| 【 じっくり映画館 】No.10 |
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1999年 アメリカ 119分 監督 キンバリー・ピアース 出演 ヒラリー・スワンク、クロエ・セヴィニー ピーター・サースガード ブレンダン・セクストン三世 アリソン・フォーランド |
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ストーリー 1993年、ネブラスカ州。フォールズ・シティにブランドン(ヒラリー・スワンク)という名の20歳の青年がやって来る。彼は ジョン(ピーター・サースガード)やトムら地元の若者たちと知り合い、仲間として受け入れられる。バーで知り合ったラナ(クロエ・ セヴィニー)と恋に落ちたブランドンだったが、過去に犯した窃盗で裁判所から出ていた召喚命令に応じなかったために逮捕拘留され、 女性であることが判明してしまう。面会に現れたラナに、ブランドンは自分が性同一障害者であることを初めて打ち明ける。ラナはその 事実を受け入れるが、その先にブランドンの悲劇が待っていた。 実際に起こった事件をもとに映画化す、ヒラリー・スワンクが性同一性障害の主人公を演じてアカデミー主演女優賞を受賞した。 1993年ネブラスカ州フォールズ・シティで実際に起きた殺人事件の映画化である。被害者の1人ブランドン・ティーナが性同一性 障害であることが分るにつれて、事件の背景に根深い問題が潜むことが明らかになり、人々に衝撃を与えた。ブランドンを演じた ヒラリー・スワンクがアカデミー賞主演女優賞を受賞し、一躍脚光を浴びたこともあり、ぜひ見たいと思っていた。 ブランドンは小柄で涼しい眼をもつ21才の青年である。バーで知り合った若い女キャンディスと一緒にふらりとフォールズ・シティ にやって来て、そのまま彼女の家に居付く。キャンディスの仲間のラナ、ジョン、トムらとも知り合い、一緒に遊び回る仲になる。 片田舎の小さな町に閉じ込められたような日々に、若者たちは窒息しそうな苛立ちを抱えていた。キャンディスとジョンはそれぞれに 未婚のまま幼児を育てている。ジョンとトムは刑務所仲間、ラナは酒飲みの母との二人暮らしだ。家庭が崩壊し、荒れた心を抱えて、 群れて、爆発寸前になっている若者たちの姿は、そのまま今の日本にオーバーラップする。 ブランドンはラナに一目惚れをし、そして2人は恋人になる。 ヒラリー・スワンクの角張った顎、引き締まったスリムな身体は、彼女が女性であることを知っていても、男性そのものにしか見え ない。胸にサラシを巻き付け、ジーンズの股間に布を押し込んで膨らみを作り、鏡の前でポーズを作る。そんな姿のほうが見ていて 違和感があるほどだ。しかしブランドンとセックスをしたラナはどうなのだろう。けっして裸にならないブランドンに、なにか不自然さ は感じなかったのだろうか。それとも男性と信じたいから、そう信じたのだろうか。 自動車窃盗、スピード違反などで裁判所から召喚状がきたことがきっかけで、ブランドンは本当は女性なのではないかという疑念が 仲間の間に芽生える。彼の柔らかな低い声、優しい物腰は、ジョンやトムのようなマッチョな男たちにない魅力を醸し出していたからだ。 典型的な“男らしさ”から少し外れたところにいたブランドン。ラナやキャンディスが惹かれたのは、彼のその優しさだったのではない かという気がする。 ブランドンはラナにだけ真実を打ち明け、ラナは彼を受け入れる。秘密を共有したことで2人の愛はさらに強いものになった。単なる あばずれにしか見えなかったラナが、この頃から表情に凛とした輝きを見せてくる。彼女はブランドンを本当に愛しているのだと強く 感じる。 以前からずっとラナに惚れていたジョンは、ブランドンは男性だという彼女の言葉を信じない。トムと2人でブランドンを浴室に 引きずり込み、ジーンズをむしり取り、下半身を剥き出しにする。そしてラナに顔を押し付けるようにして見せつける。 この残酷な荒々しさ・・・。2人の中に荒れ狂う憎しみの激しさに恐れが湧いてくる。 さらに2人はブランドンを車で町外れの倉庫の前に連れてゆき、交互に繰り返し犯す。勝ち誇ったようにぴょんぴょん跳び撥ねる2人。 レイプすることで、ブランドンに女であることを思い知らせたつもりなのだろうか。殴られ腫れた顔で涙を流すブランドン。その無惨で 痛ましい姿に言葉を失ってしまう。 性同一性障害は最近日本でも注目され、性転換手術も公に行われるようになった。同性にしか性的関心が持てない同性愛と異なり、 性同一性障害は、女性の場合、身体は女性だが精神的には自分を男性と感じる、身体と精神の不一致だ。(当然、その逆もある。) だから女性の性同一性障害の人にとっては、女性の身体は仮の姿、本当の自分の姿ではないという違和感が、いつもついて回るという。 大都市でのゲイ・アピールなどを見るとアメリカは性の先進国と思いがちだ。しかしネブラスカ州などの保守的な中西部は、日本以上 に同性愛を含め性の不統一に不寛容だという。その土壌に加えて、アメリカは開拓の歴史から伝統的に“男らしさ”が尊重されるお国柄 だ。ブランドンが「男性」としてラナの愛を得たことは、ジョンの男としてのプライドを傷つけ、いっそう彼の憎しみを掻き立てたので はないだろうか。 レイプで身も心もズタズタになったブランドンを胸に抱いて、ラナが彼の子どもの頃の話を聞くシーンがある。ブランドンは「初めは 少女だった。それから男っぽい少女になって、最後に男になった」という。そして「今やっと落ち着いた気持ちになれたんだ」と 安らいだ表情を浮かべる。男としてのブランドンを受け入れるラナに彼の心が癒されていくのが感じられる。 ブランドンは母のいるリンカーンに戻ることにし、ラナもともにこの町を出る決心をする。しかし訴えられることを恐れたジョンと トムはブランドンを襲い、射殺してしまう。 実際の事件では被害者は3人ということだが、映画ではブランドンに納屋を貸したキャンディスが一緒に殺される。彼女の子どもが 傍らをよちよち歩く姿が、事件の理不尽さを際立たせる。 ジョンは第一級殺人罪で死刑(現在控訴中)、トムは終身刑、というテロップが流れるなかを映画は終わる。自分らしく生きようと あがいたブランドン・ティーナの悲痛な一生がいつまでも胸に残った。 【◎○△×】8 |