つ若い女性の誘惑にいっこう反応しない辺り、 従来の映画の定型を破ったおかしさがある。
 ピッツバーグの冬、雪のちらちら舞う玄関先に女物とおぼしい薄汚れたガウンを羽織り、黒い毛糸のとんがり帽子をかぶって、 寒そうに肩をすくめて立つグラディ。その姿には、人生の方向を見失って途方に暮れる中年世代の心許なさが表われているようで、身に つまされる思いになる。


 ジェームズ・リアはグラディの教え子だ。グラディに憧れてこの大学に入った、と語るが、彼の身の上話は嘘ばかり。 おまけに根暗な変わり者で次々とグラディに厄介ごとを持ち込む。
 サラの夫(学部長でグラディの上司)の飼い犬で、グラディにいつも激しく吠えかかるポーを撃ち殺してしまったり、寝室の クローゼットからサラの夫のお宝、マリリン・モンローが新婚の時着たジャケットを盗み出してしまったり。
 おかげでグラディは車にポーの死体とジャケットを積んだまま、警察とサラ夫妻の追求に右往左往する羽目になる。しかし手こずりながらもグラディは、どうやらジェームズとの間に父と息子のような奇妙な絆を感じているらしい。

 ジェームズの変人ぶりは開花寸前の秘めた才能を十分に予感させる。テリーは彼の原稿を読み、ワンダーボーイ出現に確信を持つ。 しかもなかなかのルックスだ。放っておく手はない。彼の色目にジェームズもまんざらでもない気配。
 ロバート・ダウニーJ r.は出番はそう多くないが、出ずっぱりに出ているような気がするほど印象が強い。ジェームス役のトビー・ マグワイアは『サイダーハウス・ルール』(99)からさらに成長をみせ、感情を内に秘めた天才変人を巧演している。
 グラディを中心に、 この3人の男性の組合わせがじつに面白い。監督のカーティス・ハンソンは『L.A.コンフィデンシャル』でもそうだったが、3人の 男性群像を描くのがうまい監督だなとつくづく思う。

 クライマックスは思いがけない展開でやってくる。テリーの不注意から何箱ものグラディの原稿が波止場で風に飛ばされ、雲散霧消 してしまったのだ。しかしなにが幸いするか分らない。これでグラディは過去の栄光を吹っ切ることができたのだから。
 『L.A.コンフィデンシャル』(97)で、世俗の垢にまみれた3人の警官に清々しい再出発を用意し たように、映画のラストで3人に注ぐカーティス・ハンソン監督の眼差しは暖かい。
 ジェームスはテリーの計らいで文壇にデビューすることになり、“ワード・フェスト” で披露される。テリーも編集者としての地位を 再び揺るぎないものにできそうだ。
 グラディはサラと再婚し、新たな気持ちで創作に向かっている。映画の最後では、マイケル・ ダグラスが髪を梳かし、髭をあたり、さすがのハンサムぶりを取り戻しているのが嬉しい。

 グラディがタイプの手を止め、ふと窓外に眼を遣ると、そこには赤児を抱いて車から降り立つサラの姿が見える。春の光が穏やかに 降り注ぐ。グラディの満たされた心を示すような優しい光景だ。
 “中年の危機” という言葉がある。分別盛りとみえる中年がじつは人生の節目に立って目標を見失い、途方に暮れていたりする。 私たちの大部分はグラディのようなワンダーボーイではないが、過去の小さな出来事にわれ知らず囚われ、身動きできずにいたりする。
 この映画はそんな中年に、成長するのは若い人ばかりではない。大人も成長する。過去の囚われから抜け出し、新しい一歩を踏み出す ことができるのだと、語りかける。格別目新しいところはないけれど、人間くさい励ましと共感が伝わってくる物語だ。
  【◎△×】7

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